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バスの中ストーリー#2 アナウンスが心地よい日は。

今日は全休にも関わらず、昼から授業だという彼に会うため、いそいそと学校に向かう。とうとう2学期が始まってしまった。残暑が厳しく汗をたらしながら、天気予報を見ては閉じ、まだかまだかと秋を待つ。

昼前のバスは地元のご老人でいっぱいで、始発のバス停にはすでに4、5人並んでいた。「暑いですね」と話すおばあさんたちの隣でハンディファンで顔を冷やす。

今日は珍しく女性の車掌さんだった。高めのトーンで滑らかなアナウンスは聞いていて心地が良い。手元の本から顔を上げて聴き耽る。

いつも一番後ろの席に座るから、降りる時は大勢のご老人がヨイショヨイショと椅子から降りて進むのを待たなければならない。私はこの時間が意外と好きで、譲り合いながら前を目指す様子は心が和む。時間がない時は少し焦るけれど、まぁいっかとも思えてしまう。

後部座席の乗客も前に進み、私も腰を上げてリュックサックを背負うと、少し前の座席で壁にもたれたまま微動だにしない女の子がいた。中学生くらいだろうか、イヤフォンをつけて眠っている。バスが終点に着いたことに気づかなかったのだろう。私もよく同じ状況になる。特に心地よいアナウンスの日は。

通りがけに女の子の方をちょんちょん叩く。驚いたように目を覚ます彼女を横目に前に進む。車掌さんに「ありがとうございます」と言いながらSuicaをかざす。「ありがとうございます」と気持ちの良い声が返ってくる。

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