澤岡淑郎

木工を始めて30年になる職人の成れの果て。理性はワインと日本酒、山遊び、テレマークスキー、ガソリンエンジン、書物、そして工具鋼に支配されている。文章は職人さんと仲間へのリスペクト、そしてユーモアをたっぷり込めて書き綴ろう。愛車は160系プロボックス。家具手加工一級技能士。

澤岡淑郎

木工を始めて30年になる職人の成れの果て。理性はワインと日本酒、山遊び、テレマークスキー、ガソリンエンジン、書物、そして工具鋼に支配されている。文章は職人さんと仲間へのリスペクト、そしてユーモアをたっぷり込めて書き綴ろう。愛車は160系プロボックス。家具手加工一級技能士。

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    モノづくりに関して、職人の目線で書いています。

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冷たい穴

 誰でも一度や二度は死にそうになった経験があるだろう。  それは突発的な交通事故のような場合もあれば、自らあえて危険なことに向かった結果であるかもしれない。  そして山に向かうという行為は、その双方の要素を含んでいる。  過去にこういうことがあった。  春先の北アルプス、奥穂高岳に日帰り登山をした帰り道の白出沢。ガレ場を過ぎ沢沿いを歩いていると、突如としてズンという落雷のような轟音が谷中にこだました。鳥の群れが一斉に飛び立つ。だが雷が鳴るような天候ではない。  何事かと思い

    • 老化

                             (2800文字くらい) 心は少年、体は壮年。 名探偵コナンと真逆な状態。 ピーターパン症候群? いやいや、ある時を境に年を認めましたよ。 それは義歯、つまり入れ歯を装着しなければならなくなった40代半ばのことだ。この時、一度に3本の奥歯を失った。 失ってみて当たり前のことが分ったのだが、歯というものは上下のセットで成り立っているということだ。つまり、下あごの3本を抜歯した私は、6本の歯を失ったことに等しい。 いや、びっくりするほ

      • 劣化

                               (9200文字くらい) 飛騨地方は冬に向かってまっしぐらであります。 先日、北アルプスの奥穂高岳山頂を中心に、うっすらと雪を確認することができました。毎年この時期、穂高連峰や乗鞍岳に雪を見つけると、 「ウヒャッホー」 と雄叫びをあげずにはいられません。 山の雪を確認するタイミングは、ほぼ100%クルマの運転中なので、いくら叫ぼうが自由なのです。 そう。現世でフリーダムなのは唯一ひとりぼっちの車内、あるいは誰もいない山中だけなのです

        • 熱を捨てるという贅沢

                                 (2600文字くらい) 昨日、広葉樹の森を歩いていて、またこの表現を思い出してしまった。 私は、本はせいぜい月1冊読めばいいくらいの、読書家でもなんでもない普通の人間なのだが、妙に気になる表現があると意外としつこく覚えている。 この華麗な病気という言い回し、三島由紀夫らしいよなあと思いながら、目の前の紅葉を見ていると、本当に病気にかかっているのではないかと思えてくるから不思議だ。そして病気だと思えば、紅葉に良いも悪いもなくなってし

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          4本

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          床屋

                                   (3500文字くらい) ・デペイズマン ・デカルコマニー ・渡辺省亭 PCの周りを整理していたら、紙の資料の隅にこんなメモが残されていた。 どっから見ても私の字だ。だが、何のことやらさっぱり分からない。 資料は職場の議事録で、日付が2024年6月19日と記されている。 そんなに古い話ではないのに全く思い出せない。 メモをするとメモがどこにいったのか分からなくなる、というのは古典的なジョークだが、私くらいの上級者ともなればメモ

          痛すぎる話 後編

          Tome館長様、素敵な作品ありがとうございます。また使わせていただきました。ヘンな記事で申し訳ありません。                        (4000文字くらい) まこちゃんの話はいつもサビの部分だけ強調して言うものだから、全体の話の流れがイマイチよく分からない。同じB型同志のことなので、その辺の分かりにくさはよく分かる。血液型で性格なんか決まるわけないだろ、という意見には、はあーごもっともでございます、と言うしかないのだが、私の周りの一風変わった連中は、現実

          痛すぎる話 後編

          痛すぎる話 前編

                                   (4200文字くらい) 小学校6年生の時に、埼玉から岐阜に引っ越しをしたのだが、その年は八方ふさがりで踏んだり蹴ったりだった。 まず、夏休みの直前、大宮の友人達ともうお別れだというときに、慢性的な腹痛に襲われ、虫垂炎になって開腹手術をし、一週間入院した。退院した時には既に夏休みに入っており、その後抜糸を無事終えた。 縫い合わせた箇所に傷みがなくなるや否や、今度は親戚と箱根旅行へ行くことになった。 楽しいはずの旅行1日目、あろう

          痛すぎる話 前編

          10年後も手に入るもの

                                  (3800文字くらい) めんどくさがりなのである。 職人が面倒くさいとは、何事であるかと言われそうだ。 細かい仕事も、手間のかかる作業も、根気よくやらねば良いモノなんかできはしない。 おっしゃる通り。 だが、面倒くさい作業というものは、大体においてスムーズに進まない作業であったり、苦労の割に結果が伴わない作業を意味するものだと思っている。 そこで、改善を行う。 改善とは、一義的に安全性、品質、生産性を向上することなのだが、私はそ

