画布。
キャンバスに一人の少女を描いた。
「君は、どのようになりたい?」
返答がなかったので、僕は藍色のカシミヤ・ワンピースを着せ、黒色のベレー帽をかぶせた。少女は、運命の人みたいに僕好みだった。
「君は、どのようになりたい?」
返答はなかったので、僕は画廊を背景にして、少女の視線の先にカンディンスキーのコンポジションをオマージュした。それは、僕が流れ星に願うくらいに理想の状況だった。
「そうか」
キャンバスと少女は、二律背反な関係になっていた。キャンバスは少女を描いていることと同時に、少女はキャンバスを内包している。キャンバスは少女であり、少女はキャンバスである。キャンバスを燃やしてしまえば少女は朽ちてしまうし、少女を取り出してしまえばキャンバスでなくなってしまう。では、僕はどちらを選択するべきだろうか?
「そうか」
僕はキャンバスを白で塗りつぶし、乾くのを待った。