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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2020年6月の記事一覧

直進行軍、硫黄島、藤岡弘、しっちゃかめっちゃかなグループ・サウンズ映画3本立て。

ビートルズの影響を多大に受けた戦後生まれ世代の最初の音楽的挑戦、 若者のみによって支えられた日本発の音楽ムーブメント、それがグループサウンズ。 明朗すぎて、深みがなく、かといって洗練されている訳でもない歌詞。 インスパイア元のビートルズに比べて、遥かにスローでダルダルのメロディー。 数多くのヒットを生んだグループサウンズの曲も、今や記憶に残るのは、ほんのひとかけらだろう。島谷ひろみの(カバーした)「亜麻色の髪の乙女」など。 なお、 ヒット曲を手がけた作家には、 作詞家では橋

カッコいい剣豪の話「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」。普段はダメだけど、やるときはやるから。

陰惨な時代には、能天気なものがたりが欲しくなる。ただバカバカしいだけじゃダメだ。 ユーモアが練りに練って練り込められた、ものがたりだ。 1933年に日活で製作されたこの時代劇は、大河内伝次郎の名を、新橋喜代三の名を、早世の天才:山中貞雄の名を、永遠のものとした。 内容はずばり「日常系時代劇」。 原作を大胆に翻案した一例だ。 ※あらすじ・スタッフ・キャストは、こちら! ヒモのはなし。 そもそも、林不忘が造形した「丹下左膳」とは、 神変夢想流小野塚鉄斎道場へ乱入するや、夜泣

岡本喜八の娯楽三本槍②「ああ爆弾」「殺人狂時代」「ジャズ大名」。

※この記事は、「岡本喜八の娯楽三本槍②」の続きとなります。 前回紹介した「江分利満氏の優雅な生活」で、喜八は何かを掴んだのだろう。 以降「侍」「血と砂」「大菩薩峠」(レビュー済)と重厚なドラマを連打する 一方で、軽快なタッチの小品の方は、ジャンルの定石を外した、フリーダムな作品が徐々に増えていく。 同時代は評価されず、後世評価された作品が多い。 1964年、ミュージカル? 「ああ爆弾」 東宝系で「砂の女」との伝説的な二本立てが行われた和製ミュージカル映画だ。 ★刑務所

大島渚監督「御法度」_秘密結社たる新撰組、顔だけ残して、全て藪の中。

新撰組。 時に若者たちの青春群像として、時に内ゲバを繰り返す狂気の集団として、彼らは描かれてきた。 良きにせよ悪きにせよ、だがそこには必ず、自らの信じる「義」を貫く男たちの姿が現れた。時代に流され妥協しながら生きていくしかない現代人にとって、新選組はロマンそのもの。絶えることなくドラマが作られ続けている。 他方、時代考証で他に類を見ない大河コミック「風雲児たち」を代表作にもつ漫画家・みなもと太郎は、初期の作品「冗談新撰組」で新撰組とはなんだったのか? こう書いている。

岡本喜八の娯楽三本槍①「独立愚連隊」「戦国野郎」「江分利満氏の優雅な生活」。

気づけば、シン・ゴジラにおけるオマージュばかり、 「ブルークリスマス」「激動の昭和史 沖縄決戦」のいずれか、 あるいは「日本のいちばん長い日」のみで語られる監督、それが岡本喜八だ: それだけで語るのは、あまりにもったいない! 歴史を叙事詩として描く重厚な作品とは別個に、この人が得意としたもう一つのフィールドは、ユーモアやウィット感覚をたたえたストーリーテリング。 もがきながらも活路を見出そうとする男たち、いつしか自らを縛る枷とくびきから解き放たれる自由人ばかりを、あらゆるジ

戦争映画の臨界「炎628」_目が口よりものを言う、来たりて見よ。

現代の視点から見ると、80年代ほどノンキな時代はなかったと思う。 核の傘を前提にして、世界中の人間が生きていた。 アメリカの庇護、ソ連の庇護が、絶対的な秩序をもたらしていた。 (日本のバブル経済も対ソを意識したアメリカの庇護を前提に、成立していた) 核戦争は怖いけど、平和な世界はこの先も続くだろう。これも冷戦のおかげ。 アフガン?遠いよ。 アフリカ?野蛮。 WW2?昔そんなのもあったね…。 独裁政治は、共産主義のせい。 社会の不平等は、資本主義のせい。 などと、ノーテンキ

「パラサイト」と同じ構図、ヒッチコックの「裏窓」。_覗いていたつもりが、覗かれる。

いよいよ「パラサイト 半地下の家族」デジタル配信開始。 本作の終盤の台風一過のシーンを見て 私が何を連想したかといえば、アルフレッド・ヒッチコックの「裏窓」だった。 事故で片脚を骨折し、自宅のアパートで療養することを強いられたカメラマンが、裏窓から中庭の向こうのアパートの隣人たちの生活を覗き見て退屈をまぎらしているうちに事件に巻き込まれるというストーリー。 製作のパラマウント社にとって史上最大 (当時) のセットをスタジオ内に組んで街を再現。床を取り除き、地下の大道具倉庫

