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Tale_Laboratory
2023年1月31日 08:30
「うーん、どうやらまた失敗か、惜しかったんだが」街ゆく人々を見ながら、私はもう10回以上は感じている気持ちをさらに上書きしている。歩いている人、立ち止まっている人、それぞれが手にしているのはスマホだった。「やっぱり、いないな」みんなスマホを持っている。スマグラを付けている人は一人もいない。スマートフォンの次に登場した、スマートグラス。メガネ型の携帯端末。両手が空いて、ファッションとしても
2023年1月30日 08:10
俺の仕事は、いわゆるコーディネーターってやつだ。まあ、コーディネーターって言ってもいろいろあるが、あえて言うなら、風景コーディネーターと言ったところだろうか。客の望む風景を提供するのが俺の仕事だ。個人の旅行者から、ロケ地を探している映画監督まで、とにかくその人が見たい、行きたいと思っている場所に連れていく。ただ条件が一つある。ご希望の風景の場所に俺は連れていくが、その代わり、そこに行くまで
2023年1月29日 09:20
冒険者ギルドには今日も多くの人間が集まっている。よほどこだわりのある冒険者でない限り、各地にある冒険者ギルドを利用する。ここでは、その土地で募集されている仕事に関する情報が集まる。短期の肉体労働から、ダンジョン攻略、魔物討伐など、冒険者ならではの仕事のラインナップだ。単純に冒険者同士の情報の交換という意味でもギルドは有効だ。ここで知り合った冒険者がパーティを組み、その後長い付き合いになるこ
2023年1月28日 09:40
ここに来たのは間違いだったかもしれない。私はその部屋に入った瞬間にそう思った。窓の無い部屋。いや、正確には本棚で窓が隠されてしまっているんだ。そして床にはガラクタなのか何か分からない物が散乱している。嫌な匂いがしないのは唯一の救いだ。この怪しさ満載の部屋の主は今、座椅子に座って私に背を向けている。主の正面ではPCのモニターが光を放っていた。「んで?私に依頼ってのは?」座椅子の向こうから
2023年1月27日 08:36
「そう言えば、お前知ってるか?」「何をだよ?」銃を肩に担いだ男が二人、野営地の中で話し込んでいた。戦場と言えど、常に弾が飛び交っているわけではない。むしろ何もない時間の方が多いこともある。「あの、メルゼンのことだよ」メルゼンとはとある女傭兵のあだ名である。噂によると彼女は戦場で産まれ、銃弾や砲弾の音を子守歌にし、弾の入っていない銃を人形の代わりに持ち歩き、7才の時には人を撃っていたらし
2023年1月26日 06:44
ここは?私は隣に座っている運転手に尋ねる。運転手と言っても、現在は自動運転に任せているから操縦桿は握っていない。魂の還る場所だと、彼は言った。宇宙を行く一人旅。なるべく旅費を浮かすためにヒッチハイクを試みたところ、少し不愛想だが親切な人の船に乗せてもらうことになった。彼が言う魂の還る場所とやらを窓から覗いてみると、時折大き目の小惑星が見えたりするが、基本はどこでも見れるような宇宙空間が広が
2023年1月25日 06:43
お互いに生まれた時から定められた役割があった。それを運命と言ってしまえばそれまでだろう。だが、その二つの存在は出会ってしまった。そしてそのことにより、起こりえないことが起こってしまった。それはまるで決して出会うことの無い太陽と月のように。出会ったことによって、まずは互いに互いのことを知りたくなった。生まれてから与えられた知識を総動員しても、それでも互いのことを知り尽くすことはできなかった
2023年1月24日 08:44
空を見るのが好きだ。特に夜の星空。天体観測をしている時は、昼間の世界でどんなに嫌なことがあっても忘れることができる。学校で嫌なこと言われたことも、苦手な科目の宿題が大量に出されたことも、空を見るだけでちっぽけなことに思えた。今気になっている星がある。ちょうどこの時期の、この時間帯に一番よく見える星。星というか、惑星だけど。私がおじいちゃんから譲り受けたこの望遠鏡は伊達じゃない。あの青い
2023年1月23日 07:41
室内だというのに、どこからかすきま風が吹き込んでくる。この時期地上は冬の季節だ。暖炉に火が入っているが、それでも気休めにすぎなかった。「まったく、これだから地上は嫌なんだ」男は一応その宿屋で一番高い部屋の、少し軋む音を立てるベッドに座りながら愚痴をこぼしていた。男が膝の上に広げているのは、この辺りの地図だ。地図の至る所にペンで書き込みがされている。それは彼がここ数日で手に入れた情報だった
2023年1月22日 11:32
できた。彼はたった一人の室内で誰に言うでもなく呟いた。今どき珍しく、原稿用紙に手書きが書かれたそれは、一本の映画の脚本だった。よい脚本とは何か。それはその物語を見た人が、あたかも自分の物語のように感じることができるもの、というのが彼の持論だ。そのためには様々なものを見て、聞いて、触れる必要がある。そう考えた彼は、世界中を歩き回った。そこに住む人々の人生や広がる風景を自分の中に蓄え続けた。
2023年1月21日 10:38
ぼくは忍者だ。え?忍者なんてもうこの国にはいない。確かに、忍者をしている人間はもういない。でも忍者が人間だけだなんて、そんなのは勝手な人間の間のお話に過ぎない。ぼくは、今も続いている由緒正しい猫忍者の末裔なのだ。猫忍者は見た目は普通の猫と変わりない。それはそうだ、でないとこの社会の中で忍べない。だから頭巾とか被ってない。人間の忍びに仕事は主に情報関係。敵の機密情報を調べる。それをいち
2023年1月20日 09:05
新たな技術が生まれれば、生活のスタイルは変わる。車の発明により、遠くまで歩いて行く人は極端に減っただろう。そしてその車でさえも、新しい技術が生まれれば、古い技術を使っている車はいつの間にか消えていく。その流れは古今東西変わることはない。しかし、その消えゆく流れを忘れるわけでもなく、かと言って逆らうわけでもない者もいる。一定のリズムで身体が上下や左右に小さく揺れる。レールという決まった道し
2023年1月19日 08:08
社会には様々な問題がある。それは時代と場所を選ばない。そして社会から問題が無くなった時は一瞬たりとてない。とりわけ、昨今において世界の至る所で問題となっている社会問題と言えば、少子化だろう。だが、社会から問題が無くならないのと同時に、問題を解決しようとする者がいなくならないのも世の常である。ほぼ毎日、日が落ちるくらいの時間帯になると、仕事帰りのサラリーマンたちの流れの中に彼の姿はあった。彼
2023年1月18日 09:26
「我が古の力、手に取る覚悟があるのだな?」「ああ」我の名前は妖刀・血桜。誰がいつこの名を付けたのか、もはや我でも覚えておらぬ。数多の肉を斬り、血を吸い続けた刀身に我という意識が宿った。我が行うは、ただ我を手にする者に覚悟を問い、応えれば力を貸すだけ。過去何人もの人間が我が力に溺れていった。地位ある者もいれば、庶民もいた。剣客もいれば、喧嘩すらしたことがない者もいた。男もいれば女もいた