国内におけるソース原理(Source Principle)探求の潮流を概観する:2025年1月時点の現在地
本記事は、関連書籍が2冊邦訳出版され、ビジネスや経営の領域でも注目を集めつつあるソース原理(Source Principle)がどのような経緯で誕生し、どのような実践者によって実践、紹介されてきたのかを概観しようという試みです。
私の把握できている限り、2019年の『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』著者フレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)による言及が国内における紹介の起点となって広がりつつあるソース原理(Source Principle)ですが、2025年1月現在でラルー氏の言及から6年近くの月日が流れようとしています。
ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)が体系化したソース原理(Source Principle)及びマネーワーク(Money Work)にはヨーロッパを中心に世界各地に実践者がいます。
そして、ここ数年で立て続けに世界各地から実践者たちの来日企画が実施された経緯もあって、私自身は彼ら彼女ら一人ひとりの専門性や人生のバックグラウンドに思いを馳せたり、心から語り合い、共感して共に活動できるような精神的な余裕が失われていた側面もあったのではないか、と感じています。
そこで、2025年の年始のこのタイミングで2019年以降の潮流や、そもそもソース原理やマネーワークがどのような経緯で誕生し、広がってきたのかを振り返り、現在地を把握してみようと考えたことが、今回のまとめのきっかけです。
2021年のトム・ニクソン氏(Tom Nixon)による『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』出版を機に私自身の探求が始まり、大袈裟ではなく、ソース原理は私の人生を一変させました。
私自身の人生をより創造的にしてくれたソース原理に対する先人たちへの感謝も込め、以下、私がこれまで見聞きし、体験してきた範囲にはなりますが、国内におけるソース原理(Source Principle)探求の潮流をまとめていこうと思います。
ソース原理(Source Principle)とは?
ソース原理(Source Principle)とは、経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威と影響力、創造的なコラボレーションに関する洞察・知見の体系です。
『ソース原理(Source Principle)』は、お金に対する一人ひとりの価値観・投影(projection)ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク(moneywork)の発明を機に発見・体系化されました。
不動産業界で成功したビジネスマンとしてキャリアを進んでいたピーター・カーニック氏は、クライアントたちとの交渉の中で相手側が不合理な判断・意思決定を行う場面を目にしてきたといいます。
このことをさらに突き詰めていくと、『お金と人の関係』がビジネスにおける成功、人生の充実に大きく影響していることに気づき、ピーターによる『お金と人の関係』の調査が始まりました。
その後、お金に対する価値観・投影ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク('moneywork')が体系化され、その過程でソースワーク(Source Work)が副産物的に生まれてきたとのことです。
マネーワーク('moneywork')は自身の内面を扱うインナーワークに比重が置かれており、ソースワーク(Source Work)はアイデアを実現するためのアウターワークに比重が置かれていると言います。
さらに、自分とお金との関係について見直し、投影していた対象からパワーを取り戻したソースが、そのビジョンをさらにクリアに、さらに広げていくためのアプローチとしてビジョンワーク(Vision Work)という実践法も存在します。
ソース(Source)とは?
トム・ニクソン『Work with Source(邦題:すべては1人から始まる)』を参照すると、ソース(Source)とは、あるアイデアを実現するために、最初の個人がリスクを取り、最初の無防備な一歩を踏み出したときに自然に生まれる役割を意味しています。
また、本書中の用語解説では、『脆弱なリスクを取って、ビジョンの実現に向けて自らを投資することで、率先して行動する個人のこと』と説明されています。
ステファン・メルケルバッハ氏の書籍『A little red book about source(邦題:ソース原理[入門+探求ガイド])』においては、この役割を担うことになった人について、特に「ソース・パーソン(source person)」と呼んでおり、『あるアイデアに基づいてイニシアチブを取る人』のことを指します。
加えて、イニシアチブ(を取ること)にはリスクを取ること、未知の世界に飛び込むという側面があると紹介しています。
そして、朝食を作ることや休日の予定を立てること、恋人に結婚を申し込むことから大きなビジョンを抱いて起業することに至るまで、人生のさまざまな場面で人はソースになり得ます。
振り返ってみれば、私たちはこれまでの人生で既に、何らかの活動のソースになったことがあるとがわかるでしょう。
ピーター・カーニック氏(Peter Koenig)とは?
