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『君ヲ想ヒテ恋に惑フ』

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2013年に配信された乙女ゲーム『君ヲ想ヒテ恋ニ惑ウ』真相編。 ※ゲーム未プレイでもお楽しみいただけます。
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記事一覧

十四話 海に贈る花束

「ああ、やっと見つけた。随分と探したんだよ?」

土を踏む複数の足音に、ユーリは手にしていた花の苗を手にしたまま振り向いた。教会の脇道から歩いて来る男は、目が合うと聖母のような柔らかな笑みを浮かべる。
周りにいた子供たちも侵入者に気づき、走り回るのをやめた。

鴉の濡れ羽色の髪に、黒曜石のような瞳。
人形のように美しい顔をしているのに、その男は人に憧憬ではなく不安を感じさせた。
人間は左右対称のも

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第十三話 思い出の海

第十三話 思い出の海

「忍、どうだった」

パーティー会場の様子を確認し戻って来た綾崎に気づき、上総が周りの来賓に断ってから早足に歩み寄った。
綾崎は素早く辺りを窺ってから、表情を変えないままに頷く。

「やはり、お姿が見えません」

「……そうか」

誰が、とはどちらも口にはしなかった。
声を潜めているとはいえ、どこで誰が聞き耳を立てているかわからない。
状況が状況だけに、注意しすぎるくらいでちょうどいいだろう。

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第十二話 差し伸べられた手

第十二話 差し伸べられた手

「……、…………!?」

鋭く放たれた異国の言葉。
それが何を意味するのか、私にはわからない。
けれど、対峙している様子から好ましいものとは思えなかった。

「アリョーシャだと?」
「! 鷹司さん、ロシア語がわかるんですか!?」
「ある程度ならな。それよりお前、アリョーシャって知り合いは」
「外国の方に知り合いは……」
「まあ、そうだろうな」

こちらが何も言い返さずにいると、男は苛立ったようにま

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第十一話 不協和音のワルツ

第十一話 不協和音のワルツ

パーティーは始まってしまった。それも最悪の形で……。
宣戦布告とも取れる花束に仕込まれた爆弾。本来ならばそれを受け取った時点で中止にすべきだった。けれど、ほんの些細な勘違いから爆弾はパーティー開始の合図となり、来賓たちは悪意の花束へ知らず拍手を贈った。
開始時間まではまだあったため、その場にいた来賓は多くはない。それでも、一度始まったと認識されたものを中止にするのは、始まる前に止めるよりも遙かに難

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第十話 はじまりは花の香り

第十話 はじまりは花の香り

たった一日。
忙しくしてるうちに明後日がくる。
そう思っていたけれど、その忙しさを甘く見ていた。

「お嬢様、よくお似合いでございます」
「ええ、本当に。ダンスのお誘いも数多できっとお困りにますよ」
「そ、そうですか? ふふ、ありがとうございます」

用意してもらったドレスは淡い藤色をしており、とても上品だった。大人っぽい意匠に気後れしたものの、手放しに褒められれば悪い気はしない。けれど、浮かれて

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第九話 明後日の話

第九話 明後日の話

「おはよう、千佳。よく眠れたかい?」
「おはようございます、上総さん。少し寝坊してしまいました」
「どうせ夜遅くまで本でも読んでたんだろ」
「え、くまとかできてる?」
「あんたの部屋の明かり、ついてると俺の部屋からよく見える」
「ということは、克己も夜遅くまで起きていたんだね?」
「それは……っ」

何気ない朝の風景。
朝食を共にしようと食堂の椅子に腰を下ろす。もちろん、その椅子は綾崎さんが私が座

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第八話 探偵

第八話 探偵

広げていた手紙を、上総さんは目を伏せて丁寧にたたみ直した。

「そう悲壮な顔をするもんじゃありません。こうやって脅しをかけてきたということは、まだ手遅れだというわけじゃない」
「……いえ、手遅れかもしれません」
「どういうことです?」

