一ノ瀬俊也 『東條英樹 「独裁者」を演じた男』文春新書 1200円+税
東條英機をほめることばを親世代から聞いたことがありません。やれ、首相在任中に全国を視察して、ごみ箱を覗き込み、まだ使えるものを捨てていないかと、細かくチェックして歩いていた。やれ、防空訓練の一貫として、女性たちに竹槍の訓練をさせていた。そうした話を私たちは、耳にタコができるぐらい聞かされて育ったのです。精神論で凝り固まった、セコイ独裁者。それが親世代から植え付けられた、東條のイメージでした。敗戦の責任をすべて被せられた感のある、この軍人政治家に対して、本書は新たな観点を提示し