現在、70代半ばに差し掛かっているピーターは、イギリスのロンドンに生まれ、20代半ば以降はスイスのチューリッヒを活動の拠点としています。
そして今なお、お金と人との関わり、お金をきっかけとした内面の変容、歴史的・文化的・社会的・精神的に深くシステムとして根付いたお金そのものに関する探求を続け、人々にその知見を提供されています。
彼自身の言葉によれば、彼は『お金が大好き』。
それは、小さい頃からずっとそうであり、幼い頃から学生時代、そして学生時代以降にも多くのお金を稼ぎ、若くして経済的な成功を収めたビジネスマンでした。
しかし、33歳の時に転機が訪れます。
これ以上稼いでも、自分のためにも、健康のためにも、周りの人のためにもならないと思い、これまでの働き方・あり方に大きな疑問符がついたと言います。それ以降、彼のお金と人との関係についての研究が始まりました。
その後の約7年の間に、彼はいくつかの重要な結論、特に、自由について重要な結論に達しました。
それは、人は、お金があってもなくても自由なのだ。そして、自由はお金の多寡とは関係ない、というものです。
このことは、彼の仕事における極めて重要なコア・メッセージとなりました。
ピーターは1980年代に経営コンサルタントとしての仕事を始め、ビジョン作成および組織変革プロセスに取り組むほか、1994年には初のお金に関するセミナーの開催、1999年にはマネー&ビジネスパートナーシップに関する新たな国際カンファレンスを開始しました。
この活動の中、何百人もの人々と出会う中で、なぜ組織の変革プロジェクトが失敗することが多いのか、なぜ創業者のビジョンが実現しないことが多いのかに興味を持つようになりました。
また、これらの活動の中で創業者や起業家たちのビジョンや取り組みについて、何十回も小規模なワークショップを重ね、組織の中における「ソース(Source)の役割」を意識し始めます。
さらに、「マネーワーク('moneywork')」という、お金との関わりを起点にソース(Source)の内面の変容を促すワークを開発し、人々に提供するようになりました。
これらの知見をもとに、人とお金との関わりに関してピーターがまとめた書籍が『30 Lies About Money: liberating your life, liberating your money』です。
その後、2009年からピーターは500人以上の起業家や創業者を対象としたリサーチにより、ソースに関するアイデアを精緻化し始め、『Source Principle(ソース原理)』へとまとめ上げていきました。
ここまでの一連の流れとイニシアティブを貫いている、ピーターの人生の目的が「ビジネスに愛をもたらす(create love in business)」です。ピーターによる同名のイニシアチブであるCreate Love in Businessについては、こちらをご覧ください。
また、上記のピーターの旅路については以下の記事でもインタビュー形式で紹介されています。よろしければこちらもご覧ください。
ピーターに学んだ海外の実践者たち
また、ソース原理(Source Principle)の開発者ピーターには、世界各地にソース原理、マネーワークを学び、独自に発展させているお弟子さんに当たる人々がおり、彼ら彼女らが中心となってソース原理に関する記事や書籍をまとめ、紹介されています。
日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて記事として紹介されたのは2014年のことです。
2014年。ナーディア(Nadja)ことナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)がWhose Idea Was it Anyway? The Role of Source in Organizationsと題して、組織におけるソースの役割を初めて記事にまとめ、発信しました。
次に、2019年にステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)が『A little red book about source』フランス語版を著したことで初めて体系的にソース原理が書籍にまとめられ、同書は2020年に英訳出版されました。