鳴海さんの眉間にわずかにしわが寄る。
私は口を挟むこともできず、ただ二人の顔を見比べるばかりだ。

「もちろん、父には中止を……それが難しい場合は延期を進言するつ

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第7話 夕闇よりも暗いもの

第7話 夕闇よりも暗いもの

神父様に言われた通り、治療を終えると私と克己くんはすぐに教会を後にした。
私たちを見送る神父様の顔色は相変わらず悪く、まるで神父様の方が怪我人のようにも見えたほどだった。
九条の屋敷に戻り、ひとり神父様の言葉を思い出す。

「あなたを襲った組織の目的はわかりません。けれど、一度失敗してなお引かないということは明確な意図を持っているとしか思えません。私から鳴海さんにも何か手を打ってもらえないか相談し

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第六話 神のみぞ知る

第六話 神のみぞ知る

膝が萎え、体が重力に従って地面へと倒れ込む。
けれど私の体は地面に打ち付けられることなく、後ろから自由を奪う手によって支えられていた。

「おや、もう眠くなってしまったの? まだ眠るには早い時間だというのに」

歌うように軽やかな声が言う。
必死に顔を上げようとしたけれど、視界が暗くなり話すその人の表情が見えない。

「そんなに眠りたいなら仕方ないね。ボクの屋敷に招待してあげようか」

ふいに体が

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第五話 過去の残した傷跡

第五話 過去の残した傷跡

──避けられない。

柔らかな笑みを浮かべた天使の像は、背丈が私の半分ほどもある。
それが台座からずれ、今まさに私の頭上へと落ちてこようとしていた。
ぶつかれば、それなりの怪我をするだろう。
痛みを覚悟し、私はささやかな抵抗をするように目をきつく閉じる。
その時──……。

「っ……触るぞ」

低い声が聞こえたと思った瞬間、腰に回された腕にすごい力で引き寄せられた。
息を呑む暇さえなく、もちろん頷

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第四話 兄弟

第四話 兄弟

桜の花が咲いたら──。

毎日ダンスのレッスンを受けながら、私は秘かに上総さんに言われたお花見を楽しみにしていた。
ずっとお屋敷に閉じこもっていると、やはり気分が滅入ってしまい、どうしても視線は外へと向く。
窓から庭の桜を見つめると、大きく膨らんでいるわりに蕾みはまだ開きそうになかった。
私が毎日見過ぎているせいもあるかもしれない。
お花見の日程は桜次第ということもあり、日にちを決められてはいない

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第三話 この道は

第三話 この道は

ばさ、と大きな音を立てて本が床に落ち、我に返る。

──怜二が何者かに襲われた。

血の気が引き、ぐらりと倒れそうになるのを体を壁に手をつくことで耐えた。
怜二は歌舞伎の人気役者だ。
女の子に囲まれることも、少し物騒な恋愛沙汰に巻き込まれることもよくある。
けれど、襲われることなんて。

「……大丈夫かい?」

そっと肩に手を置かれ顔を上げると、上総さんは自分のことのように辛そうな顔をしていた。

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第二話 伯爵家の娘

第二話 伯爵家の娘

九条伯爵家の娘として、これからここで暮らしていく。

今日あった出来事はお芝居の中のことのようで、現実味がまるでなかった。
用意してもらっていた部屋は、お母さんと二人で暮らしていた質素な家とは比べものにならないほど豪華で、部屋にひとり残されると居たたまれない。
繊細な刺繍をあしらわれたベッドカバーの上に腰を下ろす気にはなれず、アンティーク風の椅子を引いて慎重に腰を下ろした。

これから、どうなって

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第一話 その雨は嵐を呼ぶ

第一話 その雨は嵐を呼ぶ

夜更けに降り始めた雨は、明け方になってもまだ降り続いていた。
その雨は土を掘り返すように、何度も何度も空から打ち付けてくる。
白木蓮の木の根元、そこにある真実を暴こうとでもするかのように。

あれから、どのくらいの月日が経っただろうか。
長い時間が経ったという感覚があるのに、同時にまるで昨日のことのように鮮やかに思い出すことができる。

「あのね、この種を埋めるときれいなお花が咲くの」

幼い女の

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