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映画そのものにも、ライフ・ストーリーがある
IMECというアーカイブで、せっせと草稿を読んでいる。わたしが研究しているエリック・ロメールという映画作家は、なんでも残しておくひとで、かれの遺志を受けたおそらく奥さまが、それをごっそりここのアーカイブに寄贈したのである。
その数はじつに膨大で、厚さ10cmくらいのファイルに、くわしい目録がごっそり綴じられている。つまり、「目次」だけで、何百ページもある、ということ。
火曜から金曜までしか空い
ジェーン・フォンダと5人の男たち
英国映画協会(BFI, British Film Institute)のイベントで、ジェーン・フォンダ本人のトーク。本人がくるというので、行ってみたいと思っていたが、このイベントはずいぶん前から、売り切れだった。しかし、当日別のチケットを買うためBFIのサイトへ行くと、急に1席空いていたので、速攻で取った。誰かがキャンセルした席なのだろう。ラッキー。
女優ジェーン・フォンダのことは、いろいろに説
Mid 90's:スマホのかわりにスケボーとヒップホップがあった頃
コメディアンというのはだいたい、じつはシリアスなひとが多い。人間の性格は複雑であるので、どういうひとがコミックでどういうひとがシリアスなのかということを、二分できるわけではないのだが。
ひとを笑わせるという行為は、究極の演技であるから、頭を使わなければできない。チャップリンのように、道化の演技そのものによって、人間性のペーソスやモラルを最大限に表現していれば、芸術表現の魂はそこに円熟していくだろ
潜水服は蝶の夢を見る:左目のウィンクだけで書かれた自伝
Le scaphandre et le papillon (2007)原題。監督ジュリアン・シュナーベル。
ELLE誌の編集長だったジョン=ドー。三人の子供の母親とはもともと事実婚状態だったが、今は恋愛関係にもない。おそらくは、結婚生活の責任を引き受けることを拒み、華やかな享楽生活を追求しつづける独身貴族のプレイボーイ、というタイプだったのであろう。
そういうタイプが何らかの事件をきっかけに結
足元を見るのではなく、星を見上げること
うちの高校は、行事ばかりやっているところで、受験指導などというものは、一切なかった。この行事というのが、ちょっとやっかいだった。つまり、行事というのは、外側からくるものだ。自分がやりたくてやるものでは、ないことも多い。
何しろ精神的に未熟なので、やる状況に陥っているときに、やっぱりやらないです、というような勇気もなかった。万事がこういう調子で、わたしの高校生活は過ぎていった。やらされていることば
「ふかいことをおもしろく」と、自分の物語のための勉強方法について
1980年代は日本でも、ミニシアターや小演劇のブームが起き、文化的に活気がある時期だった。野田秀樹がまだ駒場小劇場で活躍していた時期である。
昭和の時代を代表する劇作家のひとりであり、小説家でもあった井上ひさしが、劇団こまつ座を立ち上げたのも、1983年のことだった。以前イギリス映画(イーリング・コメディ)について書いていて、かれの小説の代表作のひとつ『吉里吉里人』(1981)を、読みなおしてい
ある女流作家の罪と罰:他人のアイデンティティをまとっていますが、何か?
『ある女流作家の罪と罰』(Can you ever forgive me?)のポスターを、よく見かけるようになった。最近ロンドンの映画館で、一般公開されるようになったのだ。この映画は、ロンドン・フィルム・フェスティバルの、目玉作品のひとつだった。
フィルム・フェスティバルの映画は、なんとなく選んで観ても、どれも驚くような面白さだったが、特別な余興(headline gala)であったこの映画は、
ROMA:存在は孤独を共有する経験にほかならない
これは台湾映画なのか?そういう錯覚にとらわれながら、メキシコシティが舞台であるこの映画を、わたしは観ていた。侯孝賢やエドワード・ヤンといった、台湾ニューウェイヴ映画のことである。
その理由のひとつは、主人公の女性クレオが、原住民であること。アジアではないが、白人でも黒人でもない、女性の物語なのだ。つまり、通常はスポットライトを当てられることのない、無名の人物が、女性が、召使が、主人公になっている
自分の想いにみちびかれてハリウッドを去った、イングリッド・バーグマンのこと
おそらく『カサブランカ』でもっとも有名な、イングリッド・バーグマン。プロデューサーのセルズニックは、『カサブランカ』でバーグマンがきれいな服を着て、美しく見える役を演じることをよろこんだ。当時のハリウッドのスターは、つねに同じタイプの役、「自分自身」を演じなければいけなかった。その「自分自身」とは、単なる完璧なペルソナなのだが、とにかくスターはその同じペルソナを、演じつづけなければならなかった。