イタリア映画「ウンベルト・D」。これは、老人と子犬のポルカ。

深刻な社会問題。階級や年代の軋轢。笑っていられない、現実。 イタリアの巨匠ヴィットリオ・デ・シーカは、今差し迫った危機を描くことで、映画による社会批判を行い続けた作家だった。 「自転車泥棒」は彼の代表作だが、もう一つ重要な作品がある。 「ウンベルト・D」だ。貧しく孤独な老人の絶望を描くやりきれない物語だ。 まずはこの物語の主役、この老人の曲がった背中を見てほしい。 ご覧、 普通に生活しているだけで、周囲に迷惑をかけてしまう哀しさを漂わせている。 ヴィットーリオ・デ・シ

映画「男の顔は履歴書」_戦後闇市、ブラック・ジャックが血で濡れる。

顔に傷跡を残したアウトローの医師・・・といえば、ブラック・ジャックだが この男、林立する高層ビルの谷間にぽつんと隠れるように建つ雨宮医院の院長・雨宮修一にも、左頬に深く刻まれた傷跡がある。 見えないようでよく見える、ホンモノの彼の傷跡をクローズアップに切り取るカメラから映画は始まる。周囲の工事の音に耳を塞ぐようにして、じっと目を瞑っている男。なにも、語らない男。 沈黙が雄弁な瞬間。 玄関で音がする、階下に降りると、男が車にはねられボロ屑のように運ばれて来る。日本名は、柴田。

「仁義なき戦い」だけじゃない! 菅原文太の見事な死にっぷり、魅せる実録路線3本だて。

平穏を装った時代にこそ、物騒な作品が観たくなる。  言い方は悪いが、むごたらしい死に様、というもの。  グロテスクでバイオレンス。 どす黒い世界を、覗き込みたくなる。 (SNSで暴言撒き散らすよりはなんぼか健全だと、思いたい。) 例えば70年代東映実録路線のスター、菅原文太の死にざまは、いかがだろうか。 今回は、菅原文太の素晴らしい死にざまを3つ集めて、紹介する。 作品ごとにカラーが違う、それを見事に演じ分ける。 菅原文太が改めて稀有な役者であったことを、思い知らされる。

『知ってるか?小説の中のリプリーは捕まらないんだぜ!』 「太陽がいっぱい」と小説「映画篇」。

1960年のフランス映画「plein soleil」、邦題「太陽がいっぱい」は、アラン・ドロン主演、我が国でも大ヒットを記録した、犯罪映画の名作だ。 解説 アラン・ドロンの出世作であり、ヒッチコック監督作『見知らぬ乗客』や近作『キャロル』の原作者パトリシア・ハイミスの代表作の映画化。貧しい青年トム・リプリーは富豪の友人を妬み、その莫大な財産を手に入れるため、殺害計画を実行。彼は友人になり代わる完全犯罪を成功させたかに見えたが―。ニーノ・ロータ作曲のテーマは永遠の名曲。 物語

ボクシング映画4選。_誰のために、何を、拳に、握り込む?

かつて、寺山修司は 一人のボクサーのファイティング・スピリットは、そのボクサー の家族の腕力よりも、そのボクサー自身の負わされた憎悪の力によるところが大きい。 「両手いっぱいの言葉」(新潮文庫) 200ページから引用 と言った。 この言葉が当てはまるのは、「総てが乏しい」と感じられる時代、ハングリースピリットが求められる時代だ。(寺山修司の生きた昭和中期が当てはまる。) 今は、どうだろうか? それぞれの国、それぞれの時代、それぞれの境遇。 なぜ、彼はリングに上がるのか

映画「海軍横須賀刑務所」_トリビアの泉の天の声、勝新の運命を無情に告げる。

昨日の記事に続いて、勝新太郎 主演作品の変わり種を紹介する。 昭和初期の海軍海兵団に一人の男が入団した。頑健な体を持ち、柔道と空手で鍛えた腕力が自慢の志村兼次郎。彼は、容赦ない上官たちの制裁に堪忍袋の緒が切れて、前代未聞、隊長を叩き斬ってしまう。海軍刑務所入りした兼次郎を待ち受けていたのは、やはり苛酷な懲罰であった。怒り心頭、やがて彼は本性である八方破れを丸出しに大暴れ、刑務所内に暴動を巻き起こすが・・・。 持ち前の腕力と度胸、大胆不敵で反逆精神旺盛な兼次郎役には、本作が東

勝新のウラ傑作「とむらい師たち」_ 世界最後のお葬式。

皆様は、先週日曜日の「独眼竜政宗」の名場面、勝新太郎の豊臣秀吉は、ご覧になっただろうか? 春日太一が書いている通りだ。 カメラが拾ったどんな動きでも面白い。 この男の喜劇的な部分が光ったウラ傑作として外せないのが、本作「とむらい師たち」だ。原作は野坂昭如。 葬儀コンサルタントを開業したデスマスク屋のガンめんと仲間は、浄土サウナ、葬儀会館設立、葬博等々奇抜なアイディアとバイタリティーで儲けまくるが・・・現代を痛烈に風刺する大型喜劇。 【スタッフ】 監督: 三隅研次  原作