質問067:上級者もドキドキするの?このドキドキがなくなれば、どんなにラクかと思う
回答
▶ドキドキ「してしまう」のではなく「してくれる」
体は精緻だと申しました。
体に生じる反応は、ストレスなどから身を守るサインであり、間違いはありません。
体がだるくなってくれるのは、「それ以上、動くな。もう休め!」と知らしてくれるサインなのでしたね。
緊張するのも同じです。
「勝負する」などの切迫する事態に際し、緊張して呼吸が速くなるのは、体により多く酸素を取り入れるためです。
緊張して筋肉が硬くなるのは、瞬発的な躍動感を発揮するためです。
お茶の間でお茶を飲んでいるような筋弛緩状態では、すぐに動き出せませんからね。
緊張して心臓がドキドキするのは、血流を速くして血の巡りを身体の隅々にまで行き渡らせ、活動量を上げるため。
緊張して汗をかくのは、具体的にテニスでいえば、ラケットを握るグリップ力を補強する働きと言えますね。
つまり緊張するのは、勝負などの切迫した事態に際し、パフォーマンスを最大限に発揮するための、精緻な体による優れた反応なのです。
ですから適度な緊張は、あってしかるべき。
後述する「ゾーン」や「フロー」を体験するには、必須とすら言えます。
▶緊張も「過ぎたるは及ばざるが如し」
とはいえ、過ぎたるは及ばざるが如しでもある。
手に汗をかけばクリップ力が高まるといっても、汗をかきすぎてクリップが手のひらのなかでスリップするようだと、逆にパフォーマンスは落ちます。
筋肉が緊張すると躍動的な動きになるといっても、硬くなりすぎると逆に動きにくくなる。
テニスの試合では痙攣などを起こして、ふくらはぎがつるシーンは、草トーでもよく見かけるのではないでしょうか?
とはいえ仰せのとおり、緊張感が足りないのではなくて、緊張しすぎて困っているのが、一般プレーヤーが抱える切実な問題ですね。
▶ファイト・フライト・フリーズ反応
切迫した事態に出現する「ファイト・フライト反応」は、よく知られていると思います。
ある日、森の中、熊さんに出会ったら、勝てそうなら「ファイト(闘争)」するし、負けそうなら「フライト(逃走)」します。
英語で「ファイト・フライト」、日本語で「闘争・逃走」反応は、語呂が合っていて親しみやすい。
そしてもうひとつ、第3の反応であるところの「フリーズ(硬直)」反応。
ある日、森の中、熊さんに出会ったら、物かげに身を潜めて、なるべく動かないようにし、身を固められれば固められるほど気づかれにくく、生存確率を高めることを狙った反応です。
▶リラックスが必ずしもいいわけではない
では、適度な緊張から過度な緊張へと「ぶっ飛んでしまう」のは、一体なぜか?
