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ももまろの 『アリとキリギリス』

 秋も深まり、キリギリスは演奏を止め、どこか日の当たる場所が近くにないか探していました。

 重い身体で足取りも危うげなキリギリスは目を閉じて休憩していると、大量のアリに囲まれ、
キリギリスには心当たりのない悪口を言われます。

「キリギリスは我々にエサを求めるな!」
「夏の間、遊んでんじゃないよ!」

 アリはキリギリスが無抵抗なのを良いことに、様々な悪口を言い出します。
そして、
いかにアリは勤勉で優れているか語り始めます。

 キリギリスは仲間の、冬眠できるクビギリスから話を聞いていたので、落ち着いてアリたちの悪口を受け止めました。
それでもアリは容赦なく辛辣な言葉は止みません。

 寒くて具合が悪いキリギリスは
「言いたいことはそれだけかな」 

 自分を囲むアリたちを見渡しながら
「何を根拠にそんなことを言っているかは分かっている。大昔の童話でしょう?
でも、キミたちの目で事実を見たのかな。
僕たちキリギリスは冬眠できない命で、誰かにエサを恵んでもらうことなく死んでゆく」

 アリは自分たちに逆らうキリギリスが許せません。
「怠け者のクセに偉そうな」

 分厚い雲は小雨を降らします。
キリギリスの身体はさっきより増して、だるくなっていきます。

「偉そうなのはどっちかな?
キミたちは夏の間、せっせと女王アリに尽くして、
自分たちが集めたエサを食べ、冷気に伴い身体が動かなくなる。
僕は寿命の限りを謳歌して、キミたちは女王アリのために働く。
どちらも自分が納得する生き方をしているのに、
童話を真に受けて、根も葉もない誹謗中傷するのは本当にみっともないよ。大人がやることじゃない」

 キリギリスは膝に力を込め、ジャンプすると後ろを振り向き
「集団じゃなきゃ何も言えないなんて、ダサい」

 そのまま、草むらへと姿を隠し、息が絶えてしまいました。

 残されたアリたちは雨が強くなるのも構わず
「みんながやっていることが出来ないキリギリスは
最低だ」「常識がないよね」
執拗にキリギリスの悪口を言い、団結を強めました。

 列になり、巣へ帰るアリたちはキリギリスの亡骸を見つけて
「協調性がないからバチが当たったんだね」

 こうしてアリたちは自分が間違ってないと自信を持ちます。

 キリギリスとアリたちの様子を見ていた
ダンゴムシやてんとう虫は
「キリギリスは誰にも実害を出してない」
「自分の人生の自由って、アリが決めるの?」
それぞれが首を傾げます。
 
 アリたちの干渉を不気味に感じ、
ダンゴムシとてんとう虫はアリに聞こえないよう、小声で
「アリには近寄れないなぁ」「何様なんだろう」
横たわるキリギリスへ近づき、祈りを捧げました。