「忘八武士道-さ無頼」 彼は、大河ドラマの主役たちとは真逆、明日の地獄を願うサムライ。

大河ドラマの傑作選をやっている。
老若男女問わず、信念を持つ歴史上の人物、サムライが、基本主人公。 
彼らが織りなす骨太なストーリーこそ、大河ドラマの魅力だ。

方や、信念と真逆の存在 を拠り所にしてひとり立つ武士もいる。
「いずれ地獄か…」 女体に溺れても虚無を忘れられないモノノフだ。

本作は、小池一夫原作の劇画を、エログロバイオレンスの工場だった東映京都撮影所が映画化したものだ。

小池一夫、藤生豪原作の人気劇画を映画化したシリーズ第2作。伊吹吾郎の映画初主演作。素浪人九死一生は、ある豪商に外国人の女を世話する目的でオランダ商人を殺害、その妻をさらう。さらに豪商を殺し、外国人女を犯した。やがて自ら役人に補われた九死は処刑されることに決まるが、九死の腕前に惚れた忘八者の元締・棚橋才兵衛は、役人を買収、九死の首斬りを峰打ちにさせる。そして九死を墓場より救出した棚橋は、九死に忘八者になるように薦める。
【スタッフ】
監督 原田隆司
脚本 中島貞夫/金子武郎
【キャスト】
伊吹吾郎/池玲子/天津敏/北村英三/菅貫太郎/城恵美/相川圭子/栗はるみ/高城亜紀/中井ミキ

東映チャンネル 公式サイトより

忘八者とは、人間にとって八つの徳、八犬伝おなじみ「孝」「悌」「忠」「信」「礼」「義」「廉」「恥」を忘れた者、 つまりは、人でなしのこと。
伊吹吾郎が演じる主人公は、今は浪人、人を斬って日銭を稼いでいる男、九死一生(劇画の大家:小池一夫らしいオサレなネーミング!)
とある一件で斬首される羽目となる。
その間際、九死の腕前を見込んだ棚橋才兵衛(演:天津敏)の黄金の力で救われる。棚橋は江戸の外れ、深川迷惑町にある女衒の大親分。九死はそこの忘八者の仲間として召し抱えられる。彼らが羽織に記されているのは

男女
女男
男女

これだけでもだいたい御察しのことと思うが、ここで九死は
「狂」「戯」「乱」「盗」「惑」「淫」「弄」「悦」の限りを尽くす。


「戯」「乱」「盗」「惑」「淫」「弄」「悦」の章


「ポルノ時代劇」と題するだけあって、女の子のはだかが盛りだくさん、ウラヤマしいシーンはそれこそドカ盛り、てんこ盛りだが、一例を挙げよう。

①朝、九死一生が起きてみると・・・
ほどよく温い、女の柔肌の布団の中で目覚めるのだ。目覚めの蒸し風呂の中、女たちは丁寧に汗をかいたそばから拭いてくれる。たぶん蒸れる「裏側」も拭いてくれている。

②忘八ものの出来上がるまで。
ここ、深川迷惑町に連れてこられた女たちは「人形」つまり血も涙も感情もない任務遂行のためだけに存在するマシーンへと育てられる。
ひたすら酒を女に飲ませる(身体から不浄な気を排出する)「酒詰め」
身体に空いた全ての穴という穴を塞ぐ、ただしオコメを除く「粘土詰め」
仕上げは「男の体を知っている女に任せる」貝合わせ。
だからみんなこんにゃくみたいに身体が柔らかくなる。そして羞恥心も捨てた人形になる。

「これも、女たちの体がお客様に喜ばれるようにするためでございやす」

という、親分の淡々とした「語り」が、これまた聞かせてくれる。

もちろん、九死一生とて、深川迷惑町の面々に圧倒されてばかりじゃない。
「人形」用の女を掻いて集める勝気なスカウトマン・文句松(演:池玲子)をNTRったり(NTRれた三助は「春琴抄」よろしく両目を針で突く)、唯一の肉親である父親を殺されたばっかりに九死一生殺すマンと化した娘をさらに調教して自分好みの女に仕立て上げたりと、大活躍だ。


「狂」の章。


だが九死の本質は「生きて地獄 死んで地獄」を信条とする、ニヒリスト。
彼が行くところ、全てが地獄と化す。だから、彼を招き入れた深川迷惑町も、無事でいられるはずがない!

ふとしたきっかけから、「玉受け」つまり既得権益をめぐって、吉原遊郭と深川迷惑町の抗争が始まる。(幕閣が糸を引いている:政争の道具にされている。)
双方数人殺したところで、にっちもさっちもいかなくなり、やくざ顔負けの血みどろの抗争が始まる。ここにきてようやく、騒乱の中でも超然としている真の忘八もの:九死一生の剣の腕前が役立つこととなる。
棚橋の命令で、彼は、吉原の元締め(演:北村英三)殺害を請け負うこととなる。これを、いともあっさりとやりとげる。

トップが死んでは戦争を続けられない。ということで吉原は深川迷惑町と手打ちする。茗荷金倍増を命じられた吉原衆。彼らは腹いせに、山吹色のお菓子と共に「深川迷惑町取り潰し」を老中に吹き込む。これをあっさり引き受ける老中。
また、棚橋は棚橋で用済みになった九死一生の殺害を目論む。

かくて、クライマックスは、幕府の町方と、吉原の忘八ものが、一緒くたになって九死一生に襲いかかる一大チャンバラとなる。
九死一生が最後の決戦に選んだのは、一本松の丘の上。絨毯爆撃にように襲いかかる人の波。これを全部斬り伏せ、雨の中、ざんばら頭になって、それでも死に体となって、でもひとりだけ、生き残る。

みんな死んで、荒野とかした丘の上、1人起き上がって呟くは

「また…生き地獄か。」

そして彼は去る、次の荒野を目指して。 
ニヒルでカッコいいことが美徳とされた時代の、産物だ。




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ドント・ウォーリー
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