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繁華街の朝方、路上には吐瀉物の水溜まりがぽつぽつと、まるで出来損ないのほくろみたいに点在…
かもめくんは、羽がないことがコンプレックスだった。 「まったく、こんなに鳥な顔をしている…
「私、幸せになっていいのかな?」 薄幸な女の声は、季節外れのヒグラシを思わせた。男は立ち…
キャンバスに一人の少女を描いた。 「君は、どのようになりたい?」 返答がなかったので、僕…
彼は花束を白痴な山羊みたいに食べ始めた。 「メエエ」 気付いたら彼は山羊の生き霊に取り憑…
もしも世界からトマトが消えてしまっても、カプレーゼおじさんはカプレーゼを作り続けるだろう…
彼女は突然立ち止まると、錨を下ろしたように僕を引き留めた。僕が視線で疑問を呈すると、彼女は黙示録を静かに読み上げるみたいに呟いた。 「この先に、風の城があるわ」 彼女は時々、リリージョナルな啓示を受けることがある。しかし、風の城なる言葉は、これまでの彼女から考えるにいささか抽象的過ぎた。 「身体は巻き上げられ……散り散りになってしまう」 「……でも、音がしないよ」 「それは、都会を生きて垢が溜まっているから」 「落ち葉も、何てことはないよ」 「落ち葉は穢れていな
エリンジウムのブーケを渡されて、私は彼が不倫を理解していることを知った。 彼との関係…
血液が肉体を侵食する。血管が、潮が満ちていくみたいに膨張し、肉体が壊死していく。心臓は沸…
唐突だった。音もなく、予兆もなかった。気付けば、ビール缶は高速で回転をしていた。それは0…
生卵が子宮の微熱で、じっくりと焼き上げられいく。そんな夢をみた。いや、夢ではなく朧気な記…
ダリの彫刻を見て、僕はとても写実的な彫刻であると関心していた。肉体の流線はもちろんのこと…
予兆はなかった。けれども、男の頭は日を追うごとに海老の形へ変形をしていった。男は甲殻類ア…
クーラーの効いた部屋で目覚めると、ふと自分が遺体になってしまったような気がする。それは、死後の世界の疑似体験なのかもしれない。意志を持った遺体として、苦しみのない金縛りの中しばらくを過ごす。明るい遺体安置所だけど、その明るさは遺体となった僕にいかなる寄与もしない。僕はただ遺体として、時間を摩耗するだけだ。死はとても静謐で、あるいは一つの完全体なのかもしれない。そういう自己完結性が、僕はわりに好きだ。 ゾンビになるためにはかなり特別な資質が必要だけど(何しろ、この状態から動か