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岡本喜八の娯楽三本槍②「ああ爆弾」「殺人狂時代」「ジャズ大名」。
※この記事は、「岡本喜八の娯楽三本槍②」の続きとなります。
前回紹介した「江分利満氏の優雅な生活」で、喜八は何かを掴んだのだろう。
以降「侍」「血と砂」「大菩薩峠」(レビュー済)と重厚なドラマを連打する
一方で、軽快なタッチの小品の方は、ジャンルの定石を外した、フリーダムな作品が徐々に増えていく。 同時代は評価されず、後世評価された作品が多い。
1964年、ミュージカル? 「ああ爆弾」
東宝系で「砂の女」との伝説的な二本立てが行われた和製ミュージカル映画だ。
★刑務所を出所したヤクザの組長が万年筆爆弾をめぐって大騒動に巻き込まれるサスペンス喜劇。ミュージカル的手法を取り入れた実験的な演出が話題に。
CAST
伊藤雄之助/砂塚秀夫/中谷一郎/越路吹雪
STAFF
監督・脚本:岡本喜八 音楽:佐藤 勝
東宝公式サイトから引用
旧ヤクザを洋邦楽、新興ヤクザを洋楽で描いた二項対立のミュージカル?オペレッタ? 誰が言ったか「講談調音楽映画」。
これも、長年タッグを組んだ佐藤勝との阿吽の呼吸によって、成せたもの。
久しぶりにシャバへ戻った老ヤクザの親分・矢東(演:伊藤雄之助)が愛人の元へ行くと、彼女は殺されていた。新興やくざ・大作(演:中谷一郎)とデキてしまったのだという。老体にムチ打って仇討ちにむかう、案の定コテンパンにのされてしまう。親分はしおしおとあばらやに帰宅、女房・越路吹雪と息子に対面。だが女房はすでに新興宗教にどっぷりつかって、ドンツクドンツクドンドンツク、うるさい。
親分と奥さんの間で御詠歌と法華太鼓のやかましい夫婦喧嘩が繰り広げられる。
刑務所仲間の発明家(演:砂塚秀夫)と企てたのは、爆弾による大作の暗殺。
さっそく万年筆型の爆弾を開発したのは良かったが、それが不運にも?幼馴染みで今は大作の運転手をしてるシイタケ(演:沢村いき雄)の手に渡ってしまい…あとはお察しの通り、爆弾がいつどこでいかにして爆発するか。ドキドキハラハラの大騒動だ。
組長は念願とする敵討ちが上手くいかず、むしろ家庭内のゴタゴタや世事に足を引っ張られる。その度に、親分の喜怒哀楽が浪曲や能狂言といった和式で表現されるのだ。(伊藤雄之助が歌舞伎の出だから、叶った演技だろう。)
他方、大作も出馬した選挙に敗れた悲しみに、ワルツを踊るなど、こちらも喜怒哀楽を洋式に表現して見せる。
ミュージカル仕立を意識した、五七五調の台詞も、耳に心地よく、実に小気味よく物語は進む。
最後?爆弾が爆発しなくちゃ面白くないでしょ。 どこでどう爆発するのか、お楽しみに。
1968年、クライムアクション? 「殺人狂時代」
これも、公式見解でいえば<東宝創立以来の記録的不入り>という名誉を獲得した傑作だ。
★13人の殺し屋と男の戦いを荒唐無稽なタッチで描いた快作。アクション、コメディ、お色気と、娯楽映画の要素がふんだんに盛り込まれた喜八映画の真髄。
CAST
仲代達矢/団 令子/砂塚秀夫/天本英世/江原達怡
STAFF
原作:都筑道夫 監督:岡本喜八 脚本:小川 英/山崎忠昭/岡本喜八 音楽:佐藤 勝
東宝公式サイトから引用
世界の人口調節を企む「大日本人口調節審議会」(影を引くのが、総統閣下。)と戦う一匹狼の殺し屋の戦いだ。
設定のヤバさばかり語られる映画だが、仲代達矢演じる主人公の二面性、
つまり、ヌーボーとしてうだつの上がらない、服がキチャナイ、人前でも構わず水虫をボリボリ掻いている犯罪心理学専攻の大学講師:桔梗信治が、殺し屋たちを血祭りに上げるため、身の回りの日用品を暗器に帰ることに熱心になったかと思えば、最後にはいつの間にかパリッとした身なりに固めた一流エージェントに変貌しているのが、ミソだ。
天本英世演じる死神博士…もとい溝呂木博士は、信治以上にクレイジーだ。
まるで一昔前の脳病院のイメージそっくりの洋館で、殺し屋たちを養成し
「ヒトラー然り、人間の歴史で偉大な業績を残した者は全て気違いなのだ」
「最も偉大な芸術は戦争だ」
と、南米に潜伏する小太りの少佐みたいな ことを言う。
背後では、アラベスク模様の摩訶不思議な曲線のトンネルの両側に整然と並ぶショウケースに収められた殺し屋たちが、正気を失った唸り声を挙げている。
99分の尺で、13人の殺し屋を返り討ちにし、審議会を壊滅させるので、
テンポは非常によろしい。キャラクターも見た目からして分かりやすい。
今だったら絶対に作れないビョーキでカルトな傑作犯罪アクション。どうぞ。
「激動の昭和史」のち、東宝本体が製作部門を縮小する中で、岡本喜八は70年代後半まで専属契約を結んでいた。(それだけ、「低予算でもかっちりこなす」監督としての技量が評価されていたということだろう。「肉弾」が代表例。)
