スタッカート。

繁華街の朝方、路上には吐瀉物の水溜まりがぽつぽつと、まるで出来損ないのほくろみたいに点在している。照りつける日射しには、吐瀉物を焼き払うまでの熱がない。むしろその仄かな熱は、吐瀉物のひどい匂いを助長すして、道行く人を不快にさせる。路上以外でも、この街は嘔吐が繰り返されている。トイレ、階段、店内、茂み、ビルの裏……レンタルルームでは違法な性交が行われていて、ビルのエントランスで泣き崩れる女性がいる。繁華街の朝方。

カラスが、一番大きな吐瀉物溜まりの付近に着地し、ツカツカと近づく。そして、吐瀉物をその嘴でつついた。スタッカート。装いだけは静かな路上に、そのスタッカートは鳴り響いた。動的な繁華街で、この音は句読点になる。酩酊の頭でも、その音は確かに響く。

カラスはそのうち、飛び去った。