【詩】 人喰い駅

赤坂駅で
他人の不幸自慢を一通り聞いて
僕は電車に飛び乗った

静止から抜け出す車内で僕の意識は足元を貫通し
線路上にある己の肉片に手を伸ばした。



かつての肌色は
内側から押し寄せた赤と混じり合い
かつての体温は
摩擦熱と鉄の冷たさに上書きされ
かつての輪郭は
内部から荒々しく食い破られた。

継ぎ目と呼ぶにはいささか乱暴な断面から
微かに漏れ出すものは
身体の内側に溜め込んでいた生命活動の名残りであり
感情や思考とは無縁のものだ。

計測可能な部分だけを器用に残した僕の混合物は
顔の無い気怠げな清掃員によって
黒のビニール袋の中に仕舞われてゆく。

僕は
最後に己の背中を押した自問自答の答えを
誰に引き継ぐこともせず
見えないモノを誰にも見せないまま
独りで勝手に死んでいった。



振動に身体を馴染ますように
縦に横に振れる僕は夢現で
下らない空想から抜け出す機会を失っていた。

きっと
さっきの行列のどこかに
次の生贄が潜んでいる。
自分にしか聞こえない声に耳を澄ませながら
それを悟られまいと
しっかりと前を向いて
飛び込む順番を待っているのだ。

その正体は
もしかしたら僕かもしれない。


間も無く乃木坂駅に着く。
演技じみたアナウンスと神経質なブレーキ音がそう告げている。

けれど僕は
赤坂の駅の線路にこびりついた
かつて僕だったモノたちから目を背けることができないまま
抜け殻みたいに弛緩した肉体の重さを
丸ごと吊り革に預けていた。



別に自殺願望があるわけでは無いが、たまにはこうした陰鬱とした詩を書きたくなる時がある。
こうした黒々とした感情を書いた詩は、特に下書きとかすることなく、一息で書き切った方が良かったりする。

僕は幸いにも、人身事故の現場に居合わせた事がないので、清掃員や黒いビニール袋の下りは完全に想像です。

死体には体温も感情も宿らない。
その呆気なさを書きました。

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