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言霊になれない言葉たち。

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#詩

独り言

独り言

優しいだけの言葉に救われていた。
嘘だらけ。
それでも私は救われた。

部屋の匂いはコンクリート。
ほこりだらけ。
だから私は生きて来れたんだ。

落ちる涙は沁みる事なく弾かれた。
泣く事の無意味さを
いつまでも教えてくれている。

冷たい言葉を抱きしめて
夜に浮かんで弄ぶ。
少し月に例えた悲しみは
夜に沈まない涙に変わればいい。

海を見上げれば

海を見上げれば

貴方の為だけに現れた夕日が
今日も夜に潰されていく。

貴方の為だけに祈る唄が
灯台の光の瞬きに消えていく。

今日の終わりを手で探り
深海へと続く生きる事への渇望が
まだ見つからない。

私の朽ち果てた身体の中
音だけが命を教えている。
貴方から途切れた音を探している。

今日の続きを手で探り
月へと続く道を沈みながら歩いて行く。

私の沈んだ後に見上げた月は青い。
音だけが無く眩しさに目を瞑る

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日陰

日陰

明日から独りで生きて行く事は
私以外みんな知っていたのね。
少しづつ話し合いを重ねて
私以外みんな納得していたのね。

タバコを吸って吐いた先にある
長い影を引きずる女は
どこか私に似ている。
溜め息も出ないで吐いた息が
いつかの夜の月を隠すだろう。

そう言えば
パパとママのどっちが好きだと
交互に毎晩尋ねていた。
何て答えていれば
独りにならずに済んだのだろう。
そう言えば
私は産まれて良かっ

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煙草の煙に包まれた

何を見てもあなたを思い出す世界に
独り取り残された。
変わらず笑い声に包まれた世界に
音だけを失くした。

暗闇ではなくただの黒い夜に
途方に暮れて
あなたの声に似ている音に
ただ手を伸ばした。

何を見ても過去に重ねて
時間を止めて。
何をしても過去に重ねて
今から目を背けて。

あなたの居ない世界で
光を感じてしまう事が
ただ怖くて。
壊れた夜の隙間に逃げた。

あなたの居ない世界で
初めての

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生まれた嘘

生まれた嘘

初めて見たのは泣き顔。
ただ光に包まれた小さな生命。
抱き締めながら私は
自分の強さと弱さを知りました。

正しい事への怖さを
それを貫く脆さを
闇の中でしか光は射さない事を、
奪われた時間が囁いている。

最後に見たのは笑顔。
ただまっすぐ見つめる幼い生命。
抱き締めながら目を背ける私は
吐かれた純粋な嘘に憩おう。

涙だけでは癒せない傷。
死ぬ事でも戻せない時間。
概念ではない事実だけが転がる

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狂気と人形

突き飛ばされた駅のホーム
貴方の躊躇いで死なずに済んだ。
人混みに紛れた貴方の顔
忘れるはずもなかった。

他人の靴を履いた様な違和感が
私を包む電車の中。
他人の視線が捻れてぶつかり熱く
私は異物の様に焦げる。

駅のホームは今日も人に溢れて
私はいつもと同じ最前列で俯く。

私の知らない他人が
私の事を知っている。
貴方を知らないはずの私は
貴方をずっとさがしている。

いつもの風景なのに

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青い祈り

青い祈り

目が覚めれば独り切り。
朝の光が輪郭を滲ませていた。
昨日の残像を思い出すのは
夢から覚めた悪夢。
瞼の裏に色が継ぎ足されていく。

押さえつけながら始まる朝。

目を閉じても独り。
月の光が熱帯夜を運んでいた。
寝言で呟く祈りの言葉。
縋り付き引き摺る長い影に怯える。

それでも生きている私。

もうすぐ会えるから
待っていてねと笑う。
月の光は太陽だと知らずに。

土曜日の昼

土曜日の昼

魚の焼かれる匂いがする。
吐き気がするほど腹が減る。
隣の家からだと気が付いて、
ランドセルを投げ捨てた。

ブランコは
いつも夕暮れに揺れている。
砂場は猫と一緒に眠る場所。
ブランコは
いつも夜に止まる。

母を演じる他人が夫婦の舞台から降板し
寂しさを演じる子供の目に映る世界を
僕は探している。

駆け出せば坂道
転ばないと止まれない。

月光の迷路

月光の迷路

約束を交わさずに済んだのは
せめてもの救いになった。
金曜日の夜は月が青かった事
思い出せたから救われた。

夜に降る雨にだけ濡れる花を見た。
悲しく無いのに涙する夜に重ねていた。

最後の言葉を呑み込んだのは
青い月が雨を呼ぶ事を知っていたから。
子供の泣く声が雨によく沁み込んで
地面に落ちる前に消える煙草の煙。

声のある方に振り返っても、独り。
いつかどこかで会えると確信しながら
言い聞かせ

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地図に無い街

地図に無い街

いつも濡れた町
店が始まる前から降っていた。
傘を失くした人が歩いてる
歩きながら歌っていた。
咳込みながら酒を吐く。
歌いながら独り笑ってた。

いつも濡れた町
店が終わっても降っていた。
打たれながら雨を見上げてる
湿った煙りは臭いが濃い。
咥えたまま独り探していた。

今日も町には雨が降り
奥の席で夜を探していた。
あれから誰かが死んだと聞いた。
誰かが誰かと知らないが泣いた。

今日も誰か

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花宴

花宴

今日を見渡せば、まだ夜が始まらない。
激しく降ると言われた雨も、
まだ気配を感じはしない。

明日を諦めれば、遠雷に気が付かない。
潰されて弾けかける太陽が、
夜の前に激しく燃え上がる。

もう、会えない貴方を思う。
記憶にならない様に
思い出にならない様に。

青く浮かぶ月ならば、誰かが悪口を言う夜。
曖昧に浮かぶネオンの隙間からは
いつも灰色に揺れて見えた。

夜に凍るネオンを辿る。
何も思い

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手を離せば。

手を離せば。

朝、
夢と現実に彷徨う瞼の裏に
夕暮れに生きる蝉の声に目覚める夏の日を見る。

手を繋ぎ導かれたのは何処かの海辺か山の中。
もしかしたら知らない人の家の前。

手を離す前。
最後になるはずの交わした言葉に
絶望も知らず希望もなくただ頷いただけ。

朝、
目を開ければ夢の記憶はなく涙の跡、
涙の跡を辿っても夜明けの記憶もない。

手に残る曖昧な二人からの愛。
生まれて来たけど、生きて来たのだろうか。

手の平の上の命。

伸ばせば届く小さな赤ん坊
限り無く小さくて弱い命がそこにある。

手の平を伸ばして繋ぐ
手の平を合わせて導ける

愛された事しか無い赤ん坊は
私の笑顔に安心していた。
笑顔を疑わない赤ん坊は
私の手の平に応えて、繋ぐ。

握りしめなくても導ける
添えるだけでも導ける。

限り無く小さな命に耳を塞いだ手の平。

消えたのは音だけで良かった。

懺悔と転生の隙間。

もしも生まれ変わるとしたら...

それは避けなければならない。絶対に。