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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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#詩

谷川俊太郎さんのこと

遅ればせながら、数日前に詩人の谷川俊太郎さんが亡くなられたことを知った。 どなたかも書いておられたが、氏は、このままずっと居てくれるような気がしていた。 まだ日本に住んでいた頃、とある美術館を訪れた際、周囲から異彩を放つかのように、眼光の鋭い御老人を見かけた。 谷川俊太郎さんだった。 すぐに気づいたが、静かに椅子に座って居られるだけなのに、その圧倒的な存在感に気圧されて、とても声などかけられなかった。 その日は、息子さんである作曲家・谷川賢作さんが音楽を担当し、朗読会が開か

息苦しくなったら空を見上げよう。

人の反応や言動に疲れてしまう全ての人へ 投稿5時間しか経っていないのに100スキも ありがとうございます💞 それだけ近い感覚を抱く方は多いんですね。 言葉が多く、強い方ばかり蔓延る世の中で 何も言わずに黙して感じている人がいます。 誰かの教えを乞うことは良いことですが 本当の深いところでは誰も 誰かの先生にも生徒にも本当はなれない。 noteでもSNSでも世間でも色々な人がいます。 繋がりを大切にしながらも、 時には繋がりが密になってくると 心の距離感を

空洞です _谷川俊太郎「詩人の墓」に寄せて

 谷川先生が亡くなった。  詩人の、谷川俊太郎氏か11月13日に亡くなった。  私は、作家に対して、詩人に対して、「先生」と日常的に呼ぶことはほとんどない。ご本人を前にすれば当然「先生」と呼ぶだろうが、頭の中で考える限りは、そのように呼ぶことはない。しかし、谷川先生だけは谷川先生と呼びたくなる。  日本で、これだけ多くの人に「私はこの詩が好き」と言わせた詩人は、そうそう居ないのではないだろうか。 「二十億光年の孤独」「これが私の優しさです」「生きる」「朝のリレー」「みみを

砂糖つぶはスピカの隣で眠っている

火星人が捨てた砂糖つぶ 僕はそれを拾って 口に入れた あまいのがじわじわと溶けて 唾液がひたひたとあまくなった 砂糖つぶは体の中をコロコロと転がって 僕の言葉を拾っていく 砂糖つぶはぶつかって 僕はたまに痛くなる 喉が 心臓が 胃が 腸が 火星人の捨てた砂糖つぶは いつの間にか凸凹になって 最後はこんぺいとうになった        ── どこへいく砂糖つぶ  世界が夜に支配された頃  僕の砂糖つぶは  スピカの隣で眠ってる

掌編: 霧にいた二十年

 霧の朝を車内で迎えた。 二十年記念日は雲海を見ながら過ごしたい、 そんな夫の要望で日付が変わる頃には家を出て、車内で眠っていた。  目覚めると辺りは霧の中。ほんの数メートル先が幕を張ったように不透明。対向車のヘッドライトも白味がかってマイルドな光を射す。 めくる風景は山林で、枝がない真っ直ぐな杉が整然と緑を成していた。 「もうすぐ着きますよ」  夫は正面を見たまま、私の起きた気配で声をかける。 「山ってもっと鬱蒼としているかと思いました」 ドリンクホルダーから取るミルク

正直、創作に嫌気がした人へ

 頭や理屈で判っていても、 心が受け入れないときがある。  なんの慰めにもならないけど、 気分が換気できればと思い、書いてみる。  わたしはコロナ禍にある頃、 二軒のクラブから雇われママとしてスカウトされた。理由は聞いてない。聞いても忘れた。  その頃は皆さまもご存知のように、飲食店は大打撃に遭う最中。 「いつまでも世間は閉じてない。 やがて再開する日が来るので、そのときにお願いしたい」とのことだった。  雇われが付いても、ママ。 一体どんな仕事で、なにを、と実社会

ひと色のことばの連弾

夜明けは一瞬しか見えない クリームソーダのはじける泡のように 夢とともに消えてしまう 星が天馬の駆ける別の空に 翔んでゆくのを 薄く空いたカーテンから眺めた 子うさぎのちいさな耳に生えた ひかりが少しずつ溶けて やがて朝ははっきりとした朝になる ポケットいっぱいのキャラメルを 今日はいったい誰にあげようかと思う ためらいも恥じらいも捨てて お砂糖の甘い匂いにほころぶみたいに ただ好きだと言えたらいいのに ただ思っていると言えたらいいのに ことばにできないことをそのま

