ハードボイルド書店員が選ぶ「読書感想文にオススメの二冊」
「長くて分厚い本を読めない高学年の子どもが増えています」
なかなかの衝撃でした。
ただ思い当たる節はあります。
先日、小学校高学年ぐらいの息子さんを連れたお父様から「この子が読んで感動できる本はありませんか?」という感動的なお問い合わせを頂戴しました。書店員冥利に尽きます。前のめりで↓をオススメしました。今年の課題図書から選ぶならこれだろうと。
アフガニスタンやパキスタンで長く医療活動に従事し、水不足解消のために自ら井戸を掘り、用水路建設に携わった医師の物語。お父様は関心を示してくれました。ただお子さんの方はそうでもない。結局「まだこの子には難しそうなので」とやんわり。
一般的な見解だと、いわゆる「活字離れ」はインターネットやSNSの普及に伴う弊害ということで落ち着くのでしょうか? 私はそれらのせいにしたくありません。時代のせいにして思考停止することは、流れを作る有力者の企みに屈することと一緒だから。
納得できぬ時流には抗っていい。中村さんが2001年の同時多発テロ後、アフガニスタンの飢餓への救援を国会で訴えたように。声が大きくて数の多い側の意見が正しいとは限らないのです(少数派が正解だった事例は、歴史を学べばいくらでも見つけられます)。
その観点に立って考えると、もう一冊浮かんできました。
もし世の中の全体主義に逆らわず、常に周りの空気を読んで生きていたいのなら、いまから私が勧める本は向いていません。もちろんそういう人がいてもいい。ただできたら、この本とこの本が投げ掛けるメッセージに耳を傾け、ひとまず了承しておいてほしい。賛同しなくていいから「こういう生き方もアリかな」と頭の片隅に入れておいてほしい。
いつか人生の理不尽と社会の汚さに打ちのめされ、何もかもが嫌になったとき、あなたを元気づけてくれるかもしれない。そんな名著です。
大丈夫。難しくないです。分厚くもない。
私が初めて読んだのは、まさに小学校高学年のとき。すべてを理解できたとは言えません。ユーモラスな場面を面白がっていただけかもしれない。それでも伝わるものがあったし、中学入学後に読み返して以降は人生を伴走してくれるかけがえのない一冊になりました。
以前にも書いた気がしますが、特に響いたのは以下のくだり。
「ただ智慧のないところが惜しいだけだ。どうしていいか分らないのが困るだけだ」
「困ったって負けるものか。正直だから、どうしていいか分らないんだ」
「世の中に正直が勝たないで、外に勝つものがあるか、考えてみろ。今夜中に勝てなければ、あした勝つ。あした勝てなければ、あさって勝つ」
私はこの主人公みたいな正直者ではありません。しかし偽善的な権力者とその周りに群がる計算高い輩には同調できない。どうにかしたい。でも無力で無知な身ゆえにどうしたらいいかわからない。だからこそ本を読み、書店で働くこととnoteを書くことを通じて学び、考えている。その原点は間違いなく「坊っちゃん」です。
読みたい本がないお子さんと何を選ぶべきか迷っている親御さんに、自信を持ってオススメします。ぜひ手元に残し、繰り返し開いてほしい。いずれ「自分ならどうするか?」「どういう人間になりたいか?」という根源的なテーマと向き合えるはずだから。ありふれた答えではなく、一生モノの切実な問いをくれるのが真の名著だから。
書店でお待ちしています。
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