その後、2021年3月にトム・ニクソン氏(Tom Nixon)による『Work with Source』が出版されました。
この後、トムの書籍は2022年10月に、ステファンの書籍は2024年10月に邦訳出版されることとなります。
この他、『#Masterpiece』著者であり、エクストリーム・アーティストであるアレクサンダー・インチボルト氏(Alexander Inchbald)、ピーターのパートナーでありビジョンワークの実践者であるバーバラ・クンツ氏(Barbara Kunz)、トムのパートナーであり、ナーディアとも協働しているアグネス・オッツェルバーガー氏(Agnes Otzelberger)、『すべては1人から始まる』の中で紹介されているチャールズ・デイヴィス氏(Charles Davies)など、ピーターから薫陶を受けた数多くの実践者が世界各地で活動しています。
国内におけるソース原理の広がり
日本におけるソース(Source)の概念の広がりは、2019年のフレデリック・ラルー氏の来日時に初めて紹介されたことが契機となっています。
彼もまた、ピーターとの出会い、ピーターからの学びを通じて、2016年出版のイラスト解説版『Reinventing Organizations』の注釈部分で記載している他、『新しい組織におけるリーダーの役割』と題した動画内で、このソース原理(Source Principle)について言及したということもあり、国内で注目が集まりつつありました。
その注目度の高さは『すべては1人から始まる(原題:Work with Source)』出版前に著者のトム・ニクソン氏の来日が実現する、といったことからも見てとれます。(オンラインでのウェビナーの他、北海道・美瑛町、東京、京都、三重、屋久島など全国各地でトムを招いての催しが開催されました)
そして、2022年10月。山田裕嗣さん、青野英明さん、嘉村賢州さんが翻訳を務め、国内で初めてソース原理(Source Principle)について体系的に紹介した書籍である『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されました。
『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門に入賞し、同年9月にはHRアワード入賞記念企画の実施、さらに、2023年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現しました。
ピーター来日企画の際は、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われ、これ以降、ピーターが継続的に来日する流れが生まれました。
同年11月には有限会社人事・労務およびNatural Organizations Lab株式会社の吉原史郎さんらJUNKANをキーワードとする有志の皆さんにより、ピーター及びバーバラの招聘企画が実施されています。
海外の実践者たちとの交流が盛んに
2023年以降、トム・ニクソン氏の書籍の出版をきっかけに、国内では海外のソース原理実践者との交流が盛んに行われるようになりました。
以下、私自身も交流があったり、継続的に情報を追い続けているソース原理実践者の方々4名が、どのような形で国内の実践者の皆さんと場を共にするようになったのかを紹介していければと思います。
アレクサンダー・インチボルド氏
アレクサンダー・インチボルト氏(Alexander Inchbald)は極地での芸術活動・表現活動を行うエクストリーム・アーティストであり、時にピーターと協働するコーチ、コンサルタントです。
また、アレクサンダー個人は、人にとっての人生の最高傑作を世界に送り出すためのプログラムの提供等を通じて、変容と実践を促すイニシアチブ #Masterpieceのソースでもあります。
日本人実践者とアレクサンダー・インチボルト氏との交流は、2023年6月にギリシャのイオス島&サントリーニ島でのプログラムJ-Creationをきっかけに深まり始めます。
宇敷珠美さんが主導してオーガナイズされ、嘉村賢州さん、吉原史郎さんのお二人がゲスト講師として参加された本プログラムには、アレクサンダー・インチボルト氏(Alexander Inchbald)と、ソース原理(Source Principle)およびマネーワーク提唱者ピーター・カーニック氏が講師として名を連ねていました。
