花冷えの底まで落ちて眠るかな(古舘曹人) 私にとり、今の季節は鬼門です。春の陽気は即ち妖気です。人の忌まわしい記憶に苦しめられたり、ふと恐ろしいことを考えていたり、本来なら決してしない間違いをしてしまったり――。おかしくなりそうな不安や恐怖に、日々慄(おのの)いています。
朝、床の中で目を覚ますと、しっとりした空気の中、雨の音が聞こえました。そのときの気持ちを詠みました。 妖気充つ 春の心をなぐさむる 花の雨こそ あはれなりけれ (不穏な気配に充ちた春の落ち着かない心を和らげてくれる、そんな桜の季節に降る雨こそは本当に趣深いものだ)