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虫に怯える田舎暮らし

閲覧注意画像があります。
虫がきらいな方はご遠慮ください。見出しにもうムカデが出てしまっておりますが・・・

                        (4500文字くらい)
遂にそこまでやってきた。
もう、すぐそこまで来ている。
ああ、君のうしろに、もう、その影がああ!

本日午前12時07分、第一陣の軍勢と思わしき斥候を誤って踏みつぶした。
「お、チミ、今日の弁当はタイ料理かね?」
弁当にタイ料理?なんじゃそりゃ。んんーパクチーの香り。コリアンダーか香菜か。い、いや、違う。
この刺激臭は・・・
カメムシだー!
山から気温の低下につれて里に下りてくるカメムシの大群。
何百何千とサッシの窓枠にビッシリと張り付き、うごめく虫共。
そいつらが大群のまま冬眠に入るものだから、様々な日用品のモノの裏側に潜んでおり、ガシッと掴んだ裏にはカメムシのコロニー。
「うっぎゃー」

田舎暮らしはまず虫との共生を覚悟しなければならない。
そんなの全然ダイジョウブーとか言っているチミ。
全っ然わかっていない。
ホントに全っっ然わかってねーと思う。

最初はゴールデンウイークの前後だ。
まず出現するのは茶色の長い毛がフサフサと生えた極太の毛虫がアスファルトの上を我が物顔で闊歩する。クルマで通るたびに踏みつぶしそうになる密度でもって現れる。成虫が何なのかは未だに謎である。とにかく太い。
こいつらは、稀に侵入してくるものの、まあいい。
問題は梅雨時期になると、突然の雨に驚いた各種毛虫共が一斉に屋内へと入り込んでくる。

何なのこのツノ生えたやつ

よくわからんこういう輩が数匹徒党を組んでワーっと侵入してくる。
いやびっくりするでしょこんなのいきなり入ってきたら!
結構太いんだよこれ!しかもすごいスピード!
一度、ヘビトンボの幼虫も共謀して上陸してきたことがあった。
あいにく画像がないのだが、池のギャングとか言われている奴で、その姿はウルトラマンに出てくる怪獣そのものだと思ってもらって差し支えない。そいつは長さ10センチくらいなので、サイズが違うだけである。噛みつかれたら、指とかチョン切れるんじゃないかと思うような完全武闘派だ。

10年くらい前、マイマイガが大発生してニュースでも取り上げられたことがあった。あの時は、正確に言うと、マイマイガの毛虫が大量発生した。
どれくらい大量だったかというと、山の木の葉っぱが全部食われて丸裸になった。毎朝の日課はペットボトル(2L)に水を入れたやつに毛虫を捕獲して満タンにすることだった。市も捕獲方法を喧伝していた。人を見れば、大体背中に毛虫がついていて、登っている最中だった。
その毛虫が全てガになったかと言えば、それが自然の摂理なのだろうか、「ゾンビウイルス」なるものが毛虫界で蔓延し、成虫になる前にマイマイガは全滅した。
あの毛虫が全てガになっていたらと思うと、生きた心地がしない。
チミ、これでも大丈夫と言えるのか。

次に現れるのが初夏。雨が降って上がって真っ暗になった20時頃だ。
生暖かい風とともにそいつらはやってくる。
「ん?」
残業中のクソ暑い工場の、全開となった窓から何やら怨霊のような黒いモヤがワーっと侵入してくる。
「わっ、わわっ、窓閉めえー」
虚をつかれた職人たちが、慌てふためいて窓を閉めにかかる。
それは、羽虫の大群である。
恐らく何千何万という夥しい数の羽虫が一斉に沸き、建屋の中に侵入してくる。だがどういう訳かその大群は、必ず建屋の中で集団死して工場の床は広範囲に渡って死屍累々、まるで一斗缶に入っている黒ゴマを全てぶちまけたかのような騒ぎになる。クモの巣にも全面張り付いていて、粗挽きブラックペッパーが表面にびっしり付いているハムみたいになっている。
その量たるや、まさに掃いて捨てるほどの量なのだが、一体何故ここでくたばるのか全く意味不明。生きて飛んでそのまま外にいってくれればよいものを、何故か建屋の中で絶命しやがるこの大迷惑。
チミ、それでも大丈夫と言えるのか。

