カプレーゼおじさん。
もしも世界からトマトが消えてしまっても、カプレーゼおじさんはカプレーゼを作り続けるだろう。
カプレーゼおじさんは、カプレーゼ以外の食事を口にしなかった。僕がトマトを差し入れした時、家の中を見せてもらったが、それは壮観だった。キッチンにはオリーブオイルのストックが100本ほど並んでいて、冷蔵庫の中にはトマトしか入っていなかった。庭にはバジルが綺麗に植えられていて、みんなはバジルじじいとカプレーゼおじさんのことを呼んだ。
「カプレーゼおじさんと呼んでくれるのは、君だけだよ」
カプレーゼおじさんと僕は、時々フレンチキスをした。
「イタリアンなのにね」
カプレーゼおじさんのジョークは、いつもイタリア絡みだった。
「もしも、世界からトマトが消えたら、カプレーゼおじさんはどうするの?」
「カプレーゼなるものが存在していたことを、伝承して生きていくさ」
「……その時は、カプレーゼ以外も食べるの?」
「たらればは、起こりうる前に話しても意味がないよ」