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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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記事一覧

灯台守。

灯台がさす一筋の光が、降りしきる雪を照らしていた。暗闇。君の輪郭は辛うじて見えるが、ふっ…

愉快犯Sの饗宴。

犯行現場には短歌を残そう……あぁ、それは辞世の句にもなりうるだろう。でも、愉快犯には愉快…

Another.

人生を変えてしまうことは、それほど難しくない。場所を変え、過去を捨て、その上で多くを語ら…

彼干(ひがん)。

乾涸びてしまった。 「もう駄目なのかな?」 水に浸しても戻らなかったし、もう手段が思いつ…

恐竜代行。

恐竜代行を頼んだら、本当にティラノサウルスが来た。ティラノサウルスの中では小ぶりなんだろ…

ラブレター。

宛先のないラブレターを毎晩書いていた。それは、日記のような儀礼だった。僕は毎晩、特定の誰…

バッドエンド・ロール。

幸福はゼロサムゲームだ。誰かの幸せは誰かの不幸せの上に成り立っていて、その関係性を断ち切ることは決してできない。もしその関係性を超越できれば、その存在は神に等しいんだろうけど、いないということはやはり神様はいないんだろう。 そのことをずっと憂いてきた。幸せを踏みしめても、その下には屍がその腕を伸ばしてきていて、僕の足首を掴もうとしている。逆も然り。僕の苦しみを、愉悦して蹂躙する勝者がいる。人の幸せも、その背後の敗者を思うと素直に祝福ができない。そういう風に思っていた。 で

煙と心臓。

水煙草の炭替えは、僕の性的嗜好を満たす行為の一つだった。 「……失礼いたします」 泥酔で…

絶望のミナ。

ミナは今日も、その絶望とは裏腹な夢を見ている。 ミナとの不倫は、いつも喜びの仮装をしてい…

ノマドソウル。

魂は彼女を求めていた。だから行ってしまった。僕は肉体を遠ざけるべきでなかったのだ。魂も大…

幸せのカバ。

神様はカバが気に入った。 「願いをひとつ、言うがいい」 脳みそに直接語りかけられても、そ…

詩人は空で朽ちる。

空に詩を置いてきた。 照明が穏やかに落とされた機内で、私は一編の詩を認めた。それは、何度…

人魚が溺れる。

あなたは私に形あるものをくれなかった。一度だけ、事も無げにそれを伝えたことがある。彼はロ…

トンネル。

トンネルの空洞に肉体が爆ぜる音が響いた。急ブレーキと並行に車内には慣性の法則が働いたが、乗客は疎らに座っていたので転ぶものはいなかった。彼女の飲みかけのお茶が転がったけれど、蓋はマンホールのようにきつく締めていたので無事だった。 「何かしら」 「事故?」 車掌は動揺を取り繕って、状況を説明する。アナウンスは、間違った時間が流れる車内の針を巻き直す指だ。 「ただいま……線路にいたカモシカと衝突をいたしました。列車の安全を確認いたしますので、今しばらくお待ちください」