【詩】 難しい会話


「何ソレ。マジウケる!!」


アニメや漫画でしか聞いたことのない表現を忠実に再現する存在。
その軽い言葉に少し怯んだ僕は,彼女たちの言葉が何でできているのか知りたくなった。

僕の言葉は、小説と、詩と、少しの映画と、懐かしい音楽でできている。
彼女たちの言葉は、きっと、他の誰かの言葉でできている。
会話から会話を生み出すことが苦手な僕は、彼女たちが使う言葉を使いこなすことが出来ない。

彼女たちの口唇は競い合うかのように激しく伸縮し
舌は扇風機みたいにベラベラ回転し
表情はまるで脈絡がない。

そんな彼女たちを見て僕は
長編小説の挿絵だけを眺めているようだと思った。
しかしそんな感想も
まるで会話に適していないから
僕はもっと明快な例えを
思いつく必要があった。

僕が何かを言い淀む間にも交わされる
忙しない相槌と淀みない進行。
彼女たちは
感心している僕を置き去りに
新宿三丁目の駅に颯爽と降り立ち
更なる会話を創りにいった。


一転
静かになった車内
その空白を埋めるため
彼女たちの言葉を反芻する。
会話にはそれが必要だから。

『ウケる。』

面白い、という意味だ。
少しの嘲りも内包しているかもしれない。

僕は面白いことに目が無いので
小さなノートを開いて、さっきの会話を文字に起こした。


「堀口、アキのこと好きらしいよ。」

「マジで?アキまだ彼氏いるよね?」

「うん。年上の。」

「てか、アキ年上好きすぎね??」

「それな。堀口老け顔だからワンチャンあるくね?」

「そういう問題じゃないでしょ。」

「オッサンみたいな顔だったら誰でも良いんじゃないの?」

「何ソレ、マジウケる!!!!」


どうやら
少しの嘲りも
内包しているのかもしれない。

会話にはそれが必要だ。



数週間前の日記です。
僕は気の利く男なので、会話部分の名前は偽名を使っています。

この会話を書き写した「小さなノート」のページは、もう破り捨てました。
僕の人生には不必要に思えたので。

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