人生を豊かに生きる3指標「智情意」とは? 渋沢栄一に学ぶ生き方の工夫
「なるほどこの3つの指標はめちゃくちゃ重要かも」
最近知った「智情意」という言葉。人間が生きて行く上で、持っておくべき重要な3指標を表しています。
知ったきっかけは渋沢栄一さんの著書「論語と算盤」でした。渋沢栄一さんは2024年に一万円札の新しい顔になることが決定していますね。「近代日本資本主義の父」とも言われ、約500の企業、約600の社会公共事業に関わったとされる超偉人です。ノーベル平和賞の候補に2度選ばれています。来年のNHK大河ドラマの主人公で、これからさらに注目されていくでしょう。
その渋沢さんの著書が「論語と算盤」。論語つまりは人としての思いやりや社会貢献の視点と、算盤つまりモノを売る商売の視点、この2つが揃っていないと真に優れた仕事はできない、という考え方を教えてくれる名著中の名著です。その中の一節に「知情意」という言葉が登場します。
この言葉の意図するところとは何か、そして我々が生活に取り入れる際の工夫についてみてみましょう。
「智情意」とは
「論語と算盤」の原書は今読むとかなり難解ですので、こちらの解説版をおすすめします。渋沢栄一の玄孫にあたる渋澤健さんが書かれた「あらすじ論語と算盤」。非常に分かりやすい文体でとても読みやすいのでオススメです。これから注目度が上がる渋沢栄一さんの頭の中を知る上でも、マストリードな一冊ではないかと思います。
そんな「論語と算盤」ですが、もともとの原書にはこんな一説で「智情意」は登場します。
「智、情、意」の三者が各々権衡を保ち、平等に発達したものが完全の常識だろうと考える」
少し難しい言い回しですが、意味としては『常識とはすべてが中庸にかない「智」「情」「意」の3つがバランスよく平等に発達したもの。』という意味合いです。
この言葉自体は哲学者カントが提唱した人間の心の3つの働き、「知性」「感情」「意志」から来ています。私たちがこの世でうまく生きていくためには、実はこの知情意をバランス良く保つ事が重要となります。
「智」:知性=物事を知り、考えたり判断する能力。
「智」つまり知性とは知ること、頭を使って考える事、判断することです。不十分な「智」は判断力を低下させます。また、「智」ばかり優れて「情」に薄いのも困りものです。「智」にはほどよく「情」を加えるのが良いと渋沢さんは説きます。
「情」:感情=心で感じる喜びや悲しみ、心の働き。
「情」とは感情のこと、物事に対して湧き上がってくる気持ちです。喜怒哀楽愛悪欲という七情の変化を抑制する意思を持たなければ感情に流されてしまいます。
「意」:意志=何かしようとする時の元となる心持ち。
「意」つまり意志とは「情」で流されるのを抑制する意志のこと。精神の働きの根源、物事を行うかどうかなど、心や行動をコントロールする能力の事です。意志が弱いと、物事の継続が難しく、揺れ動く気持ちから、周りから信用されなくなってしまいます。
「知性」「感情」「意志」の3つの要素は、それぞれ単独ではうまく機能しません。強固な意志に知性が加わり、情愛があって初めて完全な「常識」となる、と渋沢さんは説きます。
智情意の3つの要素は、それぞれが補いあう形でバランスを取ってうまく機能していると言えます。
「智情意」のバランスこそが重要
夏目漱石の「草枕」の冒頭にも、この「智情意」について触れている部分があります。
「山路を登りながら、こう考えた。 知に働けば角が立つ、情に棹させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 とにかく人の世は住みにくい。」
「知に働けば角が立つ」とは、正に「智」を指します。知的でいようとすると人間関係が穏やかじゃなくなるという意味です。
「情に棹させば流される」の部分は「情」。棹(さお)とは船をあやつる、さおの事です。これを情にさすと、思ってもいない所へ流されてしまうという意味。
「意地を通せば窮屈だ」の部分は「意」。自分の意地を通すと生きづらいという意味ですね。
つまり、「智情意」の内いずれかひとつが突出していても、それはバランスを崩すことになり、結局うまくいかないということ。この3つの要素の「バランス」こそが重要ということです。過ぎたるは及ばざるがごとし、ですね。
「智情意」のバランスをとるために
ではどのようにすればこの3要素のバランスをとれるのでしょうか。その工夫としては3角形のレーダーチャートをイメージして、自分の「智情意」の配分が今どうなっているのかを想像するのが有効です。
人によって、「知性」「感情」「意志」のバランスは異なりますし、同じ人でも、日によってそのバランスは変わります。
大切なのは「偏っていないか?」という視点です。どれか一つないしは二つだけが高まっている状態でも、三つ目がおろそかになっているとそれはよろしくないです。10点満点で、知性7、感情8、意志3など自己分析をして、足りてないと思うところを補う意識を持つことで、思考と行動が変わります。
偏りがあって当たりまえ
バランスが重要という話をしましたが、レーダーチャートが凸凹であることは悪い事ではありません。特に凸があることは強みです。誰しも得意不得意がありますし、それこそが個性とも言えます。
その強みをしっかりと大切にしながら、「足りてないところを補う」という感覚が大切です。凸凹がなくなるように平準化することが重要なのではありません。得意な所を凹ませる必要などありません。
自分の強みと弱みを知り、強みを大切に伸ばしながら、弱みを補うことで、強みがより光るようになるのではないでしょうか。
まとめ
人が人と生きて行く上で大切な3つの指針が「智情意」です。このバランスが崩れると、うまくいきません。例えば「智」ばかり高く「情」が低いと人間関係でうまくいかなくなります。
知性、感情、意志の3つをバランスさせることで、穏やかで豊かな心を保つことができます。人から好かれ、頼られ、人の協力を得ながら、志高く生きて行くことができます。
また、近年のテクノロジーの進化やSNSの浸透により、「智」のインプットは加速度的に高まっています。一方で、デジタルでは伝えきれない「情」の部分は希薄になりがちな世の中と言えます。そして、いろんな欲求がある程度満たされている今、「意」についても弱まっている傾向にあるのではないでしょうか。
「情」と「意」のレーダーチャートを自己分析し、もし足りなければ補うような意識が今の世の中には求められているように思います。
自分の強みを活かし、弱みを補う。「智情意」3つの視点をうまく活用し、そのバランスを維持向上する意識を持つことで、日々を前向きに生きて行けるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。