見出し画像

頭が海老になった男。

予兆はなかった。けれども、男の頭は日を追うごとに海老の形へ変形をしていった。男は甲殻類アレルギーでもなければ、無類の海老好きという訳でもなかった。男は海老に対してとても中立的な立場であったし、海老が仮に復讐を企てたとして、男をその対象に選定するとは考えづらかった。周囲の人間はパニックに陥ったが、男はとても静かにそれを受け入れていた。

海老型の頭部変容に伴い、男の脳は収縮したのちに消え、やがて意思表示ができなくなった。しかし、男はそうなる前に意見を筆に留めていた。「煮るなり焼くなり、好きにしてください」

好奇心の氾濫を犯した医師は、男を生きたまま解剖した。脊椎があった場所にはゼリーのような粘液で満たされており、そこには再現性の高い成分が見つかった。人間の誰しもが、海老になれる時代が到来したのだ。医師は研究をすすめ、頭だけではなく、徹頭徹尾パーフェクトな海老になる手段を確立した。医師はそれを「ヒューマン・エビイング」と名付け、自身に施した。

ヒューマン・エビイングは、人類の食糧危機に貴重なタンパク源として寄与をした。


いいなと思ったら応援しよう!