2022年2月6日14:21- 061.in [Pm プロメチウム][双子座1度] 062.息継ぎする宇宙船 [Sm サマリウム][双子座2度] 063.宇宙禁止令 [Eu ユウロピウム][双子座3度] 064.アート一家 [Gd ガドリニウム][双子座4度] 065.陽水 [Tb テルビウム][双子座5度] 066.コアラのマーチ [Dy ジスプロシウム][双子座6度] 067.コタツの仕事 [Ho ホルミウム][双子座7度] 068.芝から聞いた話 [Er エルビウム]
ここで執り行われるのは百鬼夜行だが、つまり胡散臭い奴らしかいない。まともな奴は参加しない。 奴らは夜な夜な街を徘徊し、練り歩き、その様はおぞましいにもほどがあるが、本人たちにその自覚はないらしい。自らの姿を鏡に映してみたら、そのあまりの醜悪さに腰を抜かすだろうが、あいにくここには鏡がないんでね。 街の住人達は、ドアも窓もぴっちりと締め、奴らの姿が目の端にも入らないよう、最大級の警戒をしている。 そりゃそうだろう。奴らに会って得することなんて、何一つありゃしないんだから。
ゼスプリゴールドキウイは、開いてしまった傷口を閉じるため、真夜中にこっそりと現場に向かった。 この傷口は、無知な無法者たちの手によって、何度もこじ開けられてきた。その度に、補修工事に向かうのがゼスプリゴールドキウイたちだった。もちろん無報酬だ。 現場には、すでに仲間のゼスプリゴールドキウイたちが集まっていた。その輪に加わり、挨拶もそこそこに、粛々と補修を進めた。 無法者たちの間では、この口を開けば、すべての問題が解決し、地上に永遠の天国が訪れる、などという噂が囁かれてい
りんご姫はいつだって、自分が大好きだった。 鏡に映る自分も、映らない自分も、大好きだった。 こんなにかわいい子はいない。 りんご姫は、誰に言われずとも、そう感じていた。 しかし村長は違った。 りんご姫を毛嫌いしていた。 りんご姫のことを思うだけで、腹の底から怒りが込み上げてきた。どうしてそうなのかは分からないが、とにかくそうだった。 村長は、一日一回だけ、りんご姫のことを思うことにしていた。そうしないと、日常生活もままならないからだ。りんご姫を嫌わずに済めばどれ
これが私の最後の晩餐だ。 パールライスがそう思って夕食の席につき続け、はや5125年の月日が経つ。 結局、5125年もの間、パールライスは最後の晩餐をし続けていた。夕食のメニューは、今夜も装いも新たに披露され続け、まるで終わる気配がない。 いつになったらこのくだらない晩餐は終わるのか。 パールライスは絶望に満ちた表情で食事を見つめ、何の感情もなく口に運び続けた。 最初の内は晩餐に同席してくれた友たちも、いっこうに最後が来ない最後の晩餐に愛想をつかし、一人また一人と姿
ポトポルは悲しくて悲しくて泣いていた。 傷ついた身を草原に横たえ、泣いていた。 ポトポルの悲しみ深く、永遠に終わることがなく、永久に癒ることがないように思われた。たくさんの大事な物を奪われ、もう何一つ残されていないように思われた。 しかしその間も、草原少しづつ、ポトポルを修復するために草木の手を伸ばしていた。いづれポトポルのすべてを覆い、広く健全な草原の一部として受け入れるだろう。 たくさんの涙は、草原たちの身を潤し、鮮やかな生命を息づかせているが、その事にポトポルは
マッカーサー博士は、イチジクの夜に焼酎を飲むのが好きだ。 1日の仕事を終えると、彼はそそくさと自室に引きこもり、部屋のシャッターを閉め、誰も見ていないことを確認したあと、懐から慎重に焼酎を取り出す。 焼酎をグラスに注ぐとき、マッカーサー博士の心は踊っている。 すべてはこの瞬間のためにある、と感じる。 マッカーサー博士は、国政を左右する重要な研究に取り組んでいるが、実のところそんな研究はどうだって良い。いかにも研究に命を捧げているかのような様子を醸し出しているが、それは
私は導かない。 貴方の手をひかない。 一人でいけ。