          10年後も手に入るもの

          虫に怯える田舎暮らし

          閲覧注意画像があります。 虫がきらいな方はご遠慮ください。見出しにもうムカデが出てしまっておりますが・・・                         (4500文字くらい) 遂にそこまでやってきた。 もう、すぐそこまで来ている。 ああ、君のうしろに、もう、その影がああ! 本日午前12時07分、第一陣の軍勢と思わしき斥候を誤って踏みつぶした。 「お、チミ、今日の弁当はタイ料理かね?」 弁当にタイ料理?なんじゃそりゃ。んんーパクチーの香り。コリアンダーか香菜か。い、いや

          虫に怯える田舎暮らし

          カタルシス

                                   (2700文字くらい) 石見堂が手術を受けることになった。 私と石見堂、諌山、クーロワール髙田の4人は悪友同士なのである。 20代の後半に、もうあまり無茶はできなくなる歳になってゆくなあ、ちったあ自重した方がいいんじゃね的な自戒も込めて、我々組織名を、 「MMR](Misoji Mountain Research) と定めて活動を行ってきた。 だが気が付けば、とっくの昔に三十路どころではなくなってしまった。 山だの雪だの沢だの

          カタルシス

          日本酒への愚痴

          日本酒を日常的に飲むのを止めることにした。 理由は単純で、安くて旨い酒がそこらで買えないからだ。 買えないというのは言い過ぎで、あるにはある。ただし、ここは田舎なので選べる数は非常に少ない。近場に酒蔵はたくさんあるのだが。 もちろん、ネット通販で買えばいくらでも手に入るのだが、その手間とかクール便の送料を考えると、どうしたって中堅以上のクラスを選ばざるを得ない。そこまでして安旨を買おうとは思わない。 これは好みの問題なので、個人的な意見であることを予めお断りしておくのだが、

          日本酒への愚痴

          祭り、怪談、お化け屋敷

                                  (2000文字くらい) 本日、地域の祭りが行われた。白山神社の例祭だ。 私はこの町に来てから、まだ10年も経っていない「よそ者」なので、祭りの当事者としての実感はあまりない。つまり、闘鶏楽とか獅子舞とか笛太鼓の練習に参加したこともないし(年齢的なこともある)、鬼が二体!先頭に立つ行列にも並んだことがない。 なにせ、コロナ禍でこの間ずっと中止となっていた祭りなのだ。 そして今年は育成委員(こども会の運営)になったこともあり、こども

          祭り、怪談、お化け屋敷

          土の香り

          今朝森に入ると、ふわっと、きのこの香りが風に乗ってきた。 しいたけダシのような、アミノ酸系のおいしそうな香りだ。 その発生源を探し回るのだが、・・・コレか? 最初に断っておくと、私はきのこに関して全く無知だ。勉強しようとも思わない。何故ならば、モノとかヒトの識別能力が極端に低いのだ。 まず、テレビに出ているタレントの顔は全て同じに見える。男も女も一緒。 非常に失礼な話なのだが以前、藤井隆氏とケンドーコバヤシ氏の判別がつかずにバカにされたことがあった。さすがに自分の子は分かる

          5Sと所作

          初期の頃しか知らないのですが、「美味しんぼ」というマンガがあります。 主人公の山岡士郎は、美食家で芸術家である父、海原雄山に幼いころから料理の英才教育をうけるも反抗し勘当されるのだが、運命には逆らえずその後自分も料理の道を歩んでゆく。 極めてザックリですがこんな出だしだったと思います。 私はこのマンガの素敵なところは、調理時やそれを食すときも、「所作」とか「礼儀作法」について重きを置き、その重要性を説いているところだと思っています。 「そんなことで、味なんか変わらねーよ」 と

          続・珍道中

                                      (3408文字) 「あー千葉いきてえ千葉いきてえ」 もう半年も前から毎日毎日飽きもせず、呪いの言葉のようにつぶやき続けるわが子たち。(女子) 帰省をして、じーちゃんばーちゃんと従妹たちに早く会いたくてしょうがないのだ。 それで、念願かなって先週ようやく行ってきたのだが、その道中は御多分に漏れず珍道中であった。 起床は午前2:30である。 何故かと言えば、千葉県浦安市にあるにもかかわらず、「トーキョー」と名の付く海のテー

          続・珍道中

          珍道中

           子ども2人を連れて、海に出かけた。 住んでいるところは山間部でおまけに雪国である。 どっちを向いても山ばかりで、ちょっと隣町にゆくにも峠を越えてゆかなくてはならない。 子ども達も山にはウンザリしているようで、森とか山とか虫とか熊とかそういう単語には嫌悪感すら抱いているようだ。 だから海に行く。 この特別感は海なし県の民にしか分からない。私は今まで埼玉、群馬、岐阜という日本三大海なし県(勝手な想像)にしか住んだことがないので、映画「翔んで埼玉」とかを観ると、ひどく共感してしま