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「仁義なき戦い」だけじゃない! 菅原文太の見事な死にっぷり、魅せる実録路線3本だて。

平穏を装った時代にこそ、物騒な作品が観たくなる。 
言い方は悪いが、むごたらしい死に様、というもの。 
グロテスクでバイオレンス。 どす黒い世界を、覗き込みたくなる。

(SNSで暴言撒き散らすよりはなんぼか健全だと、思いたい。)

例えば70年代東映実録路線のスター、菅原文太の死にざまは、いかがだろうか。
今回は、菅原文太の素晴らしい死にざまを3つ集めて、紹介する。
作品ごとにカラーが違う、それを見事に演じ分ける。
菅原文太が改めて稀有な役者であったことを、思い知らされる。


彼がスターとしての個性を出し始めたのは1968年開始の「現代やくざ」シリーズ。死神のような凶暴な男が、やくざ社会に恐怖と死を撒き散らすのだ。
殊に、シリーズ第5作の死にっぷりは凄まじい。自分が死ぬという意味でも。

狂犬、最後は犬死に。 「現代やくざ 人斬り与太」


川崎で愚連隊のリーダーとして暴れまわる沖田勇(菅原文太)は、やくざに対する殺傷沙汰で5年の刑期を勤める。そして、出所後すっかり様変わりした川崎で再び愚連隊を組織し活動を始める沖田。 彼の暴れっぷりが見事。
だが(やはりというべきか)見どころは、街を支配する二つのやくざ組織に嵌められて最後待ち受ける主人公の沖田(演:菅原文太)の犬死にっぷりだろう。

追い詰められて、川崎の工場跡のアジトに立て篭もる沖田。彼が愛する女・君代(演:渚まゆみ)が沖田を庇って死んだのに怒り心頭、

一度負け癖のついた犬はな!それっきり噛み付くことさえ忘れちまうんだ!俺たちだって同じことよ!一度逃げ足を覚えた奴は絶対に浮び上がることは出来ねえよ!

ドスを片手に、最後の力を振り絞って、敵のボスを道連れにしようとする沖田。
だが、多勢に無勢、銃弾の雨霰を受け敵に一矢報いることなく、死に果てる。

ずたずたになった沖田の死体を一瞥し、涼しげな顔で高級車で去っていく、当の敵の親玉たる郡司(待田京介)。
君代の死体の傍に転がる(沖田に差し入れるつもりだった)赤飯のおにぎり。 沖田の死体をさんさんと照らす太陽。
この2つの赤のコントラスト。 凄まじい終焉だ。

なお、文太はこの3年前に出演した「組織暴力 兄弟盃」でも、策略にハマり一矢報いることなく最後ガントレットに犬死にするやくざを、演じている。
「仇に一矢報いることのできない」呪いは「仁義なき戦い」に受け継がれる。
そして「犬死する」呪いは、1974年に製作された、次に紹介する作品で、見事に荘厳な姿へと昇華されている。


死神の顔、その最期も美しく。「山口組外伝 九州侵攻作戦」。


周囲に不幸と死を巻き散らした実在のヒットマンを主演した作品だ。

「仁義なき戦い」や「トラック野郎」の「動」 よろしく

惹句「大暴力団、西日本攻略の裏で
無残に散った野犬一匹、夜桜銀次……
拳銃に憑かれて青白い頬をした
死神のような奴だった!」

との惹句の通り、暴れまわるのだが
もう一つ菅原文太のスマートな、元モデルの出自の活かした「静」の面も光る。
のめり込む様に、死んでいくのだ。
じっさい、この映画がすごいのは

