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勝新のウラ傑作「とむらい師たち」_ 世界最後のお葬式。
皆様は、先週日曜日の「独眼竜政宗」の名場面、勝新太郎の豊臣秀吉は、ご覧になっただろうか?
春日太一が書いている通りだ。
カメラが拾ったどんな動きでも面白い。
この男の喜劇的な部分が光ったウラ傑作として外せないのが、本作「とむらい師たち」だ。原作は野坂昭如。
葬儀コンサルタントを開業したデスマスク屋のガンめんと仲間は、浄土サウナ、葬儀会館設立、葬博等々奇抜なアイディアとバイタリティーで儲けまくるが・・・現代を痛烈に風刺する大型喜劇。
【スタッフ】
監督: 三隅研次
原作: 野坂昭如
脚本: 藤本義一
撮影: 宮川一夫
照明: 中岡源権
録音: 大谷 巌
美術: 内藤 昭
音楽: 鏑木創
【キャスト】
勝新太郎、伊藤雄之助、藤村有弘、藤岡琢也、財津一郎、西岡慶子、
酒井修、田武謙三、多賀勝、遠藤辰雄
おなじ「おくりびと」を描いても
滝田洋二郎監督のそれが、紆余曲折の末、 間に合わせ程度の参加という取り掛かりから、やがて全身全霊で納棺に打ち込むホンモノに変貌していく様を、丁寧に細やかに描いた人間ドラマの傑作とすれば、
こちらは、根っからホンモノのおくりびとが、八方破れに昭和日本を駆け回り、風刺するブラックコメディだ。このおくりびとには、命への尊重というものがない。死んだ魂にのみ興味がある。
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万博? それがどうした、こっちは葬博だ!**
死体の顔を石膏で象ったデスマスクを作るのを商売にしている、破天荒な男ガンめん(演:勝新太郎)。
どうやってデスマスクを作るのかといえば、死体に馬乗りになって、その顔面に溶いた石膏をバシバシたたきつけるのだ。死者に失礼じゃないか、と狼狽する遺族にかまわず、勝新はデスマスク作りに一心不乱。トランス、神懸りの状態。
これが彼なりの、「おくりびと」としての流儀なのだ。 破天荒だが。
彼なりの流儀を津々浦々に拡散させようと、彼は、葬式のプロデューサー業を始める。会社の名前は「国葬(国際葬式コンサルタント)」。
「死に顔を綺麗に整形することのできる」モグリの整形手術医師(演:伊藤雄之助、勝新と同等かそれ以上の怪優)を仲間に引きこみ、さまざまな葬式の演出を始める。最初はつつましく個人葬を、次には、もっと大々的で華々しく感動的な集団セレモニーを。
物語舞台は大阪:折しも1970年万国博覧会を控え、再開発の真っ只中。興業、もとい葬式を総指揮する空き地なら、いくらでもある。ガンやんはそこで「全国水子供養」ほか、多くのセレモニーを手がけ、プロデューサーとして大成功を収める。
角川映画 公式サイトから引用
しかし、やがて彼の関心は、この20年間、弔われることのなかった者たちへと向かう。機銃掃射を受けた兵士たち、空襲で焼かれた民間人たち、戦争で死んだ人達だ。(原作者が「火垂るの墓」の人と知れば、この流れ、合点がいくだろう)
だが、高度経済成長期を経て日本は「戦争」を、「死んだ人たち」を忘れようとしている。スポンサーも協力者も、今までとは違い、まるで得られない。
だったら、ひとりでやるしかない。
万博に対抗して、こちらはずばり「葬(式)博(覧会)」だ。
凸凹ばかりの泥道を最新式の霊柩車で乗り越え、
颯爽と万博会場造成地たる千里丘陵に乗り込む。
地下を掘り起こして霊廟を作り、そこに自作した無数のデスマスクを並べる。
彼は悦に入りつつ、ひとり、無名兵士たちの死を弔ってやる。
そこに、突然、地面が大揺れ、大音が!
世界の終わりを喜び、祝う。
目が覚めた勝新は、地上に顔を出す。一面荒涼たる焼け野原。太陽は有害色に輝いている。核戦争が勃発、世界が滅び、彼ひとりだけが生き残ったのだ。「博士の異常な愛情」の最後に流れた「We’ll meet again」、甘いメロディが似合う、むざんな地平。
彼は嘆くのか?
いや嘆かない、むしろ喜ぶ。
弔うべき人間が、ごまんといるからだ。
荒涼たる焼け跡で「これこそが葬博だ!」と叫んで、はしゃいで回る。
と、爆発で出来上がった窪みに転げ落ちる、打ち所が悪かったか、彼はぴくぴく動いた後、やがて、動かなくなる。文字通り、自分で墓穴を掘ったガンやん。
生きてるものはいなくなる。
聴こえるものは、ただ雨音ばかり。 破滅的で破壊的なラストだ。
本作の公開は1968年。まだ、戦争の傷を忘れられない人たちがいたから、成立し得た原作、そして劇場版。
それから半世紀、彼らの死は、既に遠く去った。(滝田洋二郎の「おくりびと」すら、すでに10年前の映画だ。)
今、はたして過ぎ去る時代のために、我々にどんなお弔いができるのだろうか?
ブラックユーモアのなかに、ふと、そんな想いをよぎらせてくれる、そんな不思議なパワーを持った映画だ。 これも勝新の為せる技なのかもしれない。
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