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岡本喜八の娯楽三本槍①「独立愚連隊」「戦国野郎」「江分利満氏の優雅な生活」。

気づけば、シン・ゴジラにおけるオマージュばかり、
「ブルークリスマス」「激動の昭和史 沖縄決戦」のいずれか、
あるいは「日本のいちばん長い日」のみで語られる監督、それが岡本喜八だ:
それだけで語るのは、あまりにもったいない!

歴史を叙事詩として描く重厚な作品とは別個に、この人が得意としたもう一つのフィールドは、ユーモアやウィット感覚をたたえたストーリーテリング。
もがきながらも活路を見出そうとする男たち、いつしか自らを縛る枷とくびきから解き放たれる自由人ばかりを、あらゆるジャンルを借りて描いた。

悲しいとき、苦しいとき、つらいときは笑ってはしゃぐ

「岡本喜八の全映画」118ページ

それは戦中派の生きるための知恵。 
歴史を叙情詩として、一個人の中に込めて描く力。

前述した三作品の傾向:重々しさとは真逆、
すべてが軽快で、小気味よく、物語は最後に一抹の爽やかさを残していく。
それが、生きる力を与えてくれる。

今回は、岡本喜八が手掛けた軽快なタッチの傑作6本を前後に分け紹介したい。


1959年、西部劇風戦争映画 「独立愚連隊」。

★第二次大戦末期の北京戦線を舞台に、スピード感溢れる西部劇的演出で観客に衝撃を与えた痛快娯楽作。反戦的側面を持つ本作は岡本喜八監督の原点とも言える。
CAST
佐藤 允/雪村いづみ/上原美佐/夏木陽介/江原達怡/南 道郎/中谷一郎/中丸忠雄/ミッキー・カーチス/鶴田浩二/三船敏郎
STAFF
監督・脚本:岡本喜八 音楽:佐藤 勝

東宝公式サイトから引用

早撃ちガンマンによる勧善懲悪の物語を第二次世界大戦末期の中国大陸に移し替えた「戦争西部劇」だ。(この系譜は勝新の「兵隊やくざ」に続いていく。)
「戦争を知っている」人間がいっぱいいた頃:不謹慎だの、賛否両論だの、言われた、映画だ。

終戦間近、対中国戦線を訪れた元鬼軍曹の従軍記者荒木(演:佐藤允)が、各隊のならず者を集めた小哨隊、通称「独立愚連隊」と行動を共にし、この部隊の哨隊長であった弟の死の真相を究明しようとする。
じつはこの荒木、正規の記者ではない。脱走兵だ。 脱走兵だから何処かニヒルな雰囲気を漂わせている。だから「独立愚連隊」の濃い顔ぶれとウマが合う。

馬のアクション、ガンアクション、荒野、復讐劇。西部劇の定型は一揃いだ。
もちろん最後は、アラモよろしく敵兵に包囲され、ここからどう抜け出すか?の大戦争に発展する。

結局、(元ネタよろしく)「独立愚連隊」は全滅。荒木だけは生き残り、ひょんなことから知り合った馬賊の首領(演:鶴田浩二)とその妹(演:上原美佐)に助けられる。
馬賊入りを薦められた荒木。だが(イヤで脱走した軍隊と)同じように組織に束縛されることを嫌った彼は、平原の彼方に去って行く。

荒木は、弟の敵を討つことには成功する。 その後は? どう生きるのか?
謎を残しながらも、しかし実に爽やかな笑顔で荒木が去っていく。それがいい。


1961年、西部劇風時代劇 「戦国野郎」。

★戦国時代の武士の枠を踏み越えてしまった若き忍者たち----。監督・岡本喜八が初めて挑む時代劇。ヒューマニズムに満ちた忍者アクション大作。
CAST
加山雄三/佐藤 允/星由里子/水野久美/中谷一郎/中丸忠雄/江原達怡/砂塚秀夫/田島義文/沢村いき雄/田崎 潤
STAFF
監督:岡本喜八 脚本:佐野 健/岡本喜八/関沢新一 音楽:佐藤 勝

東宝 公式サイトから引用

(一年は組 加藤団蔵の実家が営む)馬借、つまり戦国時代の運送業者を主人公にした、後にも先にもない映画だ。
西部劇の幌馬車よろしく、荷を積んだ馬の行列がぞろぞろ平原を横切っていく。

