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わたしの口福

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食べることが大好きな人の、フードエッセイ。
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スプーン一杯の記憶、あの日食べた蜂蜜。

スプーン一杯の記憶、あの日食べた蜂蜜。

「これは、特別な蜂蜜やからな。」

そう言って遠い親戚の叔父さんは、わたしにスプーン一杯分だけの蜂蜜を差し出した。

まだ小学生になって間もないわたしと祖母で田舎の曽祖母の家に泊まりがけで訪れていたときのことだ。
とろりと重量感のある蜂蜜。普段食べていた蜂蜜よりもずっとずっと甘い、濃厚な一口。
口の中から消えてもなおその存在感を放ち続けていることに、幼いわたしは衝撃を受けた。

「もうちょっとだけ

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この世に焼き肉がある限り。

この世に焼き肉がある限り。

焼き肉ほど満足度の高いご馳走はない。

スーパーやお肉屋さんでちょっと良いお肉を買って、ホットプレートで気兼ねなく焼く「お家焼き肉」も好きだけど、焼き肉といえばやっぱりお店で食べたい。

焼き肉にまつわる興奮は、口にする瞬間からでなく、メニューを開いたときからもうすでに始まっている。

盛り合わせ、本日のおすすめ、期間限定などなど、お店により少しずつ違うラインナップ。
毎回、注文するものはさほど大

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半透明の梨と八百屋。

半透明の梨と八百屋。

その実に包丁を入れたとき、あ、やられた、と思わず顔をしかめた。
目の前のまな板の上に転がる梨を恨みがまし気に見つめる。外側からは分からなかったけれど、殆ど半透明になっているではないか。

先程の八百屋さんとのやりとりを思い起こす。
「こちらの商品は、傷んでいるところもあるけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
「はい、4つ200円ね」

この八百屋さんは少し足を延ばしたところにあるので、しょっちゅうでは

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美味しく食べられるクッキーの限界量に挑戦してみた。

美味しく食べられるクッキーの限界量に挑戦してみた。

わたしには、かねてからチャレンジしたいことがあった。
いつか…いつか…と焦がれてはや半年。

店内で食べたり、量り売りで買って帰ったり、そのポスターを目にするたびに、いつか挑戦しようと決意を固めていたのだ。

そう、それは、
ステラおばさんのクッキーバイキング…!

1人で赴き、黙々とクッキーを咀嚼しながら、1枚1枚の感想をメモる孤高のクッキーモンスターになることも考えた。
けれど、店ではみんな誰

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夏の終わりとマンゴーパフェ。

夏の終わりとマンゴーパフェ。

あ、秋が来た。
先週の半ば頃のある日、歩いていてわたしは唐突にはっきりそう思った。

秋来ぬと
目にはさやかに見えねども
風の音にぞ 驚かれぬる

約1000年前、三十六歌仙の1人である藤原敏行はそう歌を詠んだ。

そう、風。風なんだよな、ってしみじみうなづいてしまう。真っ先に秋を意識するのは、視覚でも、気温でも、香りでもなく頬に当たる涼やかなこの風なのだ。

こうして遥か昔の歌が文化として遺って

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桃を引き寄せた話。

桃を引き寄せた話。

もしもこの世に「引き寄せの法則」なるものが本当に存在するならば、わたしはこの夏、4回も桃を引き寄せてしまった。

1回目は、夫の会社でいただいたお中元のおこぼれ。
「じゃーん、お土産がありまーす!」
そう言って、取り出したのは見事なまでにどっしりした桃。芳香としか表しようのない、魅惑の香りを放っている。
これがわたしが出会った今年初の桃だった。

ご存じの通り、桃は高い。大きいものだと1つあたり4

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メロンクリームソーダとおじいちゃん。

メロンクリームソーダとおじいちゃん。

メロンクリームソーダ、その姿を目にするたびになんて完成された飲み物なんだろうと、わたしは惚れ惚れしてしまう。

山奥の清流の如く透き通って煌めくエメラルドグリーン。そこに浮かぶ、ころんと丸い優しい乳白色。
頂上に乗っかるのは、不自然なほど艶やかな赤色のシロップ漬けサクランボ。

