gigi

小説用置き場です。紙媒体にすることを目標にしています。

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最近の記事

新しい歴史

〈白い本〉  ユハは図書館の前で立ち止まった。なんだか奇妙な胸騒ぎがした。自分は何度もここに来ようとして、まるで部屋に拒絶されているかのように一度もたどりつけず、今はじめてようやくここに来られた、というようなおぼろげな感覚が不思議とあった。  ユハが図書室の扉を開けて入ると、すぐ向かって右の入り口付近カウンターから声がかかった。 「失礼。あなたは……女神ユハさまですよね」  ユハは今まで散々、神と呼ばれたり、そのために経血さえ厭われた経験から、思わず不機嫌な声で返事をした

    • 円卓会議もどき

      〈円卓会議もどき〉  「これから生徒会の定例会議を……ゴホン。ええと、円卓会議を始めたいと思う」  エイベル皇子が壇上から立ち上がって、突然そんなことを言い出したので、会議参加者である各クラスの代表者たちはしきりに目配せしあい、皇子の心身の不調を案じた。  定例会議には爵位が高く、士官学校卒業後にはすぐ国政を担う立場にある、校内でも殊に期待と責任を負った学生たちが参加しており、その代表者はクラスに一名ずつのみ選出されている。たいていは家の力の有無によって。  こういったと

      • 兄のペニスを舐めた頃

        みんなが好きな私は クスリでハイになってる時 みんなが好きな私は とにかく… 私じゃないの あれは私じゃない 本当の私じゃない 彼が私のクリトリスをまさぐったとき 私は傷つくべきだった そして苦しんでいれば 被害者でいられた 私はあのとき最高に興奮してたの 女であることを祝福した そして兄の睾丸を頬張り 父の尻を舐めた 父に犯されればせめて 憎むこともできた 私はただ焦がれた ある日男が現れて 塾の帰りに拐ってくれることを そして激しく痛めつけられレイプされることを 両

        • わたしの美しき人生論 第二章第4話「万人の死の上の塔」

          〈塔〉  ユハには、死の記憶があった。  正確にどのように死んだのか、具体的なことはなにも思い出せないけれども、たしかに自分の精神が肉体を離れていく瞬間の痛みや絶望を思い出すことができた。    そして明朝にもまた、全く同じ悲嘆を味わった。  太陽がのぼるころ、窓いっぱいに金色の強い陽光が差し込み、ゆくりなくユハは目が覚めた。  首元にしめったひりひりとした痛みが走る。目線を下に落とすと、自分の足がぶらんと垂れているのが見える。ユハは夜のうちに首を吊り、そのまま覚醒し

          詩「亡き王女のための」(2018)

          あなたの名前が 私の身体を消した それからテーマパークのように なにも見えなくなった

          詩「亡き王女のための」(2018)

          詩「オレンジの片割れ」

          狂気と火遊びする日々は終わりだと 諦めているあなた 俺たちに明日は無かったんじゃなかったの? 毎日、毎日6時に起きて、 あの満員電車に乗りたいの? 私はね、 自分がだんだん綺麗になっていくのがわかる お花がパッと開くみたいに 朝 鏡を見るのが好きになってきた なのにあなたは、 また疲れた顔で肩を落として どうしてなの? 馬鹿みたいにどうして あなたはわからないの? 私たちに明日なんていらないのに 踊るように愛して もっと テキーラより刺激的に 私の

          詩「オレンジの片割れ」

          「戦争学校」(仮)設定・キャラクター表

          東京から深い海の中を走る列車に乗ると、地図にも記されていない島々がある。 そこにあるのは「戦争学校」。日本人をはじめ、アメリカや中国、ロシア、欧州ほかの国々の学生たちを集め、「本物の戦争ごっこ」をしていた。 「戦争日」は水曜日。それ以外は勉学や恋愛、部活に励む高校生たち。国籍を隔てた友情も育まれるが、水曜日の早朝に低く響くサイレンが鳴り響くと、歩兵たちは銃で撃ち合い、パイロットは空爆し、海から砲撃を放つ。 なんのためにこの学校があるのか?私たちはなぜ殺し合うのか? 友人

          「戦争学校」(仮)設定・キャラクター表

          わたしの美しき人生論第二章3話「聖母」

           ママのことが聞きたい?  うーん、どこから話そう。  ママのことは大好きだから、最初から話したいけど、私は忘れっぽいの。  ママのことを思い出すとき、和室の窓際に座って外を眺めている姿が最初に目に浮かぶ。  小学校から帰ってきた私に気づくと、ママはいつも優しい笑顔で振り向き、その薄化粧したきれいな顔が西日に照らされているのを見て、私は、ママは本当にきれいだなあ、と胸がどきどきした。  私がママを思い出すときはいつもそうだ。  ママは本当にきれい。学校の先生も、クラスメート

