さよならの5歩手前
ある朝、胃がムカムカする気持ちで起きた。ソワソワ、ムズムズ。そして押し寄せた不安。晴天から曇り空に変わるような、あっという間の出来事だった。
「愛想を尽かされるのは僕の方だ」
死期を悟ったかのように、これまでの物事が一つ一つ繋がって、1本の線になった。このままじゃダメだ、そう思えば思うほど、どうして良いかわからない。とにかく今のままではいけないことは確実だった。
なんでも許してくれる彼女に甘んじていた。我儘を言っても、失敗しても、ぎこちなくても、「それがあなただから」と受け入れてくれた。
「世の中、優しさが1番大切です」
そういう彼女は、優しすぎたのかもしれない。優しすぎて、優しすぎたから、ダメなのかもしれない。
「許す」にはエネルギーが必要なのだと思う。
一昨日、バイト先で体調不良になった。頑張れば時間いっぱい働けたけれど、念の為社員に申し出ると、帰宅が許可された。その間、目が合わなかった。その日は社員業務が多い日で、客数も多かったため、人手が少なくなることにイライラしていたのかもしれない。申し訳なさでいっぱいになりながら裏口から店を出た。
「許す」は怒りやわだかまりを超えた先の話だ。
いつまでも好きでいてくれる自信がない。許し続けてくれる自信がない。怒りと許しの先は、呆れだと知っているから。
椎名林檎の「ギブス」を聴く。煙草に火をつける。
サヨナラの1歩手前は、「話がある」。
2歩手前は、「時間あるとき教えてほしい」。
3歩手前は、「おはよう」がなくなる。
4歩手前は、「最近忙しい」。
5歩手前は、「大丈夫だよ」。
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