そして、本プログラムからの帰国後、参加者であった杉本匡章さん(MAP U 株式会社)は2023年10月に賢州さん、史郎さんと共に以下のような報告会を実施されています。
また、エクストリームアーティストであり、自らをレインメーカーだと語るアレクサンダーと共鳴した匡章さんはこれ以降、アレクサンダーの提唱する人生の最高傑作を世の中に送り出すための変容と実践のイニシアチブ #Masterpieceについて積極的に国内へ紹介されるようになりました。
そしてアレクサンダーは、ピーター、匡章さんらと共に昨年11月から今年3月まで約半年に及ぶJ.Masterpieceというイニシアチブを旅のガイドとして提供されていたことに加え、9月の来日中には匡章さんと協働してパートナーシップワークショップを実施されていました。
ステファン・メルケルバッハ氏
ステファン・メルケルバッハ氏(Stefan Merckelbach)は、コーチング、コンサルティングを行うオーディナータ社(Ordinata)において、ソシオクラシー(Sociocracy)をルーツに持つ組織運営体系『参加型ダイナミックス(participatory dynamics)』の提供を企業やチームに行う実践者です。
また、2000年に小学校設立に携わり、2021年まで小学校設立・運営プロジェクトのソースおよび小学校の校長として活動していた、教育者としての顔を持つ人物でもあります。
『A little red book about source(邦題:ソース原理[入門+探求ガイド])』著者のステファン・メルケルバッハ氏と日本人実践者との交流は、『すべては1人から始まる』翻訳・監修をされたお一人・青野英明さんの熱量と貢献によって縁が取り持たれ、始まりました。
2023年7月、ステファンの拠点であるスイスで実施されたプログラムには、ステファンの他にピーターが講師として加わり、日本からは青野英明さん、嘉村賢州さん、吉原史郎さん・宮慶優子さん、RELATIONS株式会社の皆さんや、現在はドイツ・ボン在住の相川千絵さんが現地の通訳として参加するという大規模なものとなったといいます。
このプログラムの報告会は別日程で幾度か開催されており、このプログラム時にステファンと交流したメンバーが、後のステファンの書籍の邦訳出版および招聘イベントの企画、ソースワークの提供の中核的な役割を担うこととなります。
そして、スイスでのプログラムから数ヶ月後の2023年12月〜2024年1月。
ステファンとパートナーのクローディーヌさん(Claudine Merckelbach)が来日され、クローズドのプログラムおよび公開プログラム等を通じて『すべては1人から始まる』で紹介された内容とは別側面のソースの質感について紹介いただきました。
さらに、2024年10月に『ソース原理[入門+探求ガイド]』が青野英明さん・嘉村賢州さんの翻訳・監修のもと英治出版より出版されることが決まり、ステファンとクローディーヌさんの再来日もこのタイミングに合わせるように決定されます。
2024年9月半ば〜10月半ばにかけての来日中、ステファンとクローディーヌさんは日本全国を巡りつつ、東京、大阪、京都、福岡、小石川で講座やワークショップを実施し、ステファンが独自に発展させつつあるソース原理の実践についてご紹介いただきました。
そして、2025年2〜3月にかけて、2024年のステファン招聘プログラムに携わったティール組織の第一人者・嘉村賢州さんが監修・進行を行うソース原理実践ワークショップが東京・京都で開催されることが決定しました。
本プログラム講師にはステファンに加え、場とつながりラボhome's vi/ティール組織ラボから嘉村賢州さん、丸毛幸太郎さん、RELATIONS株式会社からは高橋直也さん、廣瀬信太郎さんらが名を連ねています。
ナジェシュダ・タランチェフスキ氏(ナーディア)
心理学修士号を持つコーチであるナーディア(Nadja)ことナジェシュダ・タランチェフスキ氏(Nadjeschda Taranczewski)は、マネーワークおよびソース原理を提唱者ピーター・カーニック氏に学んだ実践者です。
彼女はドイツ・ベルリンにて、パートナーであるオルガ・タランチェフスキ氏(Olga Taranczewski)らと共にConscious Tribe(意識的な部族)へと変容していけるよう、世界中のCEO、創業者、企業を対象にさまざまなプログラムやトレーニングコースを開発・提供されています。