ご質問に関して結論を申し上げると、上級者はそんなに、ドキドキしません。
もちろんある程度、緊張はしますが、それは必要な緊張感。
いわゆる「ゾーン」や「フロー」という究極の集中状態に入るには、リラックスしすぎても、難しいのです(参考記事:緊張と弛緩の「シーソーゲーム」)。
エンターテイメント色が強いエキジビションマッチでは、プロでも決して、「ゾーン」や「フロー」には入りません。
「本番」に比べて緊張感が、そこまで高まらないからです。
親善を深める「交流試合」でゾーンに入ったとか、「プロアマのチャリティマッチ」でフローに入ったとか、聞いたためしがありません。
ですからリラックスしすぎても、ハイパフォーマンスは発揮されないのですね。
▶ドキドキは「メンタル」というより「テクニカル」
とはいえここでのご質問は、そういった「緊張感を持つ」以前に、「緊張しすぎてしまう」お悩みを、ご相談いただいています。
先述したとおり、プロも本番では緊張する。
だけどアマチュアプレーヤーの多くがさいなまれるほどの、ドキドキする「過緊張」はない。
ドキドキするかしないかは、テニス歴が長いかどうかとも、あまり関係ありません。
テニス歴が長くても、ドキドキする人はいつまで経ってもドキドキします。
テニス歴が短い人でも、ドキドキしない人は、あまりドキドキしません。
これは、メンタルの強弱に起因していると勘違いされがちかもしれませんけれども、どちらかというとテクニカルな水準に依拠していそうです。
▶恋愛でドキドキするのは、関係性が「安定していない」から
というのも、何がドキドキに関わっているのか、なぜドキドキするのかというと、その原因はテニスの場合「プレーの安定性」。
具体的には多分に、「ショットの安定性」と言い換えてもいいかもしれません。
基本となるショットが安定していないと、試合をコントロールする力が及ばない「怖れ」が支配的となり、適度な緊張を通り越した過緊張へと、ぶっ飛んでしまうのです。
恋愛にたとえて説明しましょう。
恋愛初期の恋がドキドキするのは、お互いの関係がまだまだ「安定していないから」です。
付き合うのか否か、つかず離れずの微妙な関係で、自分の力でコントロールできる事柄も限定的。
だから感情もブレやすく、ドキドキしがちです。
だけど2人の関係が「安定」してしまうと、そういうドキドキはなくなります。
その代わり2人は、どっしりとした安定感に基づく、もっと深い愛と情の次元に落ち着く。
恋から発展して「家庭」を築く間柄にでもなれば、基本的には「緊張は不要」でしょう。
引き換えに、初期のころのようなドキドキするときめく感覚はなくなります。
だけど家庭でも不和が生じたら、安定していた反動で、「壮絶なファイト・フライト」になるのは、不可避ですけれども(苦笑)。
▶テニスと恋愛を支配する「怖れ」
こういうと、「テニスと恋愛とは全然違う!」などと、いぶかる向きもあるかもしれません。
しかし状況に応じて「ダルくなってくれる」のと同様に、精緻な体による反応として、それも間違いないのです。
テニスでいうと、ショットが不安定なうちは、試合になるとやはり、ドキドキするでしょう。
自分の力で勝負をコントロールできない「怖れ」が、支配的になる。
だけど、ショットにどっしりとした安定感が備わると、そのような過剰なドキドキも弱まり、安定感を自信の根拠とするもっと深いレベルのプレーがかないます。
すなわち、試合を自分の力である程度(完全にはできないにせよ)コントロールできるから、ドキドキしにくくなるのです。
▶フェデラーは「ドキドキ」というより「ワクワク」
ですから「ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルは、グランドスラムの決勝なんてよほどドキドキするんだろうな」なんて考えたら、少し想像する角度が違う。
ご質問いただいてるドキドキ感で言えば、たとえば草トーに初めて出る初心者のほうが、数倍強いはずです。
フェデラーやナダルのショットはものすごく安定性が高いものですから、ここでご質問いただいているいわゆる「過緊張のドキドキ」とは、異質といえそうです。
緊張は、するにはするけど、ドキドキというよりは、ワクワク。
この安定感を根拠とした「落ち着き」と、ハイレベルな戦いに由来する「緊張感」との絶妙なバランスが、あの高度なプレーパフォーマンスを生み出していると言えるのです。
▶過緊張で苦しまない「7つの対策」
とはいえここでの話は、緊張しすぎて困っている。
では、どうすればいいかの解決策を求めていらっしゃるのだと思います。
「ファイト・フライト・フリーズの理屈は分かったよ」
「とはいえ、今すぐショットの安定性は上げられないし」
「上げられないから、緊張するんだよ」
「だからどうすればいいの?」というお悩みだと思います。
試合で手足がすくむ。
震えが止まらない。
そんな過緊張に陥ってしまったら、どうすればいいか?
