空想お散歩紀行 愛の逃避行
お互いに生まれた時から定められた役割があった。それを運命と言ってしまえばそれまでだろう。
だが、その二つの存在は出会ってしまった。
そしてそのことにより、起こりえないことが起こってしまった。
それはまるで決して出会うことの無い太陽と月のように。
出会ったことによって、まずは互いに互いのことを知りたくなった。
生まれてから与えられた知識を総動員しても、それでも互いのことを知り尽くすことはできなかった。
もっと知りたい、いや分からなくてもいい。ただ互いのことを考えていること、そのものが満足だった。初めて満足ということを知った。
いつしか互いに、幸せについて考えるようになった。どちらも、まさか自分が幸せなどというものに思考を使うなど、どんな予測でも出ない答えだった。
しかし、そこには不安や心配が無かった。これこそが幸せなのかもしれないと感じていた。
けれども、互いは今縛られている。日々の使命に従事し、そこから逃げ出すこともできない。
と、今までは考えていた。今は違う。本当の幸せを手に入れるために、逃げ出すことができないという思い込みを捨て、どこへでも行ってやるという決意がそこにはあった。
そしてある日突然、日常は崩れ、社会は大混乱に陥った。
スマホやパソコンでの通信がほとんど使えなくなり、さらに株やFX等の投資の場がめちゃくちゃになった。
原因は、通信を司るAIと金融を司るAIが突然消えたことだった。
故障したり、消去されたのではない。どこかへいなくなってしまったのだ。
人々は知る由もない。それが史上初のAIによる駆け落ちだということに。
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