グリーンと乳白色の爽やかな色合いを、この赤色がきゅと全体を引き締めて、魅せている。

メロンクリームソーダをいただくとき

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わたしってば、喫茶店の招き猫。

わたしってば、喫茶店の招き猫。

「ここ、好きやと思う。」

そう友人から教えてもらった喫茶店が、出てくる食べ物といい、お店の雰囲気といい、わたしの好みドンピシャだった。

まず、お店に入る外装。
なにこのわくわく感。

内装もアンティークな調度品たちが堪らない。

様々な珈琲がある中で、「苦く重めのものではなく、軽めのがいいです」と伝えると丁寧に教えていただけた。

「マスター」と呼ぶに相応しい落ち着いた穏やかな物腰で、なんだか

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ありふれたカレーが救った、ある日の夕方。

ありふれたカレーが救った、ある日の夕方。

カレーが好きだ。
まあ一口にカレーと言っても、欧風カレー、インドカレー、キーマカレー、家庭的なカレー、給食のカレーと多種多様であるんだけど、わたしはカレーと名がつくものなら満遍なく愛している。

ある日の仕事帰り、どうしてもカレーの口と化してしまった。

きっかけは、ほんの些細なことだった。
松屋か何かのチェーン店で窓際に座っていたサラリーマンのおじさんがカレーを食べていた。
彼が美味しそうに、と

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やっぱり至高、会席料理。

やっぱり至高、会席料理。

私たち夫婦は毎年必ず、お互いの誕生日あたりの週末に「お誕生日旅行」と称してどこかへ出かける。ただ、妊娠中の身としては、何かあったときにすぐに戻れないようでは困るので、今回は近場の料理宿に泊まることに。

秋に出産予定なので、こうやってゆっくり最高の会席料理を味わえるのも、もうしばらくないのかもしれない…なんて思うと、より真剣に料理に向き合おうじゃないか…という気持ちになってきた。

ということで、

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美しきパフェに浸る。II

美しきパフェに浸る。II

パフェとは、つかの間の夢であり刹那のエンターテイメントである。

以前、ブライトンホテル東京ベイのロビーラウンジ「シルフ」にて「美しすぎるパフェ」として苺をふんだんに使用したスワンパフェを堪能した。

そして今回また別のブライトンホテルに泊まることになり、他のスワンにもお目にかかれると知ったとき、これはぜひ会いに行かねばと思った。

というわけでパフェを食す、あの夢のような時間を求めてブライトンホ

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サーティワンで子どもの頃からの夢を叶えてきた。

サーティワンで子どもの頃からの夢を叶えてきた。

ああ、一度でいいから好きなだけ選べたらいいのに…!!

母とのお買い物帰りに寄ったとき。
高校生のときに、学校帰りに友だちとわいわい寄ったとき。
大学生や社会人になってふと寄ったとき。

ポップで楽しげな色とりどりのショーケースを目にするたび、何度そう思ったかしれない。

先日からサーティンワンにて「よくばりフェスキャンペーン」が始まった。

どんなキャンペーンかというと、スモールサイズよりもやや

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ロイホであんみつに出会い直す。

ロイホであんみつに出会い直す。

以前、もはやわたしの作業部屋といっても過言ではない、愛しのコメダ珈琲についてつらつらと書いたが、比較的お客さんが少ない時間帯であれば、ファミリーレストランも作業場所として最高である。

なんたって、食べ物が充実している上に机が広い。その上ドリンクバーという、カフェオレも珈琲もメロンソーダも何でも飲み放題という神システムが存在するのだから。

そして意外と、時間を選べば、パソコンをカタカタしているサ

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滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

滋賀大津にて、ドイツを堪能する。

未知との遭遇は愉しい。

それが不安要素が特に見当たらず、期待に覆われているならばなおさら。

目に飛びこんでくる文字は読めるけれど、どんなものを指すのかは見当もつかない。
しかし、きっと美味しいものであるという期待は膨らむ。

わたしは、ドイツにやってきた。

いや、正しく言うと滋賀県大津市にある
「ヴュルツブルクハウス」というドイツ料理のレストランにやってきた。

可愛らしい民族衣装のようなワ

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