甲斐武田の忍者、吉丹(加山雄三)は冷酷な殿様が嫌になり、抜け忍となって、播磨(中谷一郎)と共に馬借隊に加わる。そこに織田軍の木下藤吉郎(佐藤充)がやってきて、鉄砲300丁を堺から美濃まで運ぶよう依頼する。運輸を引き受けることになっては、さあ大変、 武田の忍者軍が襲いかかるわ、吉丹は馬借隊のおてんばお姫様:さぎり(星由里子)と仲良くなるわ、それに嫉妬の炎を燃やして身内に裏切り者が出るわ…。93分の短尺、小気味よいテンポで話は進む。

特筆すべきは、みんながみんな、トランポリンでぴょんぴょん飛ぶことだろう。
忍者というには鈍すぎて、馬借というには俊敏すぎる、微妙なアクションを、

加山雄三も、中谷一郎も、敵の忍者も、みんな、きりきり舞いになって行う。

で、案の定、最後は鉄砲隊をぞろぞろ引き連れて武田の忍者軍を全滅させた木下藤吉郎が、計画の全容をネタバレする。 吉丹の運荷はダミーだったと。
サムライってずるい人間だなあ、と吉丹は率直な意見をもらし、さぎりと結婚して、馬借として自由な生き方を選ぶことにする。
最後は、馬の群れが山の向こうに消えていくEND、実に爽やかな終わり方だ。


1963年、ホームドラマ・・・? 「江分利満氏の優雅な生活」。

★山口瞳の直木賞受賞作を、それまで豪快なアクション娯楽作で評価を残してきた岡本喜八監督が大胆な切り口で映像化。主演の小林桂樹も多くの賞を受賞。
CAST
小林桂樹/新珠三千代/江原達怡/東野英治郎
STAFF
監督:岡本喜八 原作:山口 瞳 脚本:井出俊郎 音楽:佐藤 勝
東宝公式サイトから引用

この「大胆な切り口」というのは、映画が作者:山口瞳の小説執筆、直木賞受賞までの経緯をストーリーの柱に据えたことだ。小説にはもちろんその経緯は出てこない。だから、これを「原作」と言うのは少し違うかもしれない。

だから映画は、早く出勤しなさいとドヤす奥さん(演:新珠三千代)と山口瞳(演:小林桂樹)のやりとり

「グズグズしてるとまた遅刻しますよ」
「洋服どれにしようかな」
「どれにしようかなって二着しかないじゃないの」
「じゃあどっちにしようかな」

に始まり、サントリーの社宅を出て、最寄駅に向かう、そのついでに

そしてまた江分利は颯爽と出かけていく。颯爽? 残念でした。江分利の服装に関するかぎり、戦後はまだ終わっていない

と山口が、自身の安い一張羅の解説をする、つぶやきが入る。
こんな調子で、以後、映画は、実父(演:東野英治郎)の世話、子供の教育問題、奥さんのヒステリー、刺激はあっても退屈な仕事、悪戦苦闘の小説制作、そして山口の受賞後の周囲のやっかみ 以上モロモロへのボヤキに終始する。

要は「はてブロ」や「」を唯一の吐口にするおじさんたちの愚痴を映像に落とし込んだようなものだ。
にも関わらず、不快感を感じさせないのは、喜八の演出、桂樹のユーモラスな見た目、半世紀前の日本の「今よりは遥かにのんびりした」空気感が、プラスに働いているからだろう。
取り立てて山や谷がある訳でもない、淡々とした日常。雰囲気を楽しむ映画だ。

そんな淡々とした日常から、最後、彼は自由になろうとする。
賞を取ったからといって生活はさして変わらない。
しかし野心ができた。「こんな上司とお酒を飲みに行くのは絶対イヤ!」と思うような人になる。(このあたり、かなり愚痴ってる)
最終的に彼は、仕事を辞め、筆一本で生きていくことを決めて、映画は終わる。
(その後の山口瞳本人の作家としての活躍は、省略する。)

駄弁りのような、しかし全く飽きさせない語り口の続く映画だ。
間違っても、「一流企業の安定したサラリーマンなんて羨ましいな」と、
じっと手を見ないこと。


次回の記事に続きます!



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ドント・ウォーリー
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