【閲覧注意】ブスの受難

ブスに生まれると大変なんですよ 皆さま、ご存知でしたか? この、わたしが身をもって ブスの受難を説明しますね まずね、生まれた時から可愛い写真がないの 笑っているし、幸せそうですが 顔が残念で、服だけ際立つんですわ 制服は可愛かったんです ですが、なにせ顔がね 青春時代を送っても、ブスはモテません こんなブスに欲情する人はいません ブスですから 性格の悪さは顔に出ると決めつけられます わたしから言わせれば ブスをよりブスにしてるのはどう考えても周りの 人間で、物

短編: 理想と生きる体感

 木の実と葉っぱをお土産にし、食べずに飾っておくことにした。    飼い主のタツジュンとハムスターの僕は、秋の暖かな日差しの中、田舎へ向かった。  都会の喧騒を離れ、自然の息吹を感じる瞬間、心が解き放たれるようだった。  車窓から見える緑は絵画のように美しい。  田んぼに到着し、畦道で遊んでいると、 僕はリスたちに出会った。  最初は警戒していた彼らは、僕が持っていたドライマンゴーに興味を示し、徐々に近づいてきた。  リスの目は好奇心に満ち、僕は彼らにそれを差し出す。

短編: 僕が田んぼに来て思うこと

 金色に錘が付いているような、 僕は初めてお米の実を見た。 野原と同じ匂いがして、風は吹いても音がない。 「これがご飯になるの?」  ハムスターの僕は、穂の中へ白い粒があるぐらいにしか考えてなかった。 「そうそう、脱穀して玄米から更に白米にして」  飼い主のタツジュンは人間だから普通のことでも、僕には意味が分からない。  ダッコク、ゲンマイ、ハクマイ。金色の粒には過程があるのだけは承知した。 「ねぇ。田んぼってどうなってるか、見ていい?」  畦道に下ろしてもらった僕は、

短編: ももまろの『アリとキリギリス②』

←前編  私はてんとう虫。  アリやキリギリスとも良好な関係を保ちながら野原で生活しているつもり。 しかしアリのキリギリスへ示した態度に幻滅した。  アリは勤勉よ。仲間で女王アリを支えているのは野原の住民なら理解している。 私たちはアリへ口出しをしない。 アリの生き方だもの。  私が思うのは、キリギリスは怠け者と悪口を言われたけど、キリギリスは3〜4ヶ月しか生きられない。  あの音色だって、生まれつき出せる音ではなく、苦しい身体の変化を何度も繰り返し、やがて演奏ができ

ももまろの 『アリとキリギリス』

 秋も深まり、キリギリスは演奏を止め、どこか日の当たる場所が近くにないか探していました。  重い身体で足取りも危うげなキリギリスは目を閉じて休憩していると、大量のアリに囲まれ、 キリギリスには心当たりのない悪口を言われます。 「キリギリスは我々にエサを求めるな!」 「夏の間、遊んでんじゃないよ!」  アリはキリギリスが無抵抗なのを良いことに、様々な悪口を言い出します。 そして、 いかにアリは勤勉で優れているか語り始めます。  キリギリスは仲間の、冬眠できるクビギリスか

短編: 紙の黒い付箋

 この付箋を貼れば必ず不幸になる。 手元にある黒の付箋は減ることがなく、悪魔は気まぐれにすれ違う人の背中へ貼っていく。  悪魔は人間だった頃、無関心な社会に見捨てられ、孤独と絶望で腐り果てたのち、他者の不幸を楽しむようになった。  朝の混み合う駅で、傘を真横に持つ男の背中に貼りつけたり、長蛇の列に割り込む女へ貼ったり、なるべく悪魔は罪悪感のないよう、人としてどうかと思う人間に付箋を貼る。  悪魔は付箋を貼った人の未来まで見越せない。 紙の付箋だからいつまでも背中に着いて

愛や哀しみ、つながりを示すもの

風の色合いを思い浮かべると、 毎年花粉の時期に訪れる黄色の濃淡が目に浮かぶ。 2月になると森を囲むようにその色が帯となり、 自然がわたし達に警告を発しているかのようだ。 天気予報を見れば、眼球は刺すような痛みが募り、 「ゴールデンウィークまで続くのか」 不安がよぎる。 今では一年中、花粉症に取り憑かれ、 風が吹くたびに気管支へ色合いを感じる。 強風が吹く日、 雨が同じ方向へ流れる様子を眺めるのは、 子どもの頃から好きだった。 戸籍上、2歳だった。 叔母が膵臓がんで亡く