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#シロクマ文芸部 私の作品集

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これまでの作品をまとめてみました。キラリ❇光る作品に出会えるでしょうか
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記事一覧

#シロクマ文芸部 霧の朝 [やがて霧は晴れ]

#シロクマ文芸部 霧の朝 [やがて霧は晴れ]

霧の朝 私は母を探して庭に飛び出していた。

「かあさん どこにいるの いたら返事して」
私は泣きながら父にしがみついた。
「かあさんがいないの かあさんが」
父は暗く闇を見るような眼で私を見下ろして言った。
「母さんはもう居ない 明け方出て行った」
九つの私にはそれがどういう事か分からなかった。
「かあさん もういない、いない」と頭の中で繰り返すばかりであった。
その朝はいつもより霧が深く町は白

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#シロクマ文芸部 秋と本 『古本と呼ばないで』

#シロクマ文芸部 秋と本 『古本と呼ばないで』

秋と本を探しに 無印良品に向かった。
店内に入った瞬間クロモジのアロマの香りに癒され 天然素材やシンプルなデザインに触れてこれを買いにという目的がなくてもつい足を運びたくなる。
店内の中央に設けられた本棚には絵本や文庫本少し前に話題になった単行本などが品良くセレクトされて本を手にひと息入れたい空間がある。100円のドリンクを買って中庭に設けられた木のベンチに座って読むもよし 子供に読み聞かせをして

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#シロクマ文芸部 爽やかな…ではない話

#シロクマ文芸部 爽やかな…ではない話

爽やかな、
だけれど 爽やかではない話

私は 爽、という字は 男が大地に立ち両手を広げ爽やかな風を受けていることかな(八村塁のビールのCMみたいな)とイメージしていた。しかしあの四つのバツ(××××)は風ではないのではと思い 漢字の成り立ちを調べてみた。
調べてみるもんだ その晴れやかで清々しいイメージとは真逆のことが書かれていた。
爽に含まれるバツ印は入れ墨
死体に彫る入れ墨のことだった。

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#毎週ショートショートnote それでも地球は曲がってる?

#毎週ショートショートnote それでも地球は曲がってる?

女御 更衣あまた打ち揃いし中で
光る君のたもうた 「天地は 曲がっておる」
それを聞いた あまたの者 皆袖で口を隠し「光る君 御乱心」と噂した
とうとう 安倍晴明の耳にも入り
天をも怖れない不吉な予言となし
その夜 祈祷が始まった
奇しくもその夜は月食の日に当たり
見るみる月は欠けてゆき 辺りは暗闇とかした
晴明 天が怒りをあらわにしたと思い込み 悶絶して意識を失った(ドラマでも 悶絶)『なんのこ

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#シロクマ文芸部 木の実と葉 (森のおちゃ会)

#シロクマ文芸部 木の実と葉 (森のおちゃ会)

木の実と葉をいっぱい食べたクマのジョディは 冬の眠りから目覚め 春の匂いを求めて 家から出て来ました。「あらジョディーお目覚め」モンシロチョウのミミがさっそくジョディのまわりをひらひら 春の小川も 嬉しそうにポコポコと木琴をならし 白魚も飛び跳ねて 「ヤァ~ ジョディー」と挨拶を交わしました。ジョディは 土の匂い 木の匂いをくんくんとかぎ回りました。
するととても美味しそうな若葉の香りが森の奥から

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#シロクマ文芸部 金色に染まる二人

#シロクマ文芸部 金色に染まる二人

金色に染まった海 今週の題目を頂いた時 真っ先に思い浮かんだのが上の写真の絵でした。
当時小学生の息子が 目を輝かせて帰ってきた。
「乗田君の家に遊びに行ったら、オジチャンがホットケーキ焼いてご馳走してくれたんだよ」興奮した様子でその日のことをしゃべり始めた。
「お部屋に大きな絵がいっぱいあって赤や青の海や山の絵 オジチャン絵を描いてる人だって言ってたよ」
私はこんな田舎の町に有名な画家がいるなん

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#シロクマ文芸部  夕焼け喫茶店

#シロクマ文芸部  夕焼け喫茶店

「夕焼けは 嫌い」そう言ってカウンターの女は大粒の涙をこぼした。
古びた喫茶店の窓から夕日が店内に差し込んでいた。
初めての客がわざわざカウンターを選んで座り おまけに泣き出す
あいにく 客はカウンターの女だけ
ママ亜季は 珍しい生き物でも見るように固まっていた。
「どうされました? 宜しかったら
訳でもお聞かせくださいませんか」
内心困ったなと思いつつも 優しく声をかけた。女は 夜になるのが怖い

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#シロクマ文芸部 風の色はどんな色? 

