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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2020年7月の記事一覧

「忘八武士道-さ無頼」 彼は、大河ドラマの主役たちとは真逆、明日の地獄を願うサムライ。

大河ドラマの傑作選をやっている。 老若男女問わず、信念を持つ歴史上の人物、サムライが、基本主人公。  彼らが織りなす骨太なストーリーこそ、大河ドラマの魅力だ。 方や、信念と真逆の存在 を拠り所にしてひとり立つ武士もいる。 「いずれ地獄か…」 女体に溺れても虚無を忘れられないモノノフだ。 本作は、小池一夫原作の劇画を、エログロバイオレンスの工場だった東映京都撮影所が映画化したものだ。 小池一夫、藤生豪原作の人気劇画を映画化したシリーズ第2作。伊吹吾郎の映画初主演作。素浪人

主役は車と音楽と60年代テイスト。Good Old Days カーアクション 三本だて。

のんびり車を走らせるタイプのカーアクション。それは、世界中が経済成長でイケイケどんどん、「マイカーが男のロマンだった」60年代にのみ咲いた徒花だ。 派手に車を潰したり吹っ飛ばしたりせずとも、走る絵作りだけでお客が満足していた時代の産物。車も音楽も台詞回しも上品な世界観。 この時代の代表作を3つ、今回は取り上げて見ていきたい。どこか遠くへ行ってみたいときにでも、どうぞ。 車が主役。人間は脇役。 「ミニミニ大作戦」。イギリスの大泥棒たちが、イタリアのトリノに乗り込んで、500

ぼくは砂漠に生きている。「穴 HOLES」(ルイス・サッカー著)。

「まずい時にまずいところに」いたために、 代々、イェルナッツ家の人々は辛酸をなめてきた。 20世期末を生きる少年スタンリー(イェルナッツ四世)も例外ではない。 当時の子供たちのあこがれナイキのエアマックスが、スタンリーが散歩していたところ、頭上から降ってきたのだ。 スタンリーはそれを思わず手に取る、運悪く「それだけが」オトナたちに見つかってしまい、盗難罪で起訴される。靴泥棒の汚名をきせられ、青少年犯罪者の矯正施設グリーン・レイク・キャンプで18ケ月服役させられることとなる。

女剣士?いやいやお坊さんが最強、これ世界の常識。武侠映画の傑作「侠女」。

あらゆる創作媒体において、女剣士 というのは、いいものだ。 男の手を借りずとも、めちゃくちゃ強けりゃ、なおさら、惚れる。 1972年製作の本作は、世界に先駆けて「強い女剣士」を主役にした映画だ。 凄まじいパワーインフレの挙句、なぜか坊さんが最強になってしまうのだが。 ストーリー 明朝末期。書生のグーは、小さな村に母親と暮らしていた。ある日、店に現れたオウヤンという男に、住んでいるチンルー砦のことを聞かれる。近所を調べると、そこには美しい女性ヤンが越してきていた。時が経ち、

森崎東の「喜劇特出しヒモ天国」_ 振り返るな、ローエンドロー。

「夜の街」の住人たちが、目の敵にされる風潮。この手の住人がケガレを理由に忌み嫌わるのは世の常とはいえ、彼らの生き様にせめて少しは寄り添いたい。 「寅さん」の初期の脚本を山田洋次・宮崎晃と共作した森崎東。 彼が監督した本作では、「夜の街」の住人たち、すなわち ハダカの女性たち、それを支える男たちの、生々しい実態が描かれる。 彼らのささやかな喜びと共に、排斥される悲しみも同時に描いている。  後にも先にもない、70年代ストリップ劇場の実情を描いた、貴重な記録だ。 本作、冒頭か

鉄人同士、気が済むまで殴り合え! 映画「ロボ・ジョックス」と「リアル・スティール」。

まだ、テレビが元気だった10ねんまえの話。 2004年から2005年の1年間だけ日テレで放映されていた「ワールド☆レコーズ」 ロボットNo.1決定戦 が好きだった。 ラジコン操作で動く手のひらサイズのロボットがK-1ルールで戦う格闘技戦。 ブラウン管の中で、捨て身で戦う小さなファイターたちに、魅せられた。 (その頃、ウチではK-1もPRIDEも「残酷だから」と視聴厳禁だった。「ワールド⭐︎レコーズ」だけはOKだったのだ。) 思えば、ゼロ年代前半の日本では、ちょっとしたロボッ

北の大地の、静かで熱くてじんわりする物語。 ばんえい競馬を描いた「雪に願うこと」。

スタートダッシュで出遅れる どこまでいっても離される の歌詞が印象的な「走れコウタロー」。 いま、全世界非常事態の中で、どれだけこの国は、必死に走っているのか? ところで。 「走れコウタロー」といえば、ばんえい競馬も、変わらず、何とかやっている。 ネット販売による盛況、(予断は許さないが)10年前では考えられなかった。 2006年11月下旬の「ばんえい競馬廃止」 の報道が懐かしい方も、いるだろう。 結果からいえば、世界で唯一といわれ、北海道開拓の歴史のなかで生まれた馬事競

