質問009:大会になると極度の緊張で震えてしまいます
回答
▶緊張は悪くない
まず確認しておいてもらいたいのは、競技スポーツに臨むにあたって、緊張は悪いわけではないという心の基本です。
心の状態は、一端が「緊張」、もう一端が「リラックス」。
このシーソーの真ん中に乗ってバランスを取るのがメンタルコントロールだとイメージしてください。
ですから緊張がまったくなくて、リラックスに片寄りすぎても、やっぱりオフバランスというわけです。
そして、緊張とリラックスのバランスがちょうど取れて、シーソーが釣り合った状態が、いわゆる「ゾーン」あるいは「フロー」。
無心でプレーできるからくりは、この「バランス感覚」によっているのです。
▶緊張と弛緩の「シーソーゲーム」
リラックスするのがいいからといって、なごやかな雰囲気で行われるエキジビションマッチで、トッププロが「ゾーン」に入ったとは、聞いたためしがありません。
とはいえ「ゾーン」「フロー」に入る難しさはここにありまして、このシーソー、とんでもなく高精度にできていて、少しバランスを崩すとすぐに、釣り合わなくなり、傾いてしまいます。
緊張とリラックスという相反する心の状態をバランスさせるというのが、「ゾーン」「フロー」に入る調整の難しさ。
▶過緊張対策は「体に働きかける」
今回は、「今すぐに」というご要望に沿えるよう、過緊張に片寄ったアンバランスを釣り合わせるための対処療法をお伝えします。
ただ本来的には、集中力と平常心との鍛錬を通じて、緊張とリラックスのバランスをコントロールできるようにするトレーニングの必要性を、ご承知おきください。
心の状態を変えようとする場合、心を直接的にどうにかしようとするのは、得策ではありません。
心の状態を変えたければ、体に働きかけるのがポイントです。
▶捕れなくても、あえて食らいつく
ご自身のシーソーが一端に片寄りすぎて過緊張の状態にあるとするならば、たとえば即効的な方法としては、走りまくってバテてしまうことです。
緊張できるということは、まだまだ体に力を入れて、力む余力がある証拠。
走りまくるなり、なんなりして、疲労してしまえば、緊張するための力みすら残らなくなって、心の状態はほぐれてきます。
体がほぐれれば、心もほぐれるというのを強制的にやってしまおう、というのが狙い。
対戦相手から厳しいコースに打たれて、とても取れそうにないボールにも、「あえて必死に食らいつく」などします。
低年齢層向けの過去記事ではありますが、拙著『ジュニアの君へ』を紐解きます。
以上、『ジュニアの君へ』からの引用でした。
ラファエル・ナダルよろしく、「そこまで追うかー」を実践すれば、対戦相手には「もっと厳しいコースを狙わなければ捕られてしまう!」というプレッシャーを強いることができ、それがメンタルを削る効果も発揮します。
▶「緊張するぞ」と考えても緊張できない
さて「リラックスするぞ」と考えてもできないのと同様に、逆に言えば「緊張するぞ」と頭で考えても、できるものではありません。
そういう場合、どうすればよいでしょうか?
体に働きかけるのがポイントだとお伝えしています。
たとえば体を、グラグラ揺れる高い吊り橋へと、連れて行ってみてください。
そうすると否が応にも心はドキドキして、緊張してしまいます。
このドキドキを恋愛のドキドキと勘違いさせるというのが「吊り橋効果」と呼ばれるもので、悪い(賢い?)男が使う手なので、引っかからないようにしなければなりません(笑)。
▶即効性は高いぶん、「副作用」もある
冗談はさておき、心が過緊張状態なら、体をバテさせてしまうというご提案。
もちろんこれも、バランス次第です。
例えば極度の緊張を精神安定剤の薬を用いて抑えるようなもので、根本治療にはなりません。
そして、試合の後半に及ぶと、体力が持たなくなるかもしれない副作用の危険もはらみます。
とはいえ、服用すればすぐに効果は実感できるでしょうし、ガチガチに過緊張して動けなくなるよりはマシでしょう。
そういう場合のトランキライザーにはなります。
▶心のトレーニングは「体育」
ただししつこいようですが、先述したように、本来的には集中力と平常心とを鍛錬するトレーニングを通じて、緊張とリラックスのバランスをコントロールできるようになる取り組みが望まれます。
集中力と平常心のトレーニング方法については、長くなりましたので、また機会がありましたら改めてご紹介したいと思いますけれども、やはりここでのポイントも、「集中するぞ!」「平常心になろう!」などと頭で考えて、心がけたりすることではありません。
このトレーニングは、体に働きかけて育成する、換言すれば「体で覚える」、科目としては「体育」に属します。
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