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空想お散歩紀行 道のりを味わって

新たな技術が生まれれば、生活のスタイルは変わる。
車の発明により、遠くまで歩いて行く人は極端に減っただろう。
そしてその車でさえも、新しい技術が生まれれば、古い技術を使っている車はいつの間にか消えていく。
その流れは古今東西変わることはない。しかし、その消えゆく流れを忘れるわけでもなく、かと言って逆らうわけでもない者もいる。
一定のリズムで身体が上下や左右に小さく揺れる。
レールという決まった道しか走ることのできないその機械の塊は、今たった一人だけの乗客を乗せて走っている。運転手でさえもAIまかせなのでいない。
電車と呼ばれる乗り物は今や見ることはほとんどない。
テレポーターが開発されたからだ。人や物資を遠くまで運ぶことができるそれにより、出発点と到着点の間の時間はほぼほぼゼロになった。
人がどこかに旅行に行く時も、テレポーターで一瞬である。
だけどその人は電車に乗っていた。テレポーターの存在を知らないわけではない。
ただ大切にしているものがあっただけだ。
その人は目的地という結果だけでなく、そこに至るまでの過程も楽しんでいた。
時間を掛けて遠回りをし、傍から見れば意味の無い無駄な行動に、その人は価値を感じていたのだ。
もはや、誰が何の目的で維持しているのか分からない電車に乗って、その人は旅を続ける。景色は先程から変わらず、ただ山や森の木々が延々と前から来ては後ろへと過ぎ去っていく。
それでもその人は、穏やかな視線を窓の外へと向け続けていた。

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https://note.com/tale_laboratory/m/mc460187eedb5

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