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雑誌「1番近いイタリア」

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雑誌「1番近いイタリア」に関する記事。 マンマのイタリア家庭料理研究家Aoi Aurora、こと中小路葵が編集長を務める季刊誌です。 コンセプトは「日本の家庭で楽しむイタリア料…
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#ボローニャ

編集後記(「1番近いイタリア」2025冬号)

編集後記(「1番近いイタリア」2025冬号)

※この記事は「1番近いイタリア」2025冬号からの抜粋です。

2024年、大晦日、ボローニャ。窓からはよく晴れた冬空が広がっている。年に一度、一番大きな行事のクリスマスが終わり、町は穏やかに年の暮れを待っていた。大通りに面したこの通りは、いつもなら騒がしい車のクラクションやバスのアナウンスも、今日ばかりは静まり返って、時折車が通る音だけがこだましていた。自身もまた然りで、賑やかな1年の暮れ、今は

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この世界の真ん中で(「1番近いイタリア」2025冬号の巻頭エッセイ)

この世界の真ん中で(「1番近いイタリア」2025冬号の巻頭エッセイ)

真夏の太陽は、昼間照りつくような炎であったことを忘れさせるかのように、淡く柔らかい夕陽となって空の向こうに沈んでいった。残り陽が描いたオレンジと青のグラデーションが、一刻、一刻と紺に染まっていくと、ふっと夜風が吹き抜ける。ここは、ヴェローナのローマ劇場。2000年前の遺跡で、今、野外オペラが始まろうとしている。

前触れもなくオーケストラがプーと試しの音出しを始め、ゴーンという太いドラムが鳴ると、

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「1番近いイタリア2024秋号(Vol.19)」刊行!

「1番近いイタリア2024秋号(Vol.19)」刊行!

「1番近いイタリア」2024年秋号を刊行!

今号ではや第19号、温かい読者の皆様に支えられていることに感謝です。

イタリアで見つけた「土地と生きる食の豊かさ」を、皆様に生の魅力たっぷりでお伝えできれば幸いです。

さて、今号はいかに!

2024年秋号巻頭エッセイは「海のないボローニャに」、ボローニャから始まる物語の場面を綴りました。

マンマのレシピ集、今号のテーマ食材は「キノコ」。
キノコ

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海のないボローニャに

海のないボローニャに

※この記事は「1番近いイタリア」2024年秋号の巻頭エッセイからの抜粋です。

軽くグラスを合わせ、共鳴する音を楽しむと、目を合わせ、ゴクリと一口飲む。運ばれてきた魚のフリットを、すぐに竹串で口に運ぶ。泡のピニョレットがドライで心地よく、絶品の海の料理たちに心を踊らせる。今夜は特別にボトルで頼んだワインが底をつくまで、時折テラスに入る秋風が、色んな思い出を運んできてくれる。今日は私たちの記念日だ。

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編集後記「1番近いイタリアvo.17 2024春」

編集後記「1番近いイタリアvo.17 2024春」

雲に隠れまいと橙色の光を放つ太陽は、オリーブが所々見える平原の向こうの海に吸い込まれるように、あっという間に沈んでいく。5日前と同じ道を走る。今日は夕日を左側に見ながら。そして、今日は歳を1つ重ねた私が。島から本土に戻り、ボローニャに帰る道は、5日前と確かに同じ道で、でも不思議なことに、たった5日前が遠い過去に思えるくらいには景色が違って見えた。

30歳のお誕生日には、行き先シークレットの旅行が

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編集後記(「1番近いイタリア」Vol. 16 2024冬号)

編集後記(「1番近いイタリア」Vol. 16 2024冬号)

フェイスブックに「2年前の思い出」として、ボローニャに着いた日の写真が上がってきた。駅のホーム、赤い高速列車、食べたパニーニ。あれからちょうど2年。大学院を卒業して、ボローニャに残ることを決めて、ボローニャに家を買ったり、ボローニャ大学の博士課程に進学したり。広く17州の家庭を訪ねたり、深く農家料理を研究したり。失恋したり、新しい恋が愛に変わったり。自分にとっては激動の2年で、赤ちゃんが生きていく

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ボローニャの秋晴れ

ボローニャの秋晴れ

※この記事は「1番近いイタリア2023年秋Autunno」の巻頭エッセイからの抜粋です。

数日前にボローニャに帰ってきた。つい先日までまだ真夏の暑さにうだる日本にいたのが嘘のようで、空高く乾いた涼しい風が木の葉の間を抜け、さわさわと知らぬ顔で音を立てるのが一層淋しい。眩しすぎる朝日に目を覚ます日はもうそこにはなく、目を開けば遠くから陽が差し込むだけだった。季節までもが私を置き去りにしてしまったよ

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