わたしの美しき人生観 幕間「真夏の刑死」
8月。熾烈な酷暑が、私達の町を飲み込んでいた。
私はその日、コンビニのアイスキャンデーを舐めながら、いつものようにスマートフォン・ゲームに浸っていた。外の世界との関係はあいまいで、未来のことなど考えたくなかった。周りは受験モード一色だが、そんなことよりも、どうせこの先、「あの計画」がある限り、普通の大学生として平凡な日々を送ることなどできないという諦念が頭を占めていた。高校を卒業したらアルバイトでもしようかと、ぼんやりとした考えが頭の隅をかすめる。それが「あの日」以来の私の日常だった。
何とも言えない不安が私を覆っていた。蟻が皮膚を這うような感覚。何度も自己暗示を繰り返す。大丈夫、大丈夫だよ。まだ、時間は残されているはず。私たちに与えられた最後の任務を完了するための貴重な時間。
退屈な、しかしキラキラとした18歳の夏。
部屋の窓際で、アンリは壁にもたれかかって本を読んでいた。彼女はいつも通り無口で、心に響く言葉など何一つ投げかけてこない。私がそわそわしているのを知りながらも、彼女はそれを意に介さない。彼女は「あの人」に似てきたのかもしれない。あるいは、あえてそうしているのかもしれない……彼女のようになりたいという願望から。
私の不安はいつも現実のものとなる。あのすべてが始まった夜、「炎」を目の当たりにして以来、私の嫌な予感が当たることを知っている。喉が渇く。体が熱くなり、外の蝉の声がうるさく響く。脳内で爆発するような音。
そのとき、家の電話が鳴り響いた。プルルル。その音が人工の風で生暖かく重苦しい空気を切り裂いた。私たちは顔を見合わせ、私は震える手で受話器を取った。
・・・
その後の記憶はほとんどない。意識を取り戻したとき、アンリは私に冷水を浴びせ、必死に私を起こしていた。彼女の重い表情が、電話で告げられた事実を、否応なしに思い返された。
「再審請求をしていなかったのね、兄さん」
「ユキくんが死んだ……まだ二年しか……なんで……」
アンリが私の肩を強く掴み、ほとんど魂が抜けかけた私を必死に留めた。「これもジュンコさんの意思なの。私たちが動き出さなければならないのよ」
私の体は震え、悲しみと不安でいっぱいになり、アンリから離れられなかった。アンリの焦燥が目に映っていた。
「たぶん、再審なんて最初から考えていなかったのね。早くジュンコさんのもとへ行きたかったのよ、兄さんは……」
ユキくんはもういない。涙も出ない。ただ、彼がいつも私たちのために持ってきてくれたソーダ味のアイスキャンデーを思い出すだけ。彼の敏感で白い肌が、夏の日差しで赤くなっていたこと、彼の柔らかく優しい笑顔、長いまつげ、そしてジュンコさんを見つめる時の慈愛に満ちた瞳も。ぜんぶ覚えてる。
夏の終わりに、ユキくんの命は失われた。彼の若さ、彼の未来、すべてが盛夏のなか、花火のように儚く散った。
「私も……ユキくんたちのところに行きたい……」
「だめ!」
アンリは静かに、しかし断固と言った。「あの世に行くことはできない。私たちには、あの二人の遺志を継ぐ責任があるの。死ぬのはそれからにして」
アパートの薄暗い部屋に太陽の光が差し込む。煮えたぎるような暑さが、すべてを焼き尽くそうとする。しかし、物語はまだ終わっていない。星のように、彼らの物語を見守るために、あと少し。
でも私、もう疲れちゃった。