そして、ナーディアの著書である『Conscious You:Become the Hero of Your Own Story』は現在、邦訳出版プロジェクトが進行しています。
お金に対する一人ひとりの価値観・投影(projection)ついて診断・介入できるシステムであるマネーワーク(moneywork)の実践・国内への紹介に情熱を注いでいた青野英明さんは、日本人としていち早くナーディアと繋がり、彼女のサポートも受けつつ、マネーワークプログラムを実施されてきました。
そして、2023年の夏。青野さんはRELATIONS株式会社の皆さんらと共にドイツ・ベルリンにてナーディアが提供するセッションに参加され、この出来事をきっかけにナーディアと日本人実践者との交流が盛んになり始めます。
ナーディアの書籍である『Conscious You:Become the Hero of Your Own Story』の邦訳出版プロジェクトも始動し、天外伺朗さんが実施している天外塾でもご一緒されていたというご縁から、邦訳出版プロジェクトには宇宙物理学修士号を持つボディーワーカーにして、臨床身体学を立ち上げ探求を進めている小笠原和葉さんも加わることとなりました。
そして、2024年3〜4月にかけてナーディアはパートナーのオルガと共に来日し、ソース原理、マネーワーク、また、自身の著書の知見を北海道美瑛町、東京、京都などでご紹介いただき、後日、日本人ホスティングメンバーによる振り返り企画が実施されました。
その後、2024年夏にはhome's vi/ティール組織ラボ主導でナーディアの書籍内のコンテンツを抜粋し、オンラインで学ぶ全4回の特別プログラムが実施され、同年9月にもナーディア、オルガの再来日が決定。
神奈川県湯河原にて同じくナーディア、和葉さん、賢州さん、青野さんは書籍邦訳出版に向けた記念講演会を実施された他、2泊3日の合宿型プログラムホールシステム・リーダーシップ探求ワークショップが開催されました。
ピーター・カーニック氏
「人とお金の関係」や「お金が生み出される人の意識と社会システム」の研究者であるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)は、2024年以降、有限会社人事・労務、JUNKANだいこんのみなさんらと頻繁に場を共にされるようになりました。
有限会社人事・労務、JUNKANだいこん、ピーターの協働は2023年11月のイベントに始まり、2024年3月には非営利株式会社eumoの共同代表の新井和宏さんらとの共同イベントの実施、2024年9月には有限会社チェンジ・エージェント代表の小田理一郎さんとのトークイベントの開催など、その模様は以下のページにて紹介されています。
Junkan-Aidaというこのイニシアチブでは、ピーターの書籍『30 Lies About Money』の邦訳出版プロジェクトも現在進行中であり、今月からは全8回・毎月1回開催の本書の探求読書会も実施が予定されています。
また、2024年9月には上記のJunkan-Aidaとは別のイニシアチブ……ピーター自身が創始したsummit of summitsというイベントが箱根で開催されました。
運営コアチームには、ピーター自身の他にアレクサンダー・インチボルト氏、青野英明さん、嘉村賢州さん、宇敷珠美さん、通訳には人や組織、社会のさまざまな変容(Transformation)の翻訳に取り組まれる福島由美さん、招待客として杉本匡章さんも参加されるなど、錚々たる面々が集ったsummit of summits。
後日、北海道美瑛町で開催されたホールシステム・リーダーシップ探求ワークショップにて杉本匡章さんからも当日の様子も伺うことができ、その内容の一部をレポートにまとめることができました。
また、令三社の共同創設者でもある青野英明さん、嘉村賢州さんらによってsummit of summitsの振り返り企画が実施されており、その様子は以下の動画からご覧いただけます。
終わりに:私自身の探求
最後に、私自身のソース原理探求のプロセスを振り返って、このまとめを終えていこうと思います。
私自身がソース原理に触れる直接のきっかけとなったのは、実家で兼業米農家を営んでいた父からの事業承継でした。