山田洋次監督「息子」…ひとり、明かりのない家に帰る老いた三国連太郎の孤独。

映画は水物だ。 「いま」を描けば、時代と寝てしまうことを避けられない。 それはどんな名監督、巨匠の作品だとて、例外ではない。山田洋次監督におけるそれは、1991年の作品「息子」だ。 日本がイケイケだった時代の「片隅」に生きる親子関係が表テーマな訳だが 息子の一人は「当時理想の生き方だった」フリー・アルバイターに熱中してるし もう一人の息子は「まだ続くと思ってた」土地神話にのぼせ上がっている。 これは、90年代以降、日本が未曾有の大不況を経験した際の「片隅」ほど深刻なものではな

新宿歌舞伎町のカオスから生まれてきた名優・原田芳雄、「俺が俺が」な主演作四本だて。

新宿歌舞伎町への風当たりが強い、この頃。 永島慎二がいれば、彼らに寄り添う物語を語ったに違いない、と思うこの頃。 または、原田芳雄がいればなあ! と思うこの頃。 リアルタイムでピンときた出演作はなかったが、東京に進学して新宿に何度も足を運ぶようになって初めて分かることがある:彼の演じる役柄のアナーキーさ、さまよえる魂というべきもの。彼のデビューは1968年。ちょうど新宿が祝祭の街だった時代の、落とし子なのだ。 この人の何がいいかって、「地の底」を背負っている感があるところ

得体のしれない憎悪に絡みとられる映画「白いリボン」(ミヒャエル・ハネケ監督)。

日本近代文学館の建設に尽力した小説家・高見順(1907年〜1965年)は 死の一年前、詩集「死の淵より」を発表している。 それは、死と暴力、悪意が自分の身に近づいてくる「いやな感じ」を、異常な緊張感の中で綴った、戦慄すべきものだった。 例えば。 ぼくの笛 烈風に 食道が吹きちぎられた 気管支が笛になって ピューピューと鳴って ぼくを慰めてくれた それがだんだんじょうずになって ピューヒョロヒョロとおどけて かえってぼくを寂しがらせる 人間の悪意、暴力ばかりを描き続ける

果てなき荒野の中、変容する人間。「人間の條件」六部作、ぶっ通しで見る価値、そこにある。

どうせヒマなら、この時間を使って、大長編でも見てみない? たとえば「人間の條件」六部作、いかがだろうか。 小林正樹監督、仲代達矢主演で1959年から61年にかけて製作、全六部構成、9時間31分に及ぶ総上映時間。製作当時の商業用映画として最長の長さ、ギネスブックにも掲載されていた程。六部作ぶっ通しで見ると、脳内でゲシュタルト崩壊する。(これは2015年、丸の内ピカデリーで行われた記念上映の体感値である。) ただ「長い」だけじゃない、今じゃ見られない/作れない重量感がある。同

「大怪獣モノ」。 これは、特撮とプロレス:オタクにとっての永遠の恋人、危険な顔合わせ。

先日の記事に続いて、プロレスモノを紹介しよう。 特撮とプロレス。かつての全日本対新日本を思わせる、強力なイデオロギー同士の、危険な初顔合わせ。 結果は不穏試合?それとも? 『シン・ゴジラ』が記録的大ヒットを記録し、まさに怪獣イヤ―となった2016年、その裏で全世界を熱狂、興奮させたもうひとつの怪獣映画があっ た!その映画の名は『大怪獣モノ』!!地底怪獣VS.スーパー巨人!大東京を舞台に繰り広げられる史上最大の決戦を描いた大スペクタル!スーパー巨 人を演じるのは人気プロレスラ

マスクマンとパルプ・フィクションのツープラトンな映画「ローライフ」。 勝敗結果は?

今回は、マスクマンを主役にした映画を紹介しよう。彼の被っているマスクが、どんな大きな意味を持つか。これが前提知識にないと、本作はただのB級バイオレンス映画に終わってしまう。プロレスラー、特にルチャレスラーにおいて、マスクは非常に大きな意味を持つ。 暴力と犯罪の泥沼に咲いた正義とは!? 『パルプ・フィクション』から24年―とんでもない“ヒーロー映画”が誕生した! LA・メキシコ国境の街 麻薬・アルコール中毒・臓器売買・不法移民・・・悪のしがらみに生きるローライフな奴らの群像劇

篠田正浩の冷血ハードボイルド「乾いた花」。_不毛な恋に賭け、ボロボロになっていく。

何か良いことはないか。 心の底で渇望し、何かにひたすらのめり込む。 人によってターゲットは異なる。 石原慎太郎原作を生きる主役二人にとって、それは博打だった。 だから詰まるところ本作はヤクザ映画なのだが、誰も刺青を見せない、ひたすら冷血でシャープな作品だ。 この映画の主役は、 色気や、毒といおうか、どこか身を持ち崩すような危うさ持った中年:池部良。 加賀まりこの花札を玩ぶ手つき、声と札束だけが静かに飛び交う賭場。 それだけ。非常にシンプルだ。 物語は池部良のぼやきから始ま