自営業衰退の社会的結果
自らも自営業者の家に生まれた、労働経済学者の野村實は、自営業の衰退は日本社会に深刻な影響を及ぼすと述べている。企業や官公庁に雇用されるためには、それなりのレベルの高校や大学に入って、入社試験や公務員試験に受からなければならない。他方、自営業の場合には、学歴や学力はほとんど意味をもたない。つまり自営業が衰退することによって、学歴社会は完璧なものとなる。勉強のできない子の逃げ場がなくなるのである。
私の小学校の同級生の親たちは、ほぼ自営業者。中学校に進んで、サラリーマンや公務員の家庭で育った人たちに出会い、自分たちとの違いに驚いたことを覚えている。自営業者とサラリーマン家庭には明らかに異なるカルチャーがある。いまやこの国における自営業者の比率はものすごく小さなものになった。それは一つの文化が失われたということではないか。「多様性(ダイバーシティ)」が叫ばれるなか文化の画一化が進んでいる。
野村は、自営業者は「通俗道徳」の担い手であると述べている。よく働くこと、正直であること、人に親切にすること…。自営業者の子どもに期待されたのは、勉強ができることより、そうした徳目を身につけた人間に育つことだった。自営業が衰退し非正規雇用の仕事に就く人の比率が増えた。非正規雇用の労働者が通俗道徳の担い手になるとは思えない。自営業の衰退は、日本社会の道徳的衰退を結果するのではないかと野村は危惧する。
第二次安倍政権以降の腐敗はひどい。都合の悪い文書は改ざんしたり破棄したりする。法を曲げるような決定をしても、曖昧な言を弄してまともな説明をしない。日本の為政者たちは、明らかに「正直」や「公正」といった「通俗道徳」に反することをやっている。昭和の時代にこんなやり方がまかり通ったとは思えない。これは自営業が衰退した結果ではないのか。保身のための忖度を事とする「一億総社畜社会」になった結果ではないか。