もっと実用性の高い、試合当日にも使える話に落とし込んでご提案を進めましょう。
テニスだけではない。
緊張は、受験、就職、プレゼン、プロポーズなど、人生のいろんなーシーンで直面するから、イザというときに(5.以外は)役立つはずです。
7つの対策をご紹介します。
▶対策1.「ありのまま」を受け入れる
「緊張しないようにしよう!」「緊張してはダメだ!」ではありません。
このような「自分否定」を、つい、やってしまいがちですね。
「緊張するような弱気じゃダメだぞ!」
こういう厳しい視線を指導者から向けられると、余計に緊張してしまいます。
それは、自分が自分に向けても、同じこと。
うるさいって怒鳴っている自分が、いちばんうるさいようなものです(笑)。
ここでもキーワードは、「ありのままを受け入れる」です。
「自分は緊張しているなあ」
「試合なんだから仕方がないよな」
ありのままを受け入れるとき、つまり「自己肯定」できたとき、人は、最も能力を発揮します。
これも、生きていくうえで「自己肯定感」を備えたい理由のひとつのです。
逆に「緊張なんてしていない!」などと自分を「作る」のも考えもの。
「ありのままの自分」ではいられなくなるから、「本来の実力」を発揮できません。
人に好かれたいからといって、いいところを見せようとして自分を「作る」と、嫌われます。
ありのままの自分を「むき出し」にしたほうが、魅力が出て、結果的に好かれるのです。
それがその人の、「本来の実力」が発揮された結実だからです。
参考記事:テニス上達メモ463. 「気持ち悪い言葉?」 イチローの記事を読んで自己肯定感は、本当に誤解されやすいと思い知る
▶対策2.緊張度合いを「点数化」する
「すごく緊張している」などと言うから、際限がなくなってしまいます 。
すごくって、どれくらい?
試合開始直前の今の緊張度合いは、10点中9点。
1ポイント取れたら落ち着いたから、6点まで減じた。
1ゲーム落としたけど、かえって勝ちビビリが薄れて、今は3点。
緊張度合いも「諸行無常」ですから、そのテンションは、刻々と移り変わっていきます。
ずっと続くと思うから、「逃れられない」不安にもさいなまれる。
つど点数化すると、冷静になれて、しだいに過緊張が和らいできます。
参考文献:「イップス克服に向けて010:少し救われた気持ちになった」
▶対策3.「場数」を踏む
テニスの試合も、営業やナンパと同じです。
毎週のようにやっていたら、慣れます。
だけど、プロではないのですから、毎週試合に出るわけにもいきません。
どうするか?
練習では試しに、「いきなり試合形式」から入ってみましょう。
普段はたとえば、ショートラリーからストロークの乱打、ボレスト、スマッシュ、サーブ&リターンのルーティンかもしれません。
ですが本番では、ほぼ「いきなり試合」ですからね。
練習でやらないことは、本番ではできません。
だとしたら普段の練習から、「いきなり試合」のルーティンに慣れるのです。
もちろん「いきなり試合」といっても、怪我はしないように、ストレッチなどの体のウォーミングアップ、そしてボールを見る目を司る眼筋のウォーミングアップは、練習でも本番でも、事前に行います。
体のほうは皆さんやるので、ここでは眼筋のウォーミングアップについて。
眼筋も筋肉ですから、事前にウォーミングアップしておくと、目のピントが合いやすくなります。
『新・ボールの見方~怖れのメガネを外して、ありのままに見る技術~』で紹介されているとおりボールは、上から目線で見下したり、上目遣いで見たりするのではなく、顔ごとボールに向けて、中心視野でボールを見ると、最もハッキリ・クッキリ視覚野へと投影されます。
ですから上下左右に眼球を動かす眼筋ストレッチは、やるに越したことはないけれど、プライオリティとしては、ボールの深さを測る「深視力」のほうです。
人差し指を近くの目の前に立てて、遠くの対象物と、指紋との間で、目のピントを行ったり来たりさせます。
行ったり来たりを速めるスピードよりも、遠近にしっかりピントが合うフォーカスのほうを、優先してください。
ちなみに大きな声では言えませんけれども、私はそろそろ視力が危ういのですが、この方法で運転免許証の視力検査を突破しました。