私はもう二度と目覚めないつもりだったのに、結局またここへやってきた。 主の強欲さは死者も蘇らせるほどだし、死の事実も捻じ曲げるらしい。 きこえるか? 俺の叫びが その声は確かに届いた。 直接ハートに伝い、心臓は動き出してしまった。 再び。 いや再びどころじゃない。 何度目だ? 少なく見積もって102回。
彼は言った 自分は幼稚園の頃から 「◯◯はすごい」と言い続けるサクラを 複数人用意していたのだと それは不自然であり 短期的現象なのだと そしてまた、こうも言った 最近は 自動販売機の全ジュースを取り出し おおきな釜に入れて煮沸しなおし 血液洗浄のようにしてから 元に戻しているのだと 私は思った なにやってんの? この人、大丈夫なの? 私は彼の 正気と安全性を疑った 私と彼の関係は いつもそんな調子だった 私は彼を理解せず 彼もまた 私との隔たりに
スイミングプールで2人組の人魚姫に出会った。 海にしかいないと思い込んでいたけれど、プールにもいたのだ。 人魚姫は白人さんの見た目をしている。やっぱり西洋モノなんだな、と私は思った。 人魚姫の1人が、私と一緒に泳いでくれた。 私の体にくっついて、クネクネと縦に全身を波打たせる。そうすると、蛇や龍やウナギのような調子で、水の中を泳いでいける。 これは気持ちがいいなあ、と私は思った。 とてもいい。 泳いでいる間、もう一人の人魚姫は手持ち無沙汰の様子だったので、なんだ
私はポルノ映画に出演することになった。 ポルノ映画とは何なのか私はよく知らなかった。事務所の社長に聞くと、彼はこう答えた。 「人の気分を良くするために作られる映画だよ。つまり”良い映画”ということだね」 なるほど。私は理解した。 事前に用意されるという台本が手渡された。 「ここに書かれてることを言って、ここに書かれてることをやればいい。簡単だろ?難しいことは何にもない」 薄い台本をパラパラとめくってみる。 「つまりそれは……ここに書かれていることを言って、ここに
静かな場所だ。 いったいいつから、この場所にいたのだろう? ずっと滝の音のような、川の音のようなものが聞こえていて、その音に一体化したようになって、ぼんやりしていた。 自分の形がわからなくなった。 かつては俺にも、形があったんだろうか? 多分そう思うんだが。 静かだ。 ずっと音は聞こえているのに、とても静かだ。 俺の目玉は物を見ている。 でもそれはもう、昔のようにじゃない。 俺が形をなくしたのと同時に、世界も変わってしまったようだ。 世界はただ不思議なリ
仲間はみんなしょっぴかれた。 もともと長期的にやろうってつもりはない。速攻で種を撒いて、増やせるだけ増やして、時期が来たら引き上げる。捕まった奴らは足切りだ。それが昔からの俺たちのやり方で、どっかに遺伝子のカケラが残ればいい。 品のいいやり方で生き残れる世界じゃないんでね。俺たちにとってここはそういうところ。 つまりそう、社会の役に立ってみんなに喜ばれる、そういう存在じゃない。一瞬で拡散して、時間の問題で正体が割れて、一網打尽。そういう運命。 でもまた返ってくるよ。み
私がビニールハウスの中でイチゴをやっていると、外側からビニールを切り裂くものが現れた。縦にピーッとナイフを入れていく。私は不思議な気持ちでそれを眺めていた。 深夜だから他のイチゴたちはみんな眠っている。私はもの思いにふけってなかなか眠れずにいたので、この異変に気がついた。 ビニールハウスにはちゃんと人間が出入りするための入口がある。だから中に入りたいのなら、それを使えばいい。なぜ新たに切り裂くのだろう? しばらくすると、切り裂かれたビニールの隙間から、目玉が見えた。
自宅をリフォームすることになった。作業現場の偵察に行った私は、そこで恐るべき光景を目にした。 私のベッドが、縦に3分の1にカットされている。3分の2はすでに廃棄されたようだ。どうやら部屋を広く使うために、ベッドをスリム化したらしい。気に入って購入したフランスベッドだ。奮発して良いのを買った。それがこんなに無残な姿に……。目眩がした。 確かに部屋を広く使いたいとは言った。それは開放感を感じるインテリアにしてほしいといった意味であり、ベッドの幅を犠牲にしてまで実現されるべきも