その他、ハチやアブの類いは言うに及ばず。
毎年必ずキイロスズメバチに刺される人がいて、労災になる。
アブなんて、何故か緑色の目をしているのに「メジロアブ」というやつは、ハチほどではないにしても刺されてボンボンに腫れる。
「アブは綺麗な沢があるところにしかいないんですよー」
ちょっと待て、その説得力のかけらもない言い分なんなの?
刺さないだけハエのがまだよっぽどマシだ。
ひどいときなんか工場の中を10匹くらい飛び回っていて、仕事をしてるんだか、ハエたたきでアブ退治をしてるんだか分からなくなることがある。
子ども達なんか、アブ退治がゲーム化していて、
「100匹撃墜達成!」
とか喜んでやっている。毎日やってほしい。

まあとはいえ、田舎でなくとも困った害虫は、何と言ってもムカデとゲジゲジだ。

なんでこんなに気持ちわるいんだろう。いきなり出てくるから心臓に悪い。

ゲジゲジを最初に見たのは小学生の頃、友人と岐阜の鳥羽川の河原で遊んでいて、たまたま石をひっくり返したらそいつがウジャっと出てきて背筋がゾビゾビしたのを覚えている。友人が面白がって次々と石をひっくり返すと、そいつはかなりの確率で潜んでいて、出てくるは出てくるは。もうトラウマもんですよ。
それから現在に至るまで、行く先々にゲジがいるか、いないはかなりの重要なファクターとなっているものの、結局どこにでもいるという認めたくない事実を認めざるをえない状況に追い込まれている。
家だけは・・・と思っていたのだが、家にも上がり込んでくる。
子どもとテレビを見ていると、突如として床をワーっとこちらに向かって走ってくる。楽しい団らんが、突如ハチの巣を突いたような騒ぎとなる。
「うわあー」
「ヒー」
手とおしりで必死に後ずさりをして手に手に武器を持ち(マックのおもちゃとか)、親の仇と言わんばかりの大騒ぎ。
そんな話をすると、決まって出てくるのが、
「ゲジはゴキを捕食するから益虫」
先ほどのアブ推し説得力皆無の話と同様に、そもそも飛騨にゴキはあまりいない。いないものを捕食なんかしないし、いないんだからまるで無関係。
そんな要らない情報でゲジの評価を上げようったってその手には乗らない。
ところが今年。
今年はやけにトカゲを多く目撃した。
私はトカゲとかカエルの仲間なので、目撃するたびに心の温まるひとときを過ごしていた。
その代わり、ゲジはあまり見なかった。
これは、トカゲがゲジを食っているんじゃないかと思っている。

また、恐ろしい想像として、家の縁の下がいつの間にかゲジ王国になっているのではと思うことがある。
うちの奥さんは、掃除ロボットとか食洗器が嫌いで、なぜ嫌いなのかはここでは割愛するのだが、縁の下にこそ掃除ロボットを放っておけばよいと思うのだ。あのエリアは恐らく魔界であると思われるので、そういう場所にこそロボットに任せたいものだ。
え、満タンになったらどうするのかって?
・・・トカゲを放ったほうがいいような気がしてきた。