2019年以前の私は京都を拠点に場とつながりラボhome's viという団体で従来の延長線ではない新しい組織づくりの海外の事例の研究・紹介や、経営や人材育成の課題に取り組むプロジェクトでファシリテーターとして活動していました。
しかし、父の病を機に地元・伊賀と京都の行き来が多くなり、父と子としての対話を短い時間ながらも行い、そして「僕が田んぼをやっていくよ」と父に伝え、家と農業機械、田んぼを引き受けて米作りを継続していくこととなりました。
「僕がやるわ」と伝えた時、父は「やるの?大変やぞ?(笑)」とからかうような調子で、果たしてうまく伝わったのかよくわからないような、スッキリしない気分になっていました。
後日、私が田んぼをトラクターで耕し終えた様子を母が写真に撮って病床の父に見せる機会があったそうですが、そこで父は涙を流していたと言います。
この話を聞いて、私はようやく父に認められたような、そして、父の願いを継げたような、そんな気持ちになりました。
そのような思いは父と私が共通して持っており、それを確かめ合えたような気持ちとなったのでした。
しかし、この事業承継は私の人生にとって大きな転機であり、それ以前のやり方では継続していけないことは明白になっていました。
2つの異なる業種・業態の事業を回すことや、家族との関係、仕事や組織づくりに対する価値観が京都と伊賀の環境でまったく違っていたという状況で、それらを統合するにはどうすれば良いのか?と日々、試行錯誤していました。(その際の様子は以下のマガジンにまとめています)
そんな時に出会ったのが、ソース原理でした。
ソース原理のレンズを通して私が体験した物事を見ると、「私は父からソースを継承していた」ということや、「事業承継のために父に話をしたことは、リスクを取って一歩踏み出すソースとしての振る舞いであった」ということ、「ソースは前ソースから価値観は継ぐものの、描くビジョンやアイデア実現に向けて取りうる手段は変わりうる」ということがクリアに理解できるようになったのです。
そして、私にとって事業承継は「父の人生の歩みの一部を、私なりの形で引き継ぐことでもあった」という捉え直しも起こりました。
とはいえ、事業はソース単独で行うものではないため、以降も試行錯誤は続きましたが、この気づき以降、明確に私の人生は変わり始めました。
後に、この時の出来事を『すべては1人から始まる』著者のトムや、『ソース原理[入門+探求ガイド]』著者のステファンともわかちあえたことは、大きな喜びでした。
また、ソース原理と事業承継の体験は、『人と組織のポテンシャルを発揮するための叡智を、より多くの必要とする人や、次の世代へ伝えていくこと』という現在の私の活動の源の発見することにつながりました。
まず、父から事業承継をした際、暗黙知で運営されていた家族経営ゆえに米作りの作業の工程表や年間計画・スケジュールといった資料がほとんど残っていないという状況でした。
そのため、ほぼゼロから情報をかき集めて共有知化したこと、まとめたナレッジをもとに業務分担やアウトソースができるようになった体験は、「経験や体験を知恵としてまとめること」や「遺すこと・伝えること」の大切さを痛感させてくれる出来事でした。
そして、私にとって「遺すこと・伝えること」の対象は業務上のナレッジだけではなく、「ある人の人生を懸けた取り組みや歩み」や「人と人の出会いや巡り合いによって紡がれた物語」をも含んでいます。
ソース原理という人の創造性に関する体系もまた、先人たちの歩みや貢献があったからこそ、現在の私たちはそれらを叡智を日々に活かしていけるようになったわけです。
そうであるならば、先人たちに敬意を払い、彼ら彼女らがどのような人生を歩む中でソース原理を体系化し、あるいは出会い、そして実践してきたのかを伝えていくことは、自分に与えられた役割ではないか?と感じる今日この頃です。
私という1人の人間の限界によってこの記事にまとめきれなかった情報等もあるかと思いますが、このまとめがご覧いただいた皆さんの探求の一助になれば幸いです。
今後もソース原理に限らず、『人と組織のポテンシャルを発揮するための叡智を、より多くの必要とする人や、次の世代へ伝えていくこと』を大樹が根を張り、枝を広げ、葉を繁らせ、何世代先にも続いていくようなイメージを持ちつつ、取り組んでいきたいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございます。