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映画「海軍横須賀刑務所」_トリビアの泉の天の声、勝新の運命を無情に告げる。

昨日の記事に続いて、勝新太郎 主演作品の変わり種を紹介する。

昭和初期の海軍海兵団に一人の男が入団した。頑健な体を持ち、柔道と空手で鍛えた腕力が自慢の志村兼次郎。彼は、容赦ない上官たちの制裁に堪忍袋の緒が切れて、前代未聞、隊長を叩き斬ってしまう。海軍刑務所入りした兼次郎を待ち受けていたのは、やはり苛酷な懲罰であった。怒り心頭、やがて彼は本性である八方破れを丸出しに大暴れ、刑務所内に暴動を巻き起こすが・・・。
持ち前の腕力と度胸、大胆不敵で反逆精神旺盛な兼次郎役には、本作が東映初出演の勝新太郎。その他、菅原文太、松方弘樹、山本麟一、室田日出男ら、多彩な男優陣が結集。青山光二の原作「喧嘩一代」をもとに、山下耕作監督が豪快に放つアクション巨編。
キャスト
勝新太郎、松方弘樹、長谷川明男、三上真一郎、太田博之、森秋子、赤木春恵、菅原文太
スタッフ
原作:青山光二
企画:矢部恒、寺西国光
脚本:石井輝男
撮影:仲沢半次郎
音楽:津島利章
監督:山下耕作

東映ビデオ 公式サイトから引用

「座頭市」に次ぐ、大映での勝新太郎の当たり役に「悪名」の河内の暴れん坊・八尾の朝吉、「兵隊やくざ」の浪花節好きの日本兵・大宮貴三郎がある。
「悪名」が、喧嘩と手打ちと世話場を交互に出して押す 物語とすれば
「兵隊やくざ」は、日本陸軍の内務班にあって、終戦まで脱走と帰還を繰り返す痛快な二等兵(と田村高廣演じる上等兵)の活躍を描いた物語だ。

本作はこの「兵隊やくざ」の流れを継ぐ作品と言って良い。
二等兵ものと監獄もの、前半後半でくっきり色が分かれるのが特徴だ。一粒で二度美味しい? いや、隠し味のおかげで、評価は割れるかも。そんな佳作だ。


前半60分は「兵隊やくざ」。

徴兵された世代が生き残っていた時代は、軍人とはすぐ暴力を振るう生き物、だから軍隊とは非民主的な社会、暗く陰湿な空間と描かれがちだった。
だから昭和の「女のいない、男ばかりの」戦争映画では「如何に旧時代的・閉鎖的・非人道的な軍内部で、一介の兵士が抵抗するか、服従するか」が命題となる。家族を守る大義や置いてきた恋心など、お涙頂戴は入り込む隙がない。

60年代、勝新太郎が主演した「兵隊やくざシリーズ」では陸軍内務班のはみ出しものが「いかに生き残るか」がメインテーマだった。軍隊嫌いの破天荒な快男児が、軍内部での反抗、軍隊からの脱走を繰り返しながら、終戦まで大陸を賑やかに駆け抜けていった。勝新が演じるキャラクターといい、舞台設定といい、本作はその東映版と言っていい。前半までは。


後半40分は監獄もの。

我慢に我慢を重ねた挙句、堪忍袋の尾が切れて、中盤、カツシンはあばれはっちゃくの末、上官を斬り殺してしまい、重罪人として海軍刑務所にぶち込まれる。
上映時間98分のうち60分経過して、ようやくタイトルの「海軍横須賀刑務所」の意味を知る。

昭和の刑務所だから当たり前だが、そこは、海軍海兵隊が温い世界に見えるほどの暴力当然の野蛮な世界。先輩囚人どもは目じゃないが、ここは刑吏が鬼の使い。勝新を亡き者にしたい海兵団上層部の言伝もあって「42番」背負わされた勝新は、そこでロクに飲み食いさせられないまま、泥の中を引き摺り回され、さんざん打たれ、打ち捨てられる。
それでも、いたぶられればいたぶられるほど、目が爛々と輝いてくるのは、さすが勝新!と言うべきか。

勝新ひとり我慢できても、周囲はそうはいかない。
勝新にようやく与えられた食事に、毒が忍ばされていたのを見て、我慢できなくなった囚人たちは破れかぶれの暴動を起こす。この時点で89分経過。

どうせ「いじめられることを一体となって強いられる」話なら、 我慢劇は短ければ短いほど良い。ながけりゃ長いほどうんざりさせられる。暴動は、とんとん拍子にうまくいって、刑務所占拠に成功。(刑吏たちは、かつて勝新がそうさせられたように、首だけ出して土の中に埋められる。ユカイな絵。)
おまけに、清廉潔白な海軍高官が水戸黄門よろしく御免状発して、晴れて、勝新ら囚人一同は軍属復帰、意気揚々と日章旗揚げて戦地へ向かう軍艦に乗り込む。

「名誉を得るんだ!軍功をあげるんだ!出世するんだ!お袋を楽させるんだ!」

少年兵のように爛々と希望に満ち溢れた勝新太郎のくりくり目。
こんなうまい話があるんだなあ。


そして最後に、ガツンと一発。


もちろん、そう「うまい話」があるはずもない。
囚人たちが栄転する先は、事変真っ只中の上海である。
「トリビアの泉」の声、中江真司のナレーションが、彼らの運命を辛辣に語る。

もちろん、彼らの誰一人として、自分たちが弾除けとして利用されることを、知らなかった。

機関銃、高射砲、手榴弾、ありとあらゆる重火器音が飛び交う中、囚人たちの行く手に広がる大海原のカットで、映画は終わる。
「生き残れるわけないだろう」とばかりに、アンニュイに。
背筋がぴんとひきしまる、オチの付け方だ。


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ドント・ウォーリー
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