#シロクマ文芸部 風の色はどんな色? 

風の色は移りにけりないたづらに
我が身世にふるながめせしまに

「 えっ!違いますって! 花の色は移りにけりないたずらにですよ!」
小野小町さんすみません
絶世の美女と名高い小野小町姉さんも
ぼんやり時を過ごしていたら 桜の花も色褪せてしまったわ
あれだけ男達からチヤホヤされていたのに 今はすっかり見捨てられ女の盛りはあっという間ね
なんて聞こえてきそうね。
千年の時を経ても女の嘆きは変わらないの

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#シロクマ文芸部  月のいろ 短歌らしきもの

#シロクマ文芸部  月のいろ 短歌らしきもの

月の色 手鏡のかを 物憂げに
瞳の底に 宿る月影

追ふてくる どうして吾を追ふてくる
足元照らす 母の顔して 

金堂へ 足踏み入れば 穏やかな
月光菩薩の 慈悲の眼差し

これはひねりなしです💦

以前、シロクマ文芸部で 新しいじぶんに短歌を寄せてみました。月を語るには短歌が似合いそう なので 
短歌なんぞ しろーとの私が
またまた詠んでしまいました😆
どーぞよろしく🌰
画像は 国宝・梵

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#シロクマ文芸部  懐かしい匂い

#シロクマ文芸部  懐かしい匂い

懐かしいと感じる瞬間 そこには匂いが伴っていることはありませんか

私は 昭和の趣が残る学生街の喫茶店の扉を開けたとたん
『あぁ この匂い懐かしい』と
立ち止まり 店内を見渡した
赤いモケットのソファー 小さなテーブルは幾多のまあるい染み 椅子の高さもテーブルも屈み込むように低い。
そしてなにより バターとケチャップの混ざりあった匂いに煙草や埃臭さが混ざり独特の匂いがした。
すると どおしたことだ

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#シロクマ文芸部  レモンから……,

#シロクマ文芸部  レモンから……,

レモンから投げかけられた 貴方の愛ってなに……
良平は 私に向かって レモンを投げてよこした。
「俺の今の気持ち 受け取ってな」
それは見事な放物線を描いて 真っ青な空に一瞬吸い込まれ 私の胸元に落ちてきた。「ナイス キャチ!」
良平は日に焼けた顔に白い歯を覗かせ
満面の笑みを浮かべた。
良平は大学のふたつ先輩、私は入学式の日 サークルの勧誘でいきなり良平に声をかけられた。
「ねぇ、君 僕はテニス

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#シロクマ文芸部 [流れ星] ユーミンラブ

#シロクマ文芸部 [流れ星] ユーミンラブ

流れ星の夜 私は部屋でFMを聞きながら 二階の窓辺に 机の椅子を引き寄せて 夜空を眺めた。
1972年10月9日 この日はジャコビニ流星群の流れる日 小さなオペラグラスで暫く眺めていたが ただ月をすべる雲と柿の葉を揺らす風が吹くばかり、

貴方からの電話がないことも 待つことも だんだん慣れてゆく それはどうでもいいことだけれど
1番近い場所で流れ星を みたかった。

次の朝 階下に下りると 弟が

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#シロクマ文芸部 [今朝の月]大根の月だから

#シロクマ文芸部 [今朝の月]大根の月だから

今朝の月を窓越しに感じながら 夜明けのぼんやり白みかけた頃から 美波は朝食の用意を始める。土鍋に米二合 を瓦斯にかけ 炊き上がるまでに 手前味噌の御味御汁を作る、ぬか床から大根ときゅうりを取り出し ふっくら盛り上がった糠に一塩を振り 美味しくなれと呪文をかけた。
そうこうしていると トオルがもしゃもしゃの髪の毛を掻きながら起きてきた。シャワーを浴びてさっぱりとしたところで 朝食が始まる。
炊きたて

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#シロクマ文芸部 花火と手 お盆に思う

#シロクマ文芸部 花火と手 お盆に思う

花火と 手にマッチを持ち 子ども達が残していった 線香花火を雄大(夫)と私は 手で風を遮りながらマッチを擦った。 マッチを擦るのも久しぶりで何本も無駄にしやっと花火に火がついた。二人は並んで しゃがみ込み線香花火を見詰めていた。子ども達は5連発花火とかドラゴンとか派手に噴き上がる花火に歓声を上げていたが 線香花火は地味なのかいつも残る。

「線香花火って しみじみしちゃうわね」私が言うと 雄大は 

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