2021年2月の記事一覧
ハードボイルド書店員日記㉖
またこの季節が来た。
「いい人」だと認めて欲しいがために「いい人」ぶらない他者を叩く。そういう連中が沸いてくる。8.15と3.11の名物だ。有名人が自殺した直後のSNSと似ている。誰もが本当の自分は「叩かれる」側だと心の底で自覚し、怯えている。だからいっそう苛烈に見ず知らずの他人を糾弾し、「私は違います」とアピールする。治安維持法下の密告者のように。
5年前の朝。開店直後に電話が鳴った。相手の
ハードボイルド書店員日記㉕
「守破離」という考え方がある。芸事の世界の言葉だが、実は他の業界でも有効だ。セオリーや規則に従う姿勢は大事。だが、それらに囚われることが誰のためにもならない状況も起こり得る。ルールは必ず意味を持つという優等生発言の響きに陶酔して思考停止していないか? 強迫症にも似た「絶対服従主義」は自由なきファシズムへの第一歩である。
「カバーはお渡し対応とさせていただいております」「え、ダメなの?」「申し訳ご
ハードボイルド書店員日記㉔
最近は少なくなったが書店には外国人も大勢来る。言葉や文化、感覚の違いを突きつけられてストレスになることもある。だからこそ気持ちが通じたときの喜びは計り知れない。
「ねえ信じられる?」
女性社員が店内の巡回からレジに戻ってきた。両手にファッション誌を三冊抱えている。出入り口の脇に置かれた観葉植物の鉢に捨てられていたらしい。しかも付録を抜かれた状態で。
「中国人の集団に『付録だけ買いたい。本はいら
ハードボイルド書店員日記㉓
どんな仕事でも責任感の強い人は重宝される。且つ周囲に同等のメンタリティを要求する点でしばしば煙たがられる。
「雑誌が終わらないみたいだから残業してくれる?」
退勤まであと5分。棚整理をしていたら店長に声を掛けられた。「わかりました」仕入れ室に入る。雑誌担当の女性が山盛りの幼年誌に付録を紐付けしていた。
「手伝うよ」「え、ありがとうございます。でも」「残業OKって言われたから」「私もさっき店長に