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珠玉集

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心の琴線が震えた記事
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2023年9月の記事一覧

余白の神様 #短編小説

 夏。僕は「豚の警察」という本をお母さんに買ってもらった。読んでいて、僕はだんだん腹が立ってきた。話のすじ自体は面白いのだが、余白があまりにも多すぎるのだ。上下、左右、そして段落の間の余白が。 「なんだよ、これ。1760円もするけど、ぼったくりじゃん。余白をぎゅっと縮めたら、半分になるよ。そしたら880円で買えるのに」  僕は本の最後に印刷されている出版社の電話番号に電話した。 「はい、夏耳社でございます」 「こんにちは。中学一年の近藤貴志といいます。あの。『豚の警察

苦悩と共に生きたひと。

#ニュースからの学び 企画に参加します。 皆さんは、杉原美津子さんという方をご存じでしょうか。 私は杉浦さんを文芸同人誌の拙稿を編んでいるときに知りました。最初に杉浦さんの情報に触れたのが2000年。それ以降も、可能な限りその足跡を追っていました。NHKが杉浦さんの番組を放映しました。リンクは以下より。 この重い問いに答えを返すことは並大抵のことではありません。私も杉浦さんが抱えた懊悩と人生、その影と光を垣間見て言葉を失っていました。以下、文芸同人誌で私が綴った拙い論考

〔詩〕希望

真っ暗闇に ほんのりと 光かがやく その明かり ともしび 遠くに あるようで ほんとは 近くで 光ってる あなたに それは 見えますか あると思えば あるのです それは 自ら 灯すもの

乙女心をつくるもの

おぉ、それは面白そうだ! ・・・・と、手を挙げたはいいがさて、noteの記事において統一感のないわたしになにができるだろうかと考えた みゆさんとの出会いはサークルからでしたが、これまでそんなに絡むこともなく、語り合うには日も浅く…と。しかしながら、 コメント欄でね、チラチラと懐かしの作家さんたちのお話で盛り上がったのよね~。ってことで、わたしからはこちらをご提供させていただきます! 少女漫画を語りたい! 少女漫画の入り口 わたしが初めて少女漫画に出会ったのは、小学校2

SNSから距離を置いたら見えてきた、私の個性を書き残す意味

個性が大事と言われ、何年くらい経つのだろうか。その言葉を目にし始めて、個人を尊重することとは、1人1人を大切にすることだと教えられる。 個性をその人らしさとして、それを尊重するのが望ましいとなる。 普段目にする個性や個人は、どうしても情報の速さという上でSNSが主となっている。 人と違うことをして、人には経験出来ないことを体験し、その価値を提供することで認知されていく人達が多い。 毎日、日替わりで新しい人達に画面上で出会う。 これに素直に対応出来ない自分がいる。

短歌物語『宝の島は』

それは一生越えられない高い壁 そう思い込んで私は絶望していた。 吹奏楽に宝島という定番の曲がある。 とても楽しい曲だが、私は大好きで大嫌いだ。サビのグリッサンドが吹けないのだ。 ホルンには下の音から上の音へ無段階で駆け上がる奏法をよく求められる。グリッサンドといって、音楽に勢いをつけたり上昇気流を起こしたりするのに使われている。 宝島のグリッサンドは音程が高くて、私の技量ではできない。その音が鳴らなければ宝島にはたどり着けないと、私は長い間、とても長い間、錯覚してい

『土に潜り、たまに飛び出すも、潜り、きっと溶けゆく広大な海への夢を見ている。動いてはいるが『眠』であり、それもまた良きかなと思う。我は此処に在るもの。過ぎ行く者達の一時の場。』との事。私も頷き同意し良きかなと茶をすする。疲れたら土に潜るんだよ。豊かな山が豊かな海になるのだから。

母の光 (短編小説)

暮らしを共にしていない母とのやり取りは、Eメールを使うようにしている。 不規則な生活を送る母との連絡は、いつだって滑らかにいかない。 既読がついたことを確認してから、返信の有り無しにその都度傷つくより、“もしかしたら、メールに気づいていないのかもしれない”という淡い期待を持っていられる方が、いくらか気が楽だということに気づいたからだ。 メールを送ってから2日目の夜、返事はきた。 翌日、指定された喫茶店に入ると、角の4人席に母を見つけた。 「お待たせしました。こんにちは」

本好きへ捧げる30の問い【#本好きの30問】

本が大好きな人が答えて楽しいアンケートを作ってみました! 自分で答えてみてわかったことは…… 私の価値観、根っこの部分はあまりアップデートされてないな。ということ。 こうやって振り返ると。いろいろ思うところが(思ってもみなかったところも)出てきます。私という人間の価値観が形成される経緯を俯瞰で眺める感覚。自分でもなかなか面白い。 あとは考えることがシンプルに楽しい。読んだ時の状況とか、自分の心情とか、芋づる的にどんどん思い出すのですよ。 今まで生きて来てそりゃいろいろあった

魔法のじゅうたんに乗ったふたり

理想の人間関係を考えたときに、真っ先に僕の頭の中に思い浮かぶのは、あの男女ふたり組のことである。 彼と彼女は、お互いの異なる個性を認め合い、そして、お互いにその才能を高め補い合うことで 1+1=♾️ を実現したという点で まぎれもなく 最高の仕事仲間だったと言えるだろう。 でも、僕からすると、2人は、お互いのことをそれ以上の存在として認め合っているように見えた。 すなわち、 彼は彼女と 彼女は彼と 出会えたことで いつかこの世界を去るという事実が たま