血潮。
血液が肉体を侵食する。血管が、潮が満ちていくみたいに膨張し、肉体が壊死していく。心臓は沸いているから、僕には選択肢が残されていない。エンジンがオーバーヒートを望んでしまったら、ハンドルに出来ることは何もないことと同じように。
血液は僕自身になって、やがて皮膚を突き破った。風船が萎んでいくように、僕の肉体は瓦解して、部屋には血溜まりしか残らなかった。液体になるというのは、とても不思議な心地がする。肉体という規定はないが、自己認識はもちろんはっきりしている。例えば、僕の一部をスポイトで吸い上げたら、僕はその双方をパラレルに知覚することができる。肉体の頃は、小指を詰めてしまえば、同時に感覚まで切り離されてしまう。液体はそうでない。僕はこれから、雲になり、雨になる。そのライフサイクルを幾重にも並行して、知覚し続けるのだ。
ちょっとした拷問じゃないか。それにしても、僕は赤い。赤すぎるくらいに、赤い。