惹句 「拳銃(チャカ)で生きれば拳銃(チャカ)で死ぬ」

の通り、あっけなく主役が死ぬところだ。

翌三十七年一月十六日朝十時過ぎ、博多の隠れ家。
まだ床にいた銀次を二人組の男が襲い 、銃弾四発を至近距離から胸 、ノド 、アゴ 、左ヒジに撃ち込む。
殺し屋を目の前にした銀次の、一瞬の間。
次のシーン、白いベッドに血だるまの死体が転がる。
実録映画のやくざたちが、大抵、普通死ぬと言ったら、ひとおもいに死に切れずに、のたうち廻るような格好悪い無様な死に方をするのに対し、
彼だけは、ギリシャ彫刻の様に、悲劇的に、静的に、一瞬にして、死ぬ。
まるで、死神がこの世から立ち去ったような、潔さ がある。

銀次の死を引き金に山口組が動き出すのではないか?
ラスト10分、物語は抗争の予感、実録的雰囲気を醸し出す。 銀次の死が意味があったのでは? と思えるほど激しく。
が、大きなことは起こらない。敵対組織は神戸からやってきた大軍団にビビって、あっさり手打ちを選ぶ。 (史実同様)大抗争の予感は、萎んで、消える。
銀次の死が無駄であったかのように、映画はあっけなく「終」を迎える。

この後、1975年の「県警対組織暴力」で見事な不審死を演じたのち
1976年、ついに文太が広能昌三の呪いから解放される作品がやってきた。
架空の抗争をでっち上げて。 犬死する呪いは周囲になすりつけて。


菅原文太、首を獲る。「新仁義なき戦い 組長最後の日」。


舞台は北九州。
本作で文太が演じるのは、若松湾の荷揚げという正業を持ち、小倉の片隅でひっそりと生きる、元やくざの堅気の男だ。
その男の親代わりだった親分が殺される。抗争の予感、いても立ってもいられず彼は先陣を切って復讐を目論むが、なんと、事態が和解に向かってしまう。
一転して、穏便な解決を望む九州関西の双方にとって邪魔な存在になり、両者から命を狙われながらも、孤立無援で関西の大組織の親分を狙うのだ。

そんなストーリーはどうでもいい。 大切なのは「犬死の呪い」だ。

本作が凄いのは、「ファイナルジェットコースター」もかくや、と言えるほど
周囲が幸薄く無意味にガンガン死んでいく点だろう。なにせ、オープニングから、幸の薄い女がクスリを打ってる途中にラブホで刺し殺されるショッキングな絵で始まるのだから。

若い奴から惨たらしい死に様を見せつけていた 本家を踏襲して
本作でも、各組織の若い衆たち、当時実年齢30代前後の若手三人:桜木健一&横山リエ&尾藤イサオが、幸薄そうな役柄で顔出ししては、あっさり犬死する。
リエはシャブが切れて禁断症状を起こし高所から転落。
健一は銃撃され身動き取れないのをよそに、生きたまま焼却炉に放り込まれる。
そして、イサオはご褒美の一発を遂げた後、次の日鉄砲玉として蜂の巣にされる。 全員、むごたらしく死ぬ。
なお、イサオが想いを遂げた相手(演:松原智恵子)には、ダメ夫(演:和田浩治、当時32歳)がいる。彼もまた、文太を殺そうとして不注意からダンプに轢かれ、ダサく死んでいく。

以上、虫けらたちを生贄に捧げて? 
文太は関西の親分へのダイレクトアタックに成功。

「見たかぁぁぁ!わいがやったんやでぇぇぇ!見たかぁぁぁ!」

標的の組長は即死。
ねんがんかなったりだ。 その後すぐ蜂の巣にされるのだが。

そしてこれが結果として、黄金パートナー、深作=文太コンビの最終作となる。
(以後、菅原文太はトラック野郎に、深作欣二はアクション映画に傾斜する。)


以上、手短に菅原文太の見事な死にっぷりを紹介した。
もちろん、他の実録路線の諸作品では、また別のスターたちの見事な死にっぷりも神々しく描かれている。 また、機会を変えて紹介したい。


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ドント・ウォーリー
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