          わたしの美しき人生論第二章3話「聖母」

          わたしの美しき人生論 第二章2話「憂鬱な少年たち」

          〈嫌われ者の夏〉   年末が近づく師走の日、城下町は爆ぜるような太陽に照らされていた。  士官学校に預けられた少年たちは汗ばみながら、中庭や食堂で午の休みをとっていた。  サマーズ伯爵家唯一の正妻の嫡子、クリステン・サマーズは久々に戻ってきた街の雰囲気の変わりように飲み込まれないように、深呼吸をした。一、二、三。そしてアイロンをかけた制服の襟をただし、ボタンが外れていないか、革靴の紐が緩んでいないか確かめ、また歩き出した。  寄宿舎の離れ、学校の敷地の東側は茂った森が数エーカ

          わたしの美しき人生論 第二章2話「憂鬱な少年たち」

          今日は木曜日だからまだ薬たくさんのんじゃいけないのに 料理はできないしお餅も焼けない 好きな人はずっと居ない お酒は飲めないけれども本を沢山読むのよそれでいつか本を呑めたらいいのにと思う アンナ・カヴァンの『氷』はどんなカクテルか知ら 淋しい私の肢体をぎゅっと 人生に耐えられるように

          わたしの美しき人生論 第二章1話「愛をめぐる騒乱」

          第二章 <寝室にて>  曇り空が一瞬の晴れ間を見せ、窓から降り注ぐ太陽の光に、ユハは思わず眉をしかめた。カレンダーが示す12月の領域を越え、世界は初夏の新鮮な陽気に包まれていた。  これも、すべて豊穣の女神たる私が……  彼女はゆっくりと瞳を開き、自らが再びこの悪夢のような世界に足を踏み入れたことを認め、鬱々とした心持ちに囚われた。 「何か夢を見ていたような……」  彼女はぼんやりと思い返すものの、夢の内容は曖昧で、ただ懐かしさに涙がにじむような心地だけが残った。 「ユハさ

          わたしの美しき人生論 第二章1話「愛をめぐる騒乱」

          わたしの美しき人生観 幕間「真夏の刑死」

            8月。熾烈な酷暑が、私達の町を飲み込んでいた。  私はその日、コンビニのアイスキャンデーを舐めながら、いつものようにスマートフォン・ゲームに浸っていた。外の世界との関係はあいまいで、未来のことなど考えたくなかった。周りは受験モード一色だが、そんなことよりも、どうせこの先、「あの計画」がある限り、普通の大学生として平凡な日々を送ることなどできないという諦念が頭を占めていた。高校を卒業したらアルバイトでもしようかと、ぼんやりとした考えが頭の隅をかすめる。それが「あの日」以来の

          わたしの美しき人生観 幕間「真夏の刑死」

          透明なからだ

          おとこが色えんぴつをからからとしながら きみ、いろにはいろんな側面があるのだよと 裸の2人は。 しかし女は 何も言わずにいる からからと肌色のいろえんぴつが何本も コップの中で揺れている (2024.4.18) 2022.11.26の夢日記から抜粋

          透明なからだ

          わたしの美しき人生論 第7話「お赤飯を炊かなくちゃ」

           ユハは眼前にそっと置かれたホットワインを見つめる。 「なにこれ?」と彼女が問いかける声には、ひどいいらだち、まるで朝の朗らかさはすっかり消え、相手を非難するするどい怒りの音色がこもっていた。  ニッキは、まるでだれかから頼まれた伝言を伝える使者のごとく、「ホットワインです」と、静かに、動揺する気配もなくこたえた。 「お酒なんか望んでないよ。もっと実用的な、痛みを和らげる何かはないの? ひどい生理痛なの」と、ユハは無意識か、あるいはニッキにあえて気づかせるためなのか、大

          わたしの美しき人生論 第7話「お赤飯を炊かなくちゃ」

          わたしの美しき人生論 第6話「鉄の貞操帯」

           雨はいつの間にか止み、灰色の雲が空をおおっていた。 「まず、これを」  教区長は、まだ四十にもかからないくらいの壮年の男で、髪を長く伸ばし少しの鬚をたくわえていた。ユハはぼんやりとした頭で、彼は髭を剃ったらきっともっと若く見えるだろうと思った。  教区長に手渡されたものは、ずっしりと重い鉄製の何かだった。ユハはそれがなにか理解した瞬間、教区長に向かって思い切り投げつけた。 「ユハ!」  ネイヴはユハを叱りつけ止めようとしたが、ユハは恐ろしく鋭い目でネイヴを睨みつけた。それは

          わたしの美しき人生論 第6話「鉄の貞操帯」

          わたしの美しき人生論 第5話「ベトザタの血」

           ユハはネイヴを入れた四角い鉄格子の檻の鎖を引っ張りながら、ネイヴの指示通りに道を歩いていった。町というより広い城の庭園が延々と広がっているような場所で、城下町からは門を隔てた私有地だった。 「ねえ、ネイヴ、ここは学校?」 「うん、まあ、そうじゃな。学び舎でもあるし、優秀な軍人を育てる場所でもある」 「ああ、なんだかそんなことをあの人も言っていた……」 「あの人?」 「栗毛の男の子で、この国の王子様だって言ってた。魔法の箒に乗って、窓際までやってきて挨拶してきたの。ここに住ん

          わたしの美しき人生論 第5話「ベトザタの血」