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#小説

16日を誘拐した。

16日を誘拐した。

「6/16を誘拐した」

「いいんじゃないか?誰も困らない」

「誕生日の人は困るでしょう」

「来年一緒にやればいいじゃないか」

「水と月をまとめたら混乱する」

「今年は364日になるのか」

「来年の税金はどうなるのか」

「誘拐中は課税されないんだろうな」

「誰も今日というぼくを見ていないんだね」

「いいか、お前ら。どんな手ががりも見逃すな」

「最後に目撃されたのはいつだ」

「2

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真夜中の戯言

真夜中の戯言

「...も、しもし?」

「おお、やっと出た。電話は3コール以内に出る、研修でそう教わったよね?」

「はぁ...。って、誰なんですかあなた?」
「てか、一体何時に電話かけてきてると思ってるんですか。非常識にも程があるでしょ...」

時刻は深夜2:00を回っていた。

「まぁまぁ、細かいことは置いといてさ。なかなかないと思うよ?こういう機会」

「はぁ...。だから誰なんですか」

「俺は、君だ

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好きな小説の話(横道世之介)

好きな小説の話(横道世之介)

ただ読んだ感想をツラツラと書きます。あらすじの紹介とかはしないです。

横道世之介を読んだのは自分が大学生ぐらいの時だったと思います。
この小説はその名の通り、横道世之介という若者を主人公にした青春小説です。
自分自身、この小説の中の主人公(世之介)が、その後の人生において、憧れの存在となりました。

この本にはドラマチックで小説的な展開などは特にありません。
主人公(世之介)の大学時代が淡々とつ

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2190日の恋

2190日の恋

色のない世界は、どんなふうに見えるんだろう。

そう思いながら、路肩にジッと息をひそめるクリーム色の軽自動車の運転席で、ゆっくり藍色がかっていく空を見ていた。

昼に食べたはずの「かき揚げ蕎麦」が、まだ胃に残っているのを感じる。左手にはめた腕時計が「17:00」を示したのを確認して、車にエンジンをかけた。

ゆっくりと加速する車のアクセルは、朝より踏みやすい。「今日もおつかれさま」とつぶやいてみた

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書評|横道世之介

書評|横道世之介

 『横道世之介』を読み、僕の頭には真っ白なパレットが浮かんだ。表面は滑らかで、光を写す。物語の主人公である横道世之介は透明だ。長崎から上京した大学一年生。平均的で、何者でもない。何色にも染まっていない彼が、何かに染まろうとする。その過程をこの作品はみずみずしく描き出す。

 何者でもなく、眼の前に積まれた膨大な時間。移ろう季節の中で、世之介は時を過ごす。新宿、歌舞伎町、渋谷、原宿、赤坂。西武新宿線

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『横道世之介』  written by 吉田修一

『横道世之介』 written by 吉田修一

横道世之介。東京に上京してきた大学生。
私には彼の気持ちがよく分かる。
同じ「地方出身で東京都内の大学に進学し一人暮らしを始めた」私だからこそ、
世之介の気持ちがよく分かる。

何気ない日常の中で感じるやるせなさとか、空虚感とか、ちょっとしたことに自分でも驚くほどに動揺したりとか、1つの恋でワクワクしたりとか、「あぁやっぱり都会は違うんだなぁ」って感じる瞬間とか。
1人でいるときにふと感じる孤独さ

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横道世之介と言う男

横道世之介と言う男

「横道世之介」、僕の好きな小説のタイトルである。吉田修一さんの青春小説である。僕は青春小説が好きだ。ちなみに今でも自分は青春を生きていると思っている。バカだ。

横道世之介と言うのは、作品の登場人物であり、主人公であり、大学生。世之介と彼を取り巻く人々の人間模様を、過去の出来事(大学生時代)と、登場人物の現在とを織り交ぜながら描かれている。

世之介はひょうひょうとした青年で、のんきで優しく、お人

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