ムカデに関しての恐ろしい話には、枚挙にいとまがない。
奴らは基本的に人間様が住んでいる住居の中だろうが、昼だろうが夜だろうがお構いなしに行動している。ゲジも一緒だが。
夜、布団で寝ていると、フトモモの内側がモゾモゾすると思って、手を伸ばしたら激痛が襲って、モモがボンボンに腫れあがった話とか、やはり寝ていていきなり首筋にボトッと落下してきてウジャウジャッとして大パニックになった話とか、風呂に入っていて体を洗っていたら、いつの間にか足を登ってきていてどうすることもできず、火傷覚悟で熱い湯をかけて難を逃れた話など、いくらでもある。
しかも、本当か嘘か分からないのだが、たたき潰すと断末魔の叫び声を上げて、仲間の軍勢を呼び寄せるので絶対に殺害してはならないとか、長さ方向に切ってしまうとすぐに2匹に増えるので、必ず縦に一刀両断して退治せねばならないとか、信じられないような都市伝説の宝庫であるのもムカデの特徴だ。
大体、あんな高速で移動する生命体を縦に切るとはどういう神業を使えばよいのだろうか?走って逃げても追いつかれる速さなのだ。私の思いつく限りでは、陰陽師の秘術とかを使わないと絶対に無理だと思う。

私の友人は夜、クルマを運転している際、ルームミラーに特大のムカデが張り付いていることに気が付き、動揺した。
だがこちらの動揺に気が付かれ、逃げられでもしたら、もう運転なんか恐ろしくてしていられないので、平常心を保ったまま緊迫感の中思考を試みた。
そこで彼は妙案を思いついた。車内にガムテープがあることに。
意を決し、路肩に停車。ガムテープを20センチほどの長さに切りとると、全集中ガムテープの呼吸壱の型ニトムズ粘着でもって捕獲に成功すると、そのまま脇のガードレールにムカデごと貼り付けて、難を逃れた。
この素晴らしい武勇伝を聞いて以来、私のクルマには常にガムテープが常備されている。
そして、遂にそれを使う時がやってきた。
ただし、侵入者はムカデではなく巨大なカマキリであった。
奴はカーステの中央付近でカマを研いでおり、時折飛翔しようと羽を広げたり閉じたりしている。車内で飛ばれたら、それこそ大事故になるかもしれないと思い、動揺に気づかれないよう、傍のコンビニへと入った。
見ればみるほど立派なカマキリだ。
だが、この羽を半分広げているカマキリにガムテープはさすがにどうなのよという躊躇があった。薄い羽根がガムテープに張り付き、それを無理やり剥がそうとするカマキリを想像して情けを感じてしまった。
・・・素手か。
私は虫がキライだ。できれば触りたくない。
だがやるしかない。意を決して素手で掴んで社外に放り投げようとした。
「イテテイテテイテ」
指をギコギコされるもガマンして窓から外に放り投げた。
指には切り傷があり、血が滲んでいた。
その後、私のクルマにはガムテープに加えてゴム軍手を常備することとなった。

あるとき、新入りが相談してきた。
家にムカデが出るので、恐ろしくて寝るときは、部屋にテントを張ってその中で寝ているのだと。
「まあ、古い家にはでるんだよ。諦めな」
ごめん、こっちは何の同情もしない。対岸の火事で面白いだけだ。
だが、彼は本当に困っている様子で、後日こんなことを言ってきた。
「神社に相談しに行きました」
「え、神社?」
そういえば、彼の家の近くにはデカくて由緒ある神社がある。
これはもはや、神頼みしかないと思ったのか。
「で、何かいいことあったの?」
「そういうことにはコレ、もうコレしかない!と言われてお札を買いました」
「お札!?」
いやちょっと待て、確かムカデって毘沙門天の使いじゃなかったっけ?
でもありゃそもそも仏教の流れか。ってことは、あの神社は神仏習合には否定的な立場なのか。でも結局七福神になってたよなあ。神様が神様をお札で封じ込めることなんてあるのだろうか。でも日本書紀では神様同士喧嘩してたりするからまあいいのか・・・
「それで、お札の効きめはあったのか?」
「なさそうです」

結局彼はその後、引っ越しをした。
虫なんかダイジョウブと言っている読者諸兄。
本当に大丈夫なのか、今一度熟考されたし。

最近アホな話ばかりなので、次はまじめな話しにしようかなあ・・・

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