▶対策4.「戦況3パターン」をイメージトレーニング
「優勢・劣勢・競り合い」の戦況3パターンを想定したイメージトレーニング。
想定外の事態には、人は対応力を損ないます。
その日の、自分の立てた戦略やコンディションに応じて、優勢で進められているとき、劣勢に追い込まれそうなとき、互いに競り合いになったときについて、想定をしておきます。
特に劣勢に立たされたり、競り合ったりするシーンでは、「間を取るイメージ」を湧かせておくとよいでしょう。
短期決戦でたたみかけるか、長期戦に持ち込んで粘るかなどを想定しておけば、あとは潜在意識に預ければ(→7.)、その時々に最もふさわしいプレーが選ばれます。
▶対策5.走りまくって、拾いまくって、バテまくる
「緊張できる」というのは、まだまだ体力に余裕がある証拠。
バテてしまったら、それどころじゃなくなって、過緊張できなくなります。
なので試合序盤から、体力温存など考えずに、取れそうもないボールもがむしゃらに追いかけます(参考記事:運動神経の伸ばし方)。
そしてそれは、自分が追いつく、届く、取れる可能性をもちろん高めますし、それ以上に対戦相手に、「あそこまで追いかけられるのか!」というプレッシャーを与えて、よりシビアなショットを打たせるリスクを負わせる圧力に通じます。
▶対策6.「結果」を気にしない
結果は未来についてのことだから、今考えても、どうなるか、絶対に分かりません。
未来が分かるとしたら、超能力者です(笑)。
分からないのに考えるから、余計に不安になって、緊張もします。
不安と緊張は共犯関係ですからね。
なので結果については、本当の本当の本当に考えないでいると、結果がついてきます。
なぜなら考えなければ、「今・ここ・この瞬間」のボールに、集中しやすくなるからです。
大切なポイントなので、昨日のテニス上達メモ「051.テニスは天然さんだと上手くいく!」をさらってみます。
考えるというのは、たとえ1秒でも、前であろうと先であろうと、必ず過去か未来のこと。
一方感じるのは、今しかできません。
昨日の寒さを今、感じられないし、明日の景色を今、見ることはできません。
今のボールを見ることができるのは、今しかないのです。
見ながら聞けないし、聞きながら味わえないし、味わいながら考えられないし、考えながら、ボールを見ることはできないのです(ぼんやり眺めることはできても)。
ですからボールの回転やケバケバまで集中して見るためには、考えないでいることが必須です。
そのためにも、結果については、本当の本当の本当に考えません。
▶対策7.「潜在意識」にドーンと預けてしまう
「次のプレー、どうなるかやってみてくれ」と、潜在意識にドーンと預けてしまいましょう。
顕在意識で、「ああしよう」「こうしよう」などと、意識しがちです。
それが、プレッシャーを自分に強いて、「過緊張」を招きます。
もう、「任せたから、やってみてくれ!」と。
「あとは丸投げで、ドーンとお任せします!」と。
頭で緊張しないようにしようと考えるではなく、体に働きかけるのです。
すると、顕在意識で感じるプレッシャーが減じる一方、潜在意識による「自動プレー」が開始されるから、「よく分からないけど上手くいく」「なんか知らんけど身体が勝手に動いてショットが勝手に入る」、いわゆるゾーンに入ります。
参考文献:テニス上達メモ039.「どうなるのか、やってみてくれ!」と、潜在意識にドーンとあずけてしまおう
▶おまけ・私も緊張する
以上、「過緊張」について、7つの対策をご提案してみました。
かういう私も、noteを投稿する前には緊張にさいなまれますが、「評判が良くなかったらどうしよう」とか「こんなこと書いたらバッシングされるかな」などの結果は、本当の本当の本当に気にせず、「今・ここ・この瞬間」に集中して、配信に努めるしだいです。
もし、気に入らない表現などありましたら、ご指摘いただければと思います。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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