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#シロクマ文芸部 雪が降る 幻ホテル
雪が降る、ホテルの一室でカアテンを閉めベットに身を沈め、二、三時間 目をつぶって、疲労の果てを待つ、疲労の底に引き込まれ、頭が痺れてくるところから幻が浮かび、心のままに雪が舞うのである。
川端康成の掌(てのひら)の小説の中に、雪と言う掌編小説がある。都内のとあるホテルを自ら、幻ホテルと呼び正月の三が日をホテルの一室で過ごすのである。
ベットに横たわり瞼を閉じれば雪の舞う原野や幻想的な世界へと自由に行き来する。幼い子を抱く父親が現れたり
昔自分を愛してくれた女が雪の鳥に乗って語りかけたり、ただそれだけなのであるが、川端康成の深淵を垣間見るようである。
まずカアテンで締めきった部屋のベットを、五十四歳の老年期を迎えた男の柩(遺体が納められたひつぎ)と捉えたらどうだろうか。男は柩のなかで瞑想に入る。疲労の底から幻想が現れ死へと誘われる。生と死の狭間で幽体離脱した男は思いのままにどこへでも行けるのである。
臨死体験をこの男は自ら体験したくてこの部屋にやってくるのではないだろうか。
川端康成は雪と言う冷たく美しい儚さに憧れ、またそこに身を沈めることで
死を望んでいたのであろうか
掌の小説の中にその謎があるのでは、
川端康成 掌の小説百十二編の中に自ら死を選んだ理由が隠されているのかもしれない。
雪が降るから、大胆にも川端康成の掌編小説に挑んでみた。百十二編の小説をこれからじっくり味わって見たいと思った。