みどり

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最近の記事

お母さん21年目

母についてのいちばんはじめの思い出は、なぜか怒っている様子だった。幼稚園に入園したばかりか、その少し前だったか、その日は台風の前兆のような荒れた天気だった。まだ外が明るい時間、母とお風呂に入った。窓から差し込む光はまだ柔らかい白色で、明るいうちにお風呂に入るなんて、とても珍しいことだと感じた。 シャンプーを髪の毛で泡立てながら、ママ友の愚痴を言っていた。「あんな態度をとらなくたっていいのに!」という調子だった気がする。仲良くしていた同級生の母親について何も考えたことがなかっ

    • バスの中ストーリー#3苦手、でも、なにかを

      ひやりとした風が吹き、秋雨が降る10月。今日もバスに乗る。 60代前半くらいのおじさんの前の席に座った。座る時から何となく違和感があったが、一度選んだ席。動くつもりはなかった。 燃え殻さんの『ブルーハワイ』が読み終わらない。かれこれ3週間ほど、出かける度に読むけれど、まだ5mm分ほど残っている。これだけ長く楽しめる本はなかなかない。初めて読むワクワクは長ければ長いほどよい。どうせ読み終われば、記憶を消してもう一度読みたいと願うことになる。 「ゴホ」という咳払いと、「チャ

      • バスの中ストーリー#2 アナウンスが心地よい日は。

        今日は全休にも関わらず、昼から授業だという彼に会うため、いそいそと学校に向かう。とうとう2学期が始まってしまった。残暑が厳しく汗をたらしながら、天気予報を見ては閉じ、まだかまだかと秋を待つ。 昼前のバスは地元のご老人でいっぱいで、始発のバス停にはすでに4、5人並んでいた。「暑いですね」と話すおばあさんたちの隣でハンディファンで顔を冷やす。 今日は珍しく女性の車掌さんだった。高めのトーンで滑らかなアナウンスは聞いていて心地が良い。手元の本から顔を上げて聴き耽る。 いつも一

        • 似ている有名人|「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」を観て

          私は指原莉乃に86.6%似ているらしい。 時代遅れと言われるかもしれないけれど、先日「似ている有名人を診断してくれるアプリ」で遊んでいた。パーソナルカラー診断とか、骨格診断とか、mbti診断とか、血液型占いとか、人は自分のことを知りたがる生き物だ。もれなく私もそのひとりで、寝なければならない夜にも関わらず、夜な夜なアプリを起動する。 面白いことに、何度やっても同じ結果が出る。ランキング形式で3人ほど有名人が挙げてくれるものの、微塵も似ているとは言えない。「何パーセント似て

        お母さん21年目

          将来への不安を「モノ」で表す|ワンセンテンス集

          夜なべして観た映画 手付かずの本の山 途中で買うのをやめた漫画の単行本 君が好きだと言ったから、ブックマークした流行りの曲 剥がれかけた映画のフライヤー 絡まった有線のイヤホン 湿気ったお香 プラス料金のVivianの紙袋 椅子にかかったリーバイスのデニム ハンガーの跡がついたオーバーサイズのTシャツ ドンキホーテで買ったボディクリーム 飲みかけのペットボトルの水 ほこりが被ったアコースティックギター 溜まったゴミ箱 横柄だから大きいサイズで、いっぱいになるまで捨てない

          将来への不安を「モノ」で表す|ワンセンテンス集

          「アッシー」が死語になった。6分でバス停まで走る。

          寝坊をした。自分に仕打ちがあるタイプではなく、相手に迷惑をかけるタイプのやつだった。 家を出る時間に起きた。のしのしと起き上がって、駅まで送ってもらおうと寝ている弟をつついて起こす。3回舌打ちされた。 昔、「アッシー」という言葉を母に教えてもらった。母が若い頃に使われた用語で、「足」=「車を運転してくれる男の人」という意味があったという。同様に、ご飯を奢ってくれる「メッシー」もある。 大学生になっても「アッシー」という言葉は全く聞かない。車好きな後輩が、付き合ってもない

          「アッシー」が死語になった。6分でバス停まで走る。

          自己紹介 | 本と旅行が好き✈️

          「タイトルに「好き」とか本のタイトルとかを入れると、いいねが増えるんだよ。頑張って書いたけどそういうタイトルじゃないと見てもくれない。しょーもね」 飲み会の前に会ってくれた彼にぼやく。昨晩やけくそになって書いた投稿に11いいねがついた(そのうち1回は紛れもなく自分だが)。note受けするタイトルで、ご丁寧に「。」までつけた。 彼はスターバックスの新作、パイナップルナントカをシャリシャリと咀嚼しながら、両手を「いただきます」のように合わせてそれをひっくり返す動作をする。

          自己紹介 | 本と旅行が好き✈️

          「好き」とは何か、江國香織さんの『きらきらひかる』を読んで思うこと。

          起き抜けに漠然とした不安に襲われて、目覚ましを切る。 昨夜はよく眠れなかった。彼のバイト終わり、帰宅すると電話をかけてきてくれるかと思いきや、「寝ます」の連絡の後何も起こらなかったからだ。 こちらは、帰宅の連絡をまだかまだかと首を長くして待ち、逐一LINEで「まだ起きている」アピールをしていたのに。 こういうことは今回が初めてではない。普段は有無も言わさず私から電話をかけてしまうし、たいてい電話に出て構ってくれるから問題なかった。ただ、今回はどうしても彼の意志で彼から電話を

