シェア
すっとこどっこい丸
2024年10月18日 03:22
正しさというものが人を豊かにするとは限らないのに大人は「気をつけ」を強いる言葉を好むある日に時間をかけて整理した背の順の待機列は休み明けにはすっかり塗り替えられていたかつて自分の前後に立っていた同級生の姿を見つけてもそこに僕の居場所はない周りを見渡して自分と同じくらいの背丈の同級生を見つけるのがこの時僕たちに課せられた使命でありまるで握手でもするかのように互いの背筋を寄せ
2024年10月5日 02:39
鮮魚コーナーで 秋刀魚の値段に顔を顰めていると野菜売り場の見切り棚に残された 里芋が目に入った椰子の木タワシ満員電車の後頭部平凡な連想の後 買い物かごに押し入れる里芋といえば煮っ転がしか。椎名町駅前の 立ち食い蕎麦屋と交番の間を通り抜けながら「煮っ転がし」について考える。ずいぶん可愛らしい言葉だな。どうにか普段使いできないものか。身体を 煮っ転がすのは難しい風呂は身
2024年9月19日 00:20
徹夜明けの水曜日僕は聞いたことのない音楽の解説動画を観ている楽器がどうとかコードがどうとか転調がなんだとか文字で言葉で合成音声で語っている僕はその曲を聴いたことがないしこれから聴く予定もないけれどいつか偶然出会ったときに合点がいくのだろうかどうなるかは分からないし僕は音楽について明るくないけれどいつか誰かが僕の詩をメロディにしてくれたら素敵だなとそう思った
2023年9月25日 18:12
今、良い詩を書いている良い詩を書いているのに、嫌な通知が飛んできた。思考を横取りされて不完全のまま沈み込む今はとっておきの詩よりも謝罪の文面を考える必要がある『も』と打ったら『申し訳ございません』が最初に出てくる『蒙昧』は出てこない僕の言葉はどちらだろう僕の心はどちらだろう『申し訳ない』と思う気持ちは本当だが定型文じみた謝罪は「口先だけのでまかせ」らしいならばい
2023年9月6日 15:37
昼過ぎに電車に乗ってスーツを着ていない社会人と非社会人を勝手に仕分ける鞄を右肩に食い込ませ左半身を庇っているあの男性は前者沢山の色を取り寄せて複雑に編み込まれた服を着たあの女性は後者前かがみでゆったり頁をめくっている初老は前者で必死に液晶画面をなぞっている少年は後者車内の振動に抗わずに壁に身体をぶつけ自分を罰する術を探している彼は前者彼の直ぐ側に腰掛けて顰め面で彼
2023年7月5日 05:34
死に急ぐように喫煙所へ向かう僕の仕事デスク同僚との会話2万円ほど入った財布自宅の鍵読みかけの文庫本買ったばかりの天然水600mlスマホの充電器終わらない仕事それらは10階にあるけれど喫煙所は9階が上等タバコとライターだけ僕に従う1日には人知れず落ち込む瞬間が必要でそのためには決まった場所が1つあればいい僕の足元は気まぐれにまだ開けたことのないドアを探して
2022年10月18日 01:14
眠れぬ夜は今日ではなく昨日の僕を布団の中で追いかける過去は僕ではない人の言葉で語られる屈折した光の向こう拾い損ねたものを探す景色は浅いまま自室と社会を行き来する答え合わせをするように白と黒を繋ぐ新鮮な空気の端と端に絡まった口唇になにか暴力的なものを感じて頭を掻きむしった。窓を抜けると鈴虫が影を何重にも重ねたような暗がりを引き連れて夜を下ってゆくところであった
2022年9月4日 08:04
あの日あの時こうしてたらってタチの悪い呪いだよな標識の文字が錆を着てるから試すようにしか歩けないこんな歩幅で飛べるわけない水たまりを躊躇なく踏みぬくことができたあの頃の勢いは僕のどのあたりに沈み込んでしまったのだろうか。進めたはずの創作に主題をつけることができないまま消してしまう時がある自己否定に名前をつけてしまうと1日が急激に短くなって人は老いてゆくと知ったから
2022年5月19日 02:00
赤坂駅で他人の不幸自慢を一通り聞いて僕は電車に飛び乗った静止から抜け出す車内で僕の意識は足元を貫通し線路上にある己の肉片に手を伸ばした。かつての肌色は内側から押し寄せた赤と混じり合いかつての体温は摩擦熱と鉄の冷たさに上書きされかつての輪郭は内部から荒々しく食い破られた。継ぎ目と呼ぶにはいささか乱暴な断面から微かに漏れ出すものは身体の内側に溜め込んでいた生命活動の名残
2022年5月7日 01:55
「何ソレ。マジウケる!!」アニメや漫画でしか聞いたことのない表現を忠実に再現する存在。その軽い言葉に少し怯んだ僕は,彼女たちの言葉が何でできているのか知りたくなった。僕の言葉は、小説と、詩と、少しの映画と、懐かしい音楽でできている。彼女たちの言葉は、きっと、他の誰かの言葉でできている。会話から会話を生み出すことが苦手な僕は、彼女たちが使う言葉を使いこなすことが出来ない。彼女たちの
2022年5月6日 00:25
『ちょっといいかな?』或る夕暮れ頭髪の紅い紳士が僕を呼び止めた紅髪の紳士など居るハズがない。けど僕には紳士と呼ぶ以外にその男の気品を巧く表すことができなかった。『ちょっと街まで行きたいんだ』紳士がそう言うので僕は彼を街まで送り届けることにした。この紳士の言う街とは、どのような場所を示しているのだろうか。それは頭の悪い僕には難しすぎる問答でだから僕たちは馬鹿みたいに道
2022年5月1日 13:53
活力に満ちた教授を尻目に僕は時計を見ていた。時計の意識はどこにあるのだろう。長針か、短針か。歯車か、文字盤か。電池だろうか。それとも、設計図だろうか。その機構を理解することができない愚かな僕には彼の活動を急かすことも疑うことも許されていない。何やら難しい話をしている教授は希望に満ちた優しい言葉を最後に添えた。僕らくらいの若造には丁度いい美談だった。顔を動か
2022年5月1日 02:43
車内は怪物の腹の中みたいに沢山の人が詰め込まれていた。そういう日に限って、電車は活発に振動する。その振動に同調した僕の肘が目の前の男の背中に当たった。男はこの窮屈な車内で、わざわざ振り返って僕を睨みつけた。その男ときたら、服もズボンも、バッグも靴も、全部青色だった。マスクまで青かったな。青く無い所といえば、髪の毛と肌くらい。つまり、持って産まれた部分以外はゼンブ青で統一していた
2022年4月27日 23:49
僕を言い訳にして朝が遅刻する『あなたがいつまでも起きているから私の準備は遅れたのよ。』太陽はこの星を照らすために輝いているわけではないのに時折そんな風に嫌味を言う。目の前を我が物顔で横切る蟻を思わず足で払ってしまいたくなるような衝動が太陽にもあるのだろう。朝日の透き通るような鋭さこの植木この建築この身体この世界の影をまとめて縫い合わせてしまう強烈な光線