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蟻とガウディのアパート 第11話(コーヒータイム②)

Un rato de café ② (コーヒータイム)

 どうにも気になって、市立図書館に調べに行きました。
保健所はどんな建物で、どんな歴史を辿ったのだろう?
祖父母のことを知りにいくような、ワクワクした気持ちになりました。

大正4年(1915年)、その土地に県立病院が建てられたこと、
のちに細菌研究所になったことがわかりました。
そこに保健所の機能が持ち込まれたと読み取ってよいのかは、判然としません。
該当すると思われる建物の写真を、一点だけ見つけることができました。
昭和21年の空襲によって全焼したと記載がありましたが、その建物が跡地にあったものと同一なのかはわかりません。 

 はっきりしたことは、前身の県立病院は伝染病院だったこと。
レンガは少なくとも110歳以上であること。

 命あるものは、微生物によって分解されて土になるといいます。
そのふかふかのベッドを温床として、新しい命が生まれる。
自然が操る滅亡と誕生のサイクルは、実に健全で力強いです。
一方、私が子供のころに感じ取った不思議な雰囲気、現在になって受け止めた虚ろな感触は、妖気(妖怪の妖ではなく、妖艶の妖)を消毒液で無力化したようなものだったのかもしれません。 
敷地の隅に咲いていた桜の木を思い出します。 桜の木は柔らかくて赤黒い実をつけました。 夢中になって実を採り、潰して色水にして遊びました。

 最後に付け加える事実は、その界隈に大正末期から30年間栄えた遊郭街があったこと。
昭和31年に売春禁止法が制定されたことを機に、遊郭街は閉鎖されました。
その13年後、そんなこととは知らずに、6歳の私はそこで自転車に乗る練習をしていました。 小さなテーマパークを周遊するように敷かれた直線道路と小さなカーブがあったのが、好都合だったのです。 すでに、面影を遺す建物はひとつもなかったと記憶しています。 

 紙芝居のおじさんがやってきて子供らが集まり、桜色の丸いせんべいに、斜め薄切りにしたソーセージと水飴でウサギの絵を描いてもらうのを楽しみにしていました。
二枚のせんべいで割り箸を挟み、持ちやすくしてくれました。 可愛いおやつを手にして家に帰り、白黒テレビでウルトラマンを見ていた時代です。

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