          「好き」とは何か、江國香織さんの『きらきらひかる』を読んで思うこと。

          さよならの5歩手前

          ある朝、胃がムカムカする気持ちで起きた。ソワソワ、ムズムズ。そして押し寄せた不安。晴天から曇り空に変わるような、あっという間の出来事だった。 「愛想を尽かされるのは僕の方だ」 死期を悟ったかのように、これまでの物事が一つ一つ繋がって、1本の線になった。このままじゃダメだ、そう思えば思うほど、どうして良いかわからない。とにかく今のままではいけないことは確実だった。 なんでも許してくれる彼女に甘んじていた。我儘を言っても、失敗しても、ぎこちなくても、「それがあなただから」と受

          さよならの5歩手前

          バスの中ストーリー#1

          高校、大学、合計6年間ほぼ毎日使っているローカルバスがある。 家が辺鄙なところにあるため、始発から終点まで往復50分の道のりは最寄り駅に行くまでに必要不可欠だ。 大学での定番の話題、「最寄り駅どこ?」にいつも困る。バス停の名前を言っても相手は知る由もなく、バスを使うんだと言えば、遠いね、大変だねと同情を食らう。終バス(最終便のバス)を逃せば、1時間かけて歩かなければならないので、酔い覚ましどころか完全に素面で家に着く。 日常の一部である往復の50分間、同じ空間にいるよう

          バスの中ストーリー#1

          東京

          新宿の東口の喫煙所から、雨上がりの空を見上げる。蒸し蒸しとした空気が煙と混ざって重たい空気を作っていた。「私にとってあの建物が東京の象徴なの」。水色のガラスを網目状の鉄板が囲う、東京モード学園を見上げながらぽつりと言ってみる。新宿に行けば色々なところから見えるあの建物は、東京タワーや東口の猫の3D映像よりもはるかに東京を感じさせた。 小学生の頃だっただろうか、鍵っ子だった私はテレビに夢中だった。まだ3DSが買い与えられず、たまごっちIDを遊び尽くしたその期間は、娯楽に飢え、

          2024,7,29

          今日は恋人の誕生日だ。日付が変わる頃にお風呂に入ったから、髪を乾かしながら片手でLINEを打つ。「お誕生日おめでとう🎉」。 「夏に合う香水を探そう」と彼が決めたのは7月に入ってからで、それまでは物欲の無さゆえにうんうん唸っていた。「サングラスも良いけど、香水も欲しい。あ、ヘッドホンは自分で買う。高いからね」。 13:00に新宿で待ち合わせたものの、私が5分遅刻。いつも中央東改札で待ち合わせで、言わずもがなそこで待ってくれているはずなのに、電車を降りた時に受けた熱風と人混み

          夢って恋で、恋って夢で。

          「起き抜けで、初恋みたいな気分になることがある」 途切れた会話に、彼がぽつりとこぼす。 「夢を見ていたわけじゃないし、見ていたとしても覚えてない。ただ、付き合いたてくらいの、わくわくした気持ちで起きるんだ」 何となくわかる気がする。 何か思い出したわけでも、現実で恋愛が進行中だったわけでもない。ただ、ひたすらに、まだその心地よい気分を感じていたいと願う。 意識がふわふわした、眠と覚のあいだ。そこに恋がある。

          夢って恋で、恋って夢で。

          きっと自分たちも同じように

          エッセイを読んでいると、自分の知らない時代の知らないカルチャーに出会う。〇〇(歌手)の『〇〇〇〇』(曲名)だったり、〇〇(作家)の『〇〇〇〇』(題名)だったり。 自分の知らない時代の曲や本を、「これのここが好きだった、よく聴いていた」という作者の語りを聞くと、同じ時代に同じ熱量で吸収したかったなぁと思ってしまう。 私が数十年後本に書くなら、あいみょんの『マリーゴールド』だったり、銀杏BOYZの『Baby Baby』だったり、クリープハイプの『ラブホテル』だったりするんだろ

          きっと自分たちも同じように

          フィクション

          「働きたくない」 これは、物心ついた時から思っていたこと。スーツを着て、満員電車に乗る。暑い中、営業回りをする。会社に、社会に消費されていく姿に、子供ながら恐怖を覚えていた。父も母もスーツを着る仕事ではないから、自分の中でいつそのイメージが湧いたのか定かではない。逆に、知らないことへの不安感が余計な脚色がついた想像を掻き立ててしまうのかもしれない。 最近宮田ナノさんの「すてきな退屈日和」という漫画を読んだ。フリーランスの校正者と個人書店でも働くWワークの主人公は、私の理想

          フィクション

          ネガティブです。別に変えたくありません。

          「変わるものと変わらないものはなんですか」 昨日のゼミは前期最後の授業を迎えた。夏休みに入る前に、と先生が前期のまとめと後期への展望のような話を始める。 急に当てられて少し戸惑う。 私にとって、変えたいと思うものは何か。変わりたくないものは何か。 「ネガティブで自信がないところを変えたいと思いながら、自分の考え方は変わりたくない。いつもその二つがバトルしているんです」。 咄嗟に出た言葉がこれだった。 いつも自分のネガティブさに疲れる。自信がなくて、コンプレックスが多く

          ネガティブです。別に変えたくありません。