退社して最初の作品が 「ダイナマイトどんどん」(レビュー済)。
その次が「ジャズ大名」だった。
1986年、時代劇×ミュージカル 「ジャズ大名」
この映画のカラーは、冒頭ではっきり分かりやすく示されている。
立場を違える侍同士の斬り合い。勝者は逃げ去り、死体が残る。国境警備の兵士たちがそれを目撃するや、境目の外に死体を押し出して、「OBでござる」。
トボけて、おかしみがある。それでいて小気味よい。
江戸時代末期、アメリカから駿河の国の小藩に流れ着いた黒人三人が、音楽好きの大名と出会い、城中でジャズセッションを繰り広げる姿を描く。
キャスト
海郷亮勝:古谷一行
石出九郎佐ヱ門:財津一郎
文子姫:神崎愛
松枝姫:岡本真実
玄斉:殿山泰司
鈴川門之助:本田博太郎
由比軍太夫:今福将雄
中山八兵ヱ:小川真司
過激派・赤坂数馬:利重剛
メキシコ商人・アマンド:ミッキー・カーチス
薩藩・益満休之肋:唐十郎
ジョー:ロナルド・ネルソン
ルイ:ファーレズ・ウィッテッド
サム:レニー・マーシュ
アンクル・ボブ:ジョージ・スミス
スタッフ
監督・脚本: 岡本喜八
原作・音楽: 筒井康隆
音楽: 山下洋輔
脚本: 石堂淑朗
撮影: 加藤雄大
照明: 佐藤幸次郎
美術: 竹中和雄
録音: 田中信行
角川映画 公式サイトから引用
時は幕末。駿河国のとある小藩は佐幕か尊王か で揺れていた訳でもなかった。
なにせこの藩の殿様である海郷亮勝は、合戦というものにてんでやる気がない。
「黒船がここに来るわけがなし。大筒も役に立つわけでなし。いっそ売ってしまおうか…」
とひじょうにフマジメ。この世界のそとに何か楽しいことはないかと思い悩みながら、大好きな篳篥(ひちりき)を吹いて遊んでいる。
そんな音楽が大好きな殿様が、異人たちの斬新な音楽に心惹かれない筈がない。堅物の家臣、血気盛んな若侍たち、男勝りの姫君、その他諸々を交えて、場内を巡る一大大騒動が起こる。 ツッコミ不在の恐怖でもある。
殿様が日和見だったのは、立地の問題もある。東海道の難所を細長く占める城のため、官軍と幕府軍の通り道となってしまうのだ。最後の勝者がどっちだろうが、戦場になりかねない現状。騒動の果て、殿様が気づいたのは、自分が何よりも音楽好きなこと、そして決断するのは
「地下の座敷牢に一同籠もってしまおう!」
そうして、今後やってくる戦乱から一切の無視を決め込むことにする。
姫君も堅物も一緒になり、一大・ジャムセッション・シークエンスが幕開く。
淡々と、しかし楽しげに弾く一面。最初はてんでばらばらで調和が整っているとは言い難いが、しかし懸命に弾くにつれて呼吸が合ってくる、そうすると音楽を奏でること自体が楽しくなっていき、もう無我夢中で弾き続ける。外の喧騒など、気にもならなくなる。
細長い城内の襖や仕切は取っ払われ、「ご勝手にお通りください」な天下の往来として既に開放されている。「ええじゃないか」やら赤毛の官軍やらが、セッションをしている頭の上で戦ったり踊ったり戦争したりしながら通りすぎていく。全員でフラフラになるまで大騒ぎをしている間に、時代は「明治元年」。
「右も左も通ってけ!」
江戸の時代は終わっても、知ったことかと、何事もなかったかのようにジャズセッションが再開する。
これは、音楽が内から溢れ出してくる過程。これはジャズとの本質と同じ。
誰も彼もが歌い騒ぐ中で、時は過ぎていく、明治は大正、昭和になって、タモリがチャルメラひいて横切っていく、エンドロールがいつの間にか流れている、これで映画はおしまいだ、なんとフリーダムで幸福な終わり方だろうか!
なぜ映画化したか、監督の言葉が残っている。 戦中派らしい、骨のある言葉。
「維新で世の中は変わったけれども、民衆の気持ちはそこに反映していただろうか。”ええじゃないか”も見られるように、世の中を変えたのは本当は民衆の力にあったというのがぼくの持論。あの時代にジャズがあったら、世の中もっと変わっていたのでは……なんて幻想を抱いて撮っています。」
1986年3月8日付読売新聞 記事より
このあと、
おばあちゃんの大冒険&<お国への反逆>というメルヘン「大誘拐」、
サムライ・ウエスタンをキハチなりに味付けした「EAST MEETS WEST」、
そして「助太刀屋助六」を遺作に、2005年に81歳で大往生を遂げる。
いかがだろう。今回紹介した作品に共通するのは自由気ままさ。
それがこの人の本領だ。
彼の為人、カツドウヤ人生からも、それは浮かび上がる。脳裏に刻まれる、映画職人<アルチザン> との異名からも、それは浮かび上がる。
今回紹介した作品以外にも代表作はいっぱいだ。「ダイナマイトどんどん」「肉弾」「EAST MEETS WEST」「激動の昭和史」「ブルークリスマス」…
また、別の機会に